進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第四十八話

844年3月初旬

 

調査兵団本部、上層部作戦会議室

 

重厚なオーク材の円卓を囲み、次回の壁外調査のルートや予算についての退屈な議論が交わされていたその時。

 

バンッ!! と乱暴に扉が開かれ、顔面を土気色にした伝令兵が転がり込むように部屋へ飛び込んできた。

 

「ほ、報告しますッ!!」

 

「なんだ騒々しい。会議中だぞ」

幹部の一人が咎めるが、伝令兵は息を切り、絶望的な悲鳴のような声を上げた。

 

「『鬼神』……リーシェ・ベニア班長が、立体機動装置のワイヤーを本部の外壁に打ち込み、この会議室の扉に向かって一直線にカッ飛んできています!! 目が……完全に据わってます!!」

その報告が会議室に響き渡った瞬間。

 

先程までの退屈な空気は一瞬にして凍りつき、直後、爆発的なパニックへと変貌した。

 

「な、なんだとォッ!?」

「誰だ!! 誰か彼女の機嫌を損ねるような真似をした奴はいるか!?」

「知らん! そもそも最近の彼女はずっと氷点下だろうが! ついに我々の無能さに愛想を尽かして、物理的に粛清(クーデター)しに来たんだ!!」

「ひぃぃっ! 武器を取れ! 迎撃態勢だ!」

「馬鹿野郎、やめろ! 相手は単独で24体の巨人をミンチにするバケモノだぞ! 刃を向けた瞬間に我々のうなじが削がれるわ!!」

 

百戦錬磨のはずの調査兵団の幹部や分隊長たちが、椅子を蹴倒し、青ざめた顔で右往左往する。

 

窓の外からは、シュガァァァンッ!! という、親の顔より聞いた(しかし今は死神の鎌の音にしか聞こえない)高圧ガスの噴射音が猛スピードで近づいてきていた。

 

ガチャンッ!

 

廊下の窓ガラスが割れ、硬いブーツが床に着地する重い音が響く。

 

そして、チャキ……と、ブレードの刃が抜かれるような、背筋の凍る金属音が扉の向こうから聞こえた。

 

(((終わった……!!)))

 

会議室にいた数十人の幹部と同僚たちは、いつ襲いかかられても「せめて抵抗の姿勢を見せて死ぬ」ために、震える手で腰のブレードの柄をガッチリと握りしめた。

 

上座に座るエルヴィン団長でさえ、額に脂汗を浮かべて胃のあたりを強く押さえている。

 

そして────運命の扉が、木っ端微塵に弾け飛んだ。

 

──────ドゴォォォォンッ!!!

 

「ヒィッ!?」

「た、助け……ッ!」

蝶番ごと吹き飛んだ重厚なオーク材の扉が円卓の中央に激突し、もうもうと土煙が舞い上がる。

 

その粉塵をゆっくりと払い除け、死神──否、冷徹なる『鬼神』リーシェが、氷のように冷たいアイスブルーの瞳で我々を見据えながら入室してきた。

 

 

誰もが「殺される」と目を閉じ、死を覚悟したその時。

 

 

彼女は、地を這うような、絶対に否とは言わせない凄みを含んだ声で言い放った。

 

「──ウォール・マリア外に存在する、『巨大樹の森』深部への壁外調査を提案します。」

……え?

 

会議室に、間の抜けた沈黙が落ちる。

 

粛清でもクーデターでもなく、壁外調査の提案? しかも、あの魔境中の魔境である「巨大樹の森」への?

 

通常であれば、綿密な計画と予算のすり合わせが必要な重大案件である。一介の班長が扉を蹴破って提案して通るようなものではない。

 

しかし、今の我々の首根っこは、完全にこの小柄な鬼神に握り潰される寸前だった。

 

提案を却下すれば、次こそ本当に物理的な首が飛ぶ。会議室の全員が、完全に同じ思考に行き着いた。

 

幹部たちは互いのひきつった顔をコンマ一秒で見合わせると、全員が揃って、ガクガクと首を縦に激しく振った。

 

「しょ、承知した……! 即座に編成の準備に取り掛からせよう……っ!」

「と、当然の提案だ! 我々もそうすべきだと、ちょうど話し合っていたところだとも! なぁ!?」

「ええ! 全会一致の可決です!! リーシェ班長、素晴らしい提案に心臓を捧げます!!」

恐怖で声が裏返りながらも、幹部たちは必死の作り笑いを浮かべて拍手すら送り始めた。

 

我々のその異常な警戒態勢と媚びへつらいを、彼女は全く気にしないフリ(あるいは本当に眼中にない様子)で、内心満足げに小さく頷いた。

 

「ええ、では、一ヶ月後の決行に向けて準備を」

それだけ言い残すと、彼女は用は済んだとばかりに踵を返し、破壊された扉の残骸を踏み越えて颯爽と立ち去っていった。

 

遠ざかる足音。

 

静まり返った会議室で、カラン……と、誰かの手から滑り落ちたブレードの柄が床に落ちる音が響く。

 

「……助かった……のか……?」

「あぁ……寿命が十年は縮んだ……」

全員がその場にへたり込み、安堵の深い溜息を吐き出す中。

 

上座の方から「……胃薬が、足りない……」という、エルヴィン団長の力ない呻き声が聞こえ、誰かが慌てて医務室へと駆け出していくのだった。

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