進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第四十三話

夜の帳が下り、巨大樹の森にひんやりとした冷たい夜風が吹き抜け始めた頃。

 

先程までの喧騒が嘘のように静まり返った森の広場で、俺は呆然と立ち尽くしていた。

 

周囲には、俺の「ボディガード」こと硬質化の槍くん、に貫かれ絶命した巨人たちが発する高温の蒸気が、亡霊のように白く立ち昇っては夜空へと溶けていく。

 

その蒸気越しに、月光を反射して青白く輝く特設の「クリスタル製ランウェイ」を見つめながら……ファッションショーの異様な熱狂で完全に茹で上がっていた俺の脳髄は、夜風と共に急速に冷却されていった。

 

いわゆる、猛烈な賢者タイムの到来である。

「…………何やってんだ、俺は」

ポツリと、透き通るような可憐な美少女の声が夜の森に落ちる。

 

冷静さを取り戻した途端、俺の全身からブワァッと滝のような冷や汗が噴き出した。

 

先程まで自分がノリノリで繰り広げていた一連の狂気的なイベントを客観的に振り返り、あまりの痛々しさに絶句する。

 

完全に正気じゃない。常軌を逸している、どころの騒ぎではない。

 

(巨人を観客に見立ててファッションショー? は? 頭イカれてるのか俺は?)

両手で顔を覆い、しゃがみ込みたくなる衝動を必死に堪える。

 

自分を食い殺そうと群がる人食いバケモノどもを、わざわざ硬質化の鎖で縛り付けて特等席に並べ、自作のサマーワンピースを着てウインクを飛ばす?

 

狂気の沙汰だ。壁内の調査兵団が見たら、即座に人類の敵あるいは重度の精神異常者として討伐対象に指定されるレベルの奇行である。

 

しかも、だ。

(一番前で応援してくれてるファンへのサービス? その結果が、巨人の脳髄をクリスタルの槍で物理的にぶち抜くアドリブ? ……どこの悪趣味なデスゲームの主催者だよ!)

 

思い出すだけで羞恥心で胃液が逆流しそうになる。「あーん!嬉しすぎて失神しちゃったみたい」じゃない。

 

俺が脳幹を破壊したから機能停止しただけだ。

可憐な美少女のガワを被ってアイドルの真似事をしながら、やっていることは血も涙もないスプラッターショーである。倫理観も情緒も完全にバグり散らかしている。

 

思えば、俺の精神状態は、あの忌まわしき「TS(転性)の事実」を突きつけられた日から完全におかしくなっていたのだ。

 

男のシンボルを失い、超絶美少女の肉体を受肉してしまったという受け入れ難い現実。

そこから目を逸らすための逃避行動が、「衣服作成への異常な没頭」だったのだろう。

 

ただ肌身を隠すだけなら、あの半透明のクリスタルアーマーでも良かったはずだ。

 

それなのに、葉や茎の繊維にまでこだわり、色を白く染め上げ、麦わら帽子まで完璧に編み上げる始末。挙句の果てに、人間の肉体には「食事」と「睡眠」が必要だという基本中の基本すら長らく忘れ去り、過労と飢餓で意識を失いかけて本気で死にかけるという、前代未聞のアホすぎる失態まで演じた。

 

もしあのまま餓死でもしていたら、俺の死因は「女体化して着せ替えごっこに熱中しすぎたことによる餓死」という、進撃の世界の歴史上最も不名誉でマヌケなものになっていたところだ。

 

「あぁ……クソッ……こんなの、リーシェにどう顔向けすればいいんだ……」

俺は、月明かりの下で頭を抱え、うめき声を上げた。

 

今この瞬間も、彼女は俺が人間に戻ることを信じて、壁内で必死に生き抜き、死に物狂いで訓練に励んでいるはずだ。

 

あの別れの日に見せた、涙で濡れながらも決意に満ちた凛々しい顔立ちが脳裏を過る。

 

そんな彼女の切実な思いを背負っている俺が、森の奥深くで一人、女装(物理)ファッションショーを開催してキャッキャと喜んでいたなどと、絶対に、絶対に知られるわけにはいかない。

 

一連の流れを、もし包み隠さずリーシェへの手紙として文字におこしたとすれば、こうだ。

 

・『人間に戻れました!』

・『でも何故か、超絶美少女になってました!』

・『身を隠すだけの衣服作りの筈が案外ドハマりしてしまって、食事も睡眠も忘れて危うく死にかけました!』

・『硬質化能力を使って森の巨人を観客席に縛り付けて、ファッションショーをやりました!』

・『楽しかった!』

 

……ダメだ。救いようがない。

 

完全に森の瘴気にあてられて発狂した哀れな元・巨人の手記である。

もしこんな手紙を送ろうものなら、リーシェは立体機動装置を吹かして飛んできて、俺のうなじを本気で削ぎ落としに来るかもしれない。

いや、泣きながらドン引きされるかもしれない。

多分それが一番キツい。

 

月明かりに照らされた自身の腕を見る。白く、細く、しなやかな美少女の腕。その肌を撫でる夜風が、俺の火照った羞恥心をさらに冷やしていく。

 

「…………よし」

俺は一つ、大きく深呼吸をして、誰に言うでもなく力強く頷いた。

「この事は、絶対に墓まで持っていこう」

宇宙が熱的死を迎えるその日まで、俺の魂の最深部にこの黒歴史を封印するのだ。

美しいサマーワンピースの裾をギュッと握りしめながら、俺は冷たい夜の森で、誰にも知られてはならない絶対の誓いを立てるのだった。




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