進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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エルヴィン視点です。
視点切り替えが不快な方は飛ばしてもらって大丈夫です。


第四十六話

高く澄んだ秋空に、一筋の赤い煙が立ち昇るのが見えた。

緊急事態を知らせる救援の信煙弾だ。

 

「総員、進路変更! 煙の上がる方角へ急行せよ!」

私の号令と共に、本隊が即座に形を変え、馬の群れが一斉に土煙を上げて地を蹴った。

 

本隊の兵士たちの顔には、一様に焦燥と緊張が浮かんでいる。無理もない。

 

 

あの方角に展開しているのは、前回の遠征で欠員が出た班の穴埋めとして、新兵ばかりで編成された部隊だからだ。

 

 

巨人の群れに遭遇すれば、ひとたまりもないだろう。

だが。

(……確かあの方角は、リーシェ班長が率いる部隊が居るはずだ)

 

そう認識した瞬間、私の胃の腑が、背後の部下たちとは全く別の理由でキリキリと痛みを主張し始めた。

 

 

彼女─────リーシェ・ベニアの存在は、現在の調査兵団において最大の「イレギュラー」である。

 

 

今年の初頭、壁外の魔境である巨大樹の森で、三ヶ月もの遭難を経て無傷で生還を果たした。

 

報告書を何度読み返しても、この時点ですでに常識では考えられない。

 

だが、ここからが本番なのだ。

 

壁内に帰還した後の彼女は、まるで何かの枷が外れたかのように、人知を超えた戦闘力を発揮し始めた。

 

立体機動の訓練では、重力と遠心力の法則を無視したような極限の挙動で、常にトップの成績を維持。

 

 

いざ壁外調査に出れば、いかなる巨人の群れに遭遇しようとも、一切の表情を変えることなく単機で突っ込み、常軌を逸した速度と精度でうなじを削ぎ落としていく。

 

 

現在、調査兵団内にあの超絶的な動きを模倣できる者は一人としていない。

 

 

武家の家系や特別な戦闘訓練を受けたというわけでもなく(少なくとも彼女の経歴にそのような記述はない)、ただ唐突に突然変異のように覚醒した生きた伝説。

 

最近では、その冷徹無比な戦いぶりと一切の妥協を許さない鋭い眼光から、兵士たちの間で畏敬の念を込めて『鬼神リーシェ』という二つ名が裏で囁かれているほどだ。

 

(……嫌な予感がする)

彼女の班の窮地を心配するどころか、彼女がまた何か「報告書に書けないような規格外の事態」を引き起こしているのではないか。

 

指揮官としての現実的な頭痛を覚えながら、私は馬を走らせた。

 

やがて、廃墟となった市街地跡が視界に入った瞬間。

私のその嫌な予感は、最悪の形で的中することになる。

 

「な……なんだ、これは……!?」

本隊の兵士たちが次々と手綱を引き、絶句して馬の足を止めた。

 

そこには、地平を覆い尽くさんばかりの無数の巨人の死骸が転がり、傷口からモウモウと凄まじい熱量の蒸気を吹き上げていた。

 

視界が白く濁るほどの蒸気の海。一体、何体の巨人が倒されているというのか。

 

そして、その惨状の中心。

 

返り血ひとつ浴びず、乱れのない制服姿で愛馬に跨る小柄な女性兵士の姿があった。

 

リーシェ・ベニアだ。

 

私は深々と溜息を吐き、静かに馬を進み出た。

 

「……また君か、リーシェ班長……」

指揮官としての威厳を保とうとしたものの、口から出たのは隠しきれない疲労と呆れを含んだ声だった。

 

「何か問題が?」

当の彼女は、さも『私は何も悪いことはしていません』と言わんばかりの、すまし顔で平然と返答してきた。

 

問題しかない。

 

この異常な光景のせいで、後方で待機していた彼女の部下(新兵たち)が、完全に魂の抜けたような顔で固まっているではないか。

 

「……君が無双する度、新兵達が無茶をしだす。自分たちもやれると錯覚してしまうからな」

 

私は眉間を抑えながら、痛む胃を宥めるように言葉を紡ぐ。

「状況的に単独で殿(しんがり)を務めたのは仕方ないとは言え……はぁ……この惨状を、どう上に報告したものか……」

「ありのままを報告すれば良いのでは」

彼女は氷のように冷たい無表情のまま、即答した。

 

それができれば苦労はしないのだ。私は事実確認のため、彼女の背後で石像のように固まっている新兵の一人を指差した。

 

「そこの君。遭遇した巨人は、何体いた」

「は! はい!!」

新兵は弾かれたように背筋を伸ばし、裏返った大声で報告した。

「遭遇した巨人は、3メートル級から15メートル級を含め、24体であります!!」

その数字が響き渡った瞬間、背後に控えていた本隊の兵士たちから「ひぃっ!」「に、二十四だと……!?」という悲鳴にも似たどよめきが爆発した。

 

当たり前だ。

 

一個小隊が全滅してもおかしくない大群を、一人の兵士が数分で、しかも無傷で全滅させたなど、人類の歴史上聞いたことがない。

 

私は、ズキズキと痛む頭を抱えそうになるのを堪え、冷徹な仮面を被り続ける部下へと顔を向けた。

 

「誰がこんなふざけた戦績を信じる」

王政府の役人や兵団上層部に『リーシェ・ベニア班長が単独で二十四体を討伐しました』と提出したところで、虚偽報告か集団幻覚を疑われるのがオチである。

 

私の痛烈な、しかし心からのツッコミに対し。

 

彼女は冷徹な表情を一切崩すことなく……ただほんの僅かに気まずそうに、そっと私から視線を逸らした。

(……自覚はあるのか)

これほどの超人でありながら、どこか謎めいた空白の三ヶ月を抱える彼女。

 

『鬼神』を率いる新米団長としての私の苦労は、まだまだ果てしなく続きそうであった。

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