進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第四十四話

あの雪の日の別れから、私がいかにして調査兵団に保護され、壁内での生活を取り戻したか。

 

結論から言えば、壁への帰還直後に行われた兵団上層部による執拗な事情聴取は、何とか誤魔化し切ることに成功した。

 

「立体機動装置のガスが尽きかけ、巨大樹の森の高所に身を隠していた。雨水と僅かな木の実、動物の肉で飢えを凌ぎ、巨人が冬の寒さで不活性化した隙を突いて移動を繰り返した」

 

そんな、今思えば穴だらけの作り話を、私は一切の表情を変えることなく淡々と語り通した。

 

憲兵団の連中は酷く疑り深い目を向けてきたが、私がアトラスに出会う前から兵団内でそれなりに優秀な成績を収めていたこと、そして何より「単独で三ヶ月間壁外を生き延びた」という圧倒的な事実と生還の熱狂が、上層部を無理やり納得させる後押しとなったのだろう。

 

そうして日常に戻った私は、アトラスとの特訓――そして自分でも説明のつかないあの劇的な「覚醒」を経た肉体を駆使し、壁外調査の最前線で文字通りの大活躍を見せるようになった。

 

私の中の時間は、あの日、彼に背を向けて歩き出した雪の森からずっと止まったままだ。

 

壁の中の「鳥籠の平和」も、兵団の食堂で出される味の薄いスープも、何もかもが色褪せて感じられた。

 

アトラスが創り出してくれたお鍋で作る熱々の煮込み料理や、クリスタルの暖炉の温もり、そして何より、あの優しくて不器用な彼の声が聞けない日々。

 

その耐え難いストレスと底知れぬ喪失感は、私の表向きの表情から一切の愛想を奪い去った。

 

今の私は、兵団内でも「氷の刃」と噂されるほど、常に冷徹で鋭い視線を周囲に向け、ただ黙々と巨人を斬り伏せる戦闘マシーンとして絶対的な地位を確固たるものとしていた。

 

そして、彼との別れからおよそ九ヶ月が過ぎた、843年の秋頃。

 

壁外調査の最中、私の小隊は最悪の事態に見舞われた。

 

「前方に巨人の群れ! 奇行種複数を含む、その数およそ……二十四体!!」

 

馬上で叫ぶ部下の声が、恐怖で裏返っていた。

 

無理もない。

 

今回、私の小隊に配属された兵士は、前回の調査で壊滅した班の穴埋めとして補充された「全員が新兵」という絶望的な編成だった。

 

大小様々な5メートル級から15メートル級の群れが、一斉に私たちを取り囲むように湧き出してきたのだ。

 

二十四体。精鋭班が三個小隊集まっても全滅を覚悟する数だ。新兵たちは馬上で完全にパニックに陥り、剣を抜く手すらガタガタと震わせていた。

 

「総員、現時刻をもって作戦を破棄。全速力で後方のエルヴィンたちの本隊へ合流しなさい」

 

私は前方を睨みつけたまま、一切の感情を交えずに冷徹に言い放った。

 

「ば、馬鹿なことを言わないでくださいリーシェ班長! 我々だけを逃がして、あなた一人が殿(しんがり)を務めるおつもりですか!?」

 

「二十四体ですよ!? いくら班長でも死にます!!」

後ろから悲痛な制止の声が上がる。彼らにとって、これは自己犠牲の美談に見えるのだろう。

 

だが、私は彼らの声を完全に無視して、愛馬の腹を軽く蹴った。

「足手まといなのよ。巻き込まれたくなければ、一秒でも早くここから消えなさい」

 

凍りつくような低い声で一喝すると、新兵たちはビクッと肩を跳ねさせ、涙目で馬首を返して後退していった。

 

彼らが安全圏まで遠ざかったのを確認し、私は一人、迫り来る二十四体の巨人の壁に向かってブレードを抜いた。

カチャリ、と。

 

偽装された鋼の奥で、アトラスの遺してくれた「絶対に折れないクリスタル」が密かに共鳴する。

 

(アトラス。私が死ぬわけないじゃない。だって、あなたと約束したんだから)

 

シュガァァァァァンッ!!

限界まで圧縮された高圧ガスが、鼓膜を破るような爆音と共に私を空高く打ち上げた。

 

その瞬間、世界が切り替わる。

 

風の音も、巨人の咆哮も、舞い上がる砂埃も。私の視界に入るすべての情報が、極限までスローモーションに引き伸ばされていく。

 

脳内で、二十四体の巨人の配置と重心、筋肉の収縮を瞬時に計算し、「最適解のルート」を弾き出す。

 

「一」

眼前に迫った10メートル級の顔面にアンカーを撃ち込み、ガスの噴射で一気に加速。すれ違いざまにうなじを削ぎ落とす。

 

血飛沫が舞うよりも早く、私はその崩れ落ちる巨人の背中を蹴り台にして再跳躍した。

 

「二、三、四」

空中で独楽のように回転しながら、左右から掴みかかってきた7メートル級二体の腕を切り飛ばし、その勢いのまま両者のうなじを連続で抉る。

 

さらに真下で口を開けていた奇行種の脳天へアンカーを突き立て、振り子の要領で背後へ回り込み一刀両断。

一切の無駄がない。私の身体は、私の思考と完全に同調し、ミリ単位の狂いもなく空を舞う。

 

(アトラスが作ってくれた、このガスボンベの出力。そして、絶対に刃こぼれしないブレード。最高だわ……!)

彼が施してくれた反則級の装備と、彼との共同生活で得た理外の身体能力。

 

それらが融合した今の私は、巨人にとっての「災害」そのものだった。

 

15メートル級の巨腕を紙一重で躱し、その腕の上を駆け上がりながら関節を次々と破壊。

 

うなじを切り裂いた直後、噴き出す高温の蒸気を隠れ蓑にして次の標的の死角へと潜り込む。

 

銀色の刃が閃くたびに、巨大な肉塊がドズン、ドズンと地響きを立てて倒れ伏していく。

 

返り血を浴びる暇すらない。

 

私はただ、彼との訓練を思い出すように、縦横無尽に飛び回った。

 

息一つ乱れない。ただ静かな、冷え切った殺意だけが私の全身を支配していた。

 

──そして、数分後。

「……二十四」

最後の一体であった12メートル級のうなじを深く切り裂き、私はワイヤーを巻き取って、待機させていた自分の愛馬の鞍の上へと、ふわりと音もなく着地した。

 

シューゥゥゥ……

 

二十四体の巨人が発する凄まじい熱量の蒸気が立ち込め、視界を白く染め上げている。

 

私はブレードについた巨人の血を軽く振り払い、カチャリと鞘に収めた。

 

かすり傷一つ、服の乱れ一つない。

「さてと……」

私が手綱を引き、ゆっくりと後方の本隊の方角へ振り返ると。

 

「「「…………ぇ?」」」

数十メートル先。逃げろと命令したはずなのに、途中で足を止め、私の戦闘を遠巻きに見届けていた新兵たちが、全員揃って口をあんぐりと開け、石像のように固まっていた。

 

その顔には「人間ではないバケモノを見てしまった」というような、純粋な愕然と畏怖が張り付いている。

 

(ふふっ……なにあの顔。ちょっと面白すぎるんだけど)

氷の女王としての威厳を保とうと冷徹な表情を作っていた私だったが、あまりにも見事な全員揃っての「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」に、思わず頬の筋肉がピクッと痙攣した。

 

危ない。うっかり声を出して吹き出してしまいそうになるのを、奥歯を強く噛み締めて必死に堪える。

 

「何をしているの。さっさと陣形に戻りなさい」

私はわざと低い声で冷たく言い放ち、馬を歩き出させた。

 

内心では「ねぇアトラス見てた!? 私すっごくかっこよくなかった!? 今の私、笑うの我慢してて超えらくない!?」と、彼に特大の称賛を要求して飛びつきたい気持ちでいっぱいだったのに。

 

 

 

誰にも見せない甘えた感情を胸の奥深くに隠し、私は再び「冷徹なリーシェ班長」の仮面を被って、蒸気と血の匂いが立ち込める戦場を颯爽と駆け抜けていった。

 

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