進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第五十話

ウォール・マリア南端、シガンシナ区の巨大な門を抜け、南東の方角へと広大な平原を低速で行軍すること約十分程。

 

 

うららかな春の陽気に包まれた壁外の大地は、どこまでも青々とした草花が波打つように揺れ、一見すれば平和な牧歌的風景が広がっていた。

 

 

総勢三百名というかつてない大部隊による行軍は、兵士たちの心に強烈な安心感をもたらしていたのだろう。

 

 

陣形の中からは、緊張感を欠いた他愛のない談笑や、久しぶりの壁外の空気を楽しむようなざわめきすら微かに聞こえてきていた。

 

 

だが、人類の絶対的脅威は、常にそんな弛緩した空気を嘲笑うかのように現れる。

 

 

「───前方より巨人接近!! 距離四百! 大小混成、その数およそ十!!」

 

 

索敵班が放った赤の信煙弾が春の空を切り裂き、前方の地平線から、土煙を上げてこちらへ向かってくる異形の群れが姿を現した。

 

 

3メートル級の小型から、15メートル級の大型まで、無秩序に群れを成してこちらへ歩みを進めてくる。

 

「各班、戦闘態勢ッ! 迎撃班は前に出ろ!!」

 

「待ちなさい」

怒号を上げて剣を抜こうとした前衛部隊の兵士たちを、私は馬を寄せて冷たく制止した。

 

「迎撃は必要ないわ。あなた達は陣形を崩さず、その場で待機」

「し、しかしリーシェ班長! 相手は十体も───」

 

 

反論しようとした兵士の顔を、私は氷のように冷徹な瞳で一瞥し、強制的に黙らせる。

 

 

 

時は少し遡る

 

 

あの上層部会議室の扉を蹴り破った「直談判(クーデター未遂)」から数日後

 

 

 

私はもう一度、自身が組み上げた最終的な編成と補給計画の報告書を直接届けるため、彼らの会議室を訪れていた。

 

 

 

新しい扉が付け直されたばかりの会議室には、私が入室した途端に空気が凍りつき、幹部たちはまた扉を破壊されるのではないかとガタガタと震えていた。

 

 

 

そんな彼らに向けて、私は一枚の報告書を叩きつけ、絶対の「約束」を交わしたのだ。

 

 

『この過去最大規模の編成と予算案を承諾してくれるなら、本作戦における戦闘はすべて、私が単独で引き受けるわ』

 

『な……なんだと?』

 

『私が死なない限り、今回の遠征における兵士の死者は”ゼロ”よ。

……さぁ、この場で、今すぐ決めなさい』

 

 

私は腰のブレードの柄にそっと手を添え、まるで死神のような微笑みを浮かべて彼らを見下ろした。

 

 

もし断れば、この場で全員のうなじを削ぐ。

 

そんな無言の圧力を察知した幹部たちは、文字通り顔面を蒼白にして椅子から転げ落ちんばかりに身を乗り出した。

 

 

『わ、分かった! 承諾! 承諾する!! だから頼む、剣から手を離してくれェッ!!』

 

 

『全権を君に委ねる! 死者ゼロの公約、絶対に守ってくれよぉッ!』

 

 

必死に命乞いをするように、震える手で承認のハンコを連打する幹部たち。

 

 

私は彼らのその滑稽な姿を見下ろしながら、冷徹な表情を一切崩さずに一礼した。

 

 

『……では、失礼するわ』

────という事で

 

私はあの時の約束通り、三百人の兵士たちには一切出撃させず、前方に現れた十体の巨人の群れを、ただ一人で片付ける義務があるのだ。

 

 

「私の邪魔はしないで」

 

 

言い残すと同時に、私は愛馬の鞍を力強く蹴り上げ、空中へと身を躍らせた。

 

カチャリッ!!

 

 

両手に握られたブレードのトリガーを引き絞る。

 

 

──────シュガァァァァァァンッ!!!

 

 

アトラスの遺してくれた偽装型・高圧蒸気ガスボンベが、凄まじい爆音と共に私を天高く打ち上げた。

 

 

圧倒的な推進力。

 

背中から押し出される暴力的なまでの加速感が、私の全身の血液を沸騰させ、極限の集中状態へと導いていく。

 

 

視界に映るすべての風景が、再びスローモーションへと引き伸ばされた。

 

 

(十体。配置、距離、重心移動の予測。ルート構築、完了)

 

 

私は空中で身を捻りながら、先頭を歩いていた15メートル級の巨人の顔面にアンカーを撃ち込んだ。

 

 

ワイヤーの巻き取り機能が悲鳴を上げるほどの速度で急接近し、巨人が私を払いのけようと巨大な腕を振り上げるよりも早く、そのうなじを綺麗に抉り取る。

 

 

「一」

 

一切の減速なし。

 

 

巨人の肉を斬り裂いた刃は、アトラスのクリスタルコーティングのおかげで僅かな抵抗すら感じさせず、バターを切るように滑らかに振り抜かれる。

 

 

噴き出す血飛沫をガス噴射で吹き飛ばし、私は崩れ落ちる15メートル級の肩を蹴って、次なる標的へ。

 

 

「二、三」

右手にいた7メートル級のうなじを削ぎ、その反動を利用して左手の10メートル級の延髄へ刃を突き立てる。

 

 

(やっぱり、アトラスの作ってくれた立体機動装置とブレードはすごい……!)

 

私がどれだけ理外の筋力で強引な機動を行おうとも、ワイヤーは決して切れず、ガスは無限の出力で私に応え、刃は一切の刃こぼれを起こさない。

 

 

この反則級の装備と、常軌を逸した私の肉体。

 

 

二つが合わさった時、無垢の巨人などただの動く的(マト)でしかない。

 

「四、五、六、七」

空中に描かれる銀色の閃光。

 

 

私は一度も地面に足をつくことなく、巨人の群れの間をピンボールのように跳ね回り、次々と致命の一撃を叩き込んでいく。

 

 

巨人の手や口が私を捕らえようと迫るが、そのすべてがコンマ数秒遅い。

 

 

「八、九……そして、十!!」

 

最後の一体、逃げ出そうと背を向けた5メートル級のうなじを脳天から真っ二つに切り裂き、私は空中でクルリと身を翻した。

 

 

余剰なガスを噴射して落下速度を殺し、ふわりと、何事もなかったかのように自身の愛馬の背中へと着地する。

 

 

──────ドゴォォォォン……ッ!!

 

 

ズズズンッ……!!

私の着地とほぼ同時に、十体の巨人が一斉にバランスを崩し、地響きを立てて平原へと倒れ伏した。

 

 

直後、傷口から凄まじい熱量の蒸気が吹き上がり、春の青空を白く染め上げていく。

 

 

一体につき一秒。

 

合計十秒。

 

それが、私が単機で十体の群れを完全殲滅するのに要した時間だった。

 

 

ブレードを振って刃についた血を払い、カチャリと鞘に収める。

 

 

呼吸は全く乱れていないし、制服に泥一つ跳ねていない。

 

 

「……進路、クリアよ。行軍を再開しなさい」

私は振り返り、後方で待機していた本隊に向けて、冷徹な声で指示を出した。

 

 

「…………」

「…………」

しかし、部隊からの返答はない。

 

 

いや、返答できないのだ。

 

 

三百人の兵士たちは、手綱を握りしめたまま、信じられないもの───文字通り、人間の皮を被った化け物を見るような目で、私を凝視して完全に固まっていた。

 

 

エルヴィン団長でさえ、僅かに目を見開き、息を呑んで沈黙している。

 

 

監視役として私を見張っていた屈強な兵士たちに至っては、恐怖でガタガタと顎を震わせ、今にも馬から転げ落ちそうになっていた。

 

 

さっきまで、あれほど談笑の声で騒がしかった陣形。

 

 

それが今は、嘘のように静まり返っている。

 

 

何十台もの荷馬車も、三百頭の馬も、ピタリと動きを止め、ただ風に揺れる平原の草の擦れる音と、緊張に強張った馬たちの荒い呼吸音だけが、不気味なほど鮮明に耳に届いていた。

 

 

(……ちょっと、やりすぎたかしら)

 

これではまるで、私の方が人類の脅威である。

 

 

だが、彼らに「私が死なない限り死者はゼロ」と約束した以上、これから先、何度巨人の群れが現れようとも、私がこの光景を繰り返すしかないのだ。

 

 

私は冷たい鬼神の仮面をピタリと貼り付けたまま、呆然とする三百名の兵士たちを従え、さらなる深部──愛しい彼が待つ『巨大樹の森』へと、静かに馬を進み出させた。

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