進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第五十五話
844年4月10日
アトラスとの、あの雪の巨大樹の森での身を裂かれるような別離から、実に一年と三ヶ月の月日が流れていた。
第22回壁外調査、二日目の朝
シガンシナ区を出発し、昨夜の異様な野営を越えた約三百名の調査兵団は、太陽が高く昇り始めた荒野を南東へと進んでいた。
行軍の先頭を往く私の胸には、冷徹な「鬼神」の仮面の下で、かつてないほどの激しい焦燥と、破裂しそうなほどの熱い期待が渦巻いていた。
周囲の兵士たちは相変わらず私を恐れ、索敵班の報告以外は誰も言葉を発しようとしない。
彼らにとって私は、人類の希望などではなく、ただ巨人を蹂躙するためだけに存在する歩く災害なのだ。
それでいい。彼らはただ、私とアトラスの再会を見届けるための「背景」であればいい。
昼前
うねるような平原の彼方に、天を衝くような巨大な木々の壁が姿を現した。
『巨大樹の森』
人類にとっては死の恐怖を象徴する魔境であり、私にとっては、愛しい彼と三ヶ月間を共に過ごした、この世界で唯一の帰るべき「家」だ。
「……到着したわ」
私は愛馬の歩みを緩め、森の外周で陣形を停止させた。
「全軍、待機」と短く命じ、意気揚々と森の中へ突入しようと手綱を握り直した、その時だった。
ズシン……ッ、ズシン……ッ
森の奥深くから、重厚な、それでいてひどく規則的な足音が響いてきた。
無垢の巨人のような、本能のままに大地を這いずるような不規則な足音ではない。
明確な意志と目的を持ち、大地を確実に踏みしめる、知性を感じさせる重低音。
「……っ!」
周囲の兵士たちが一斉に息を呑み、恐怖に顔を引き攣らせる気配がした。
無理もない。森の入り口の薄暗がりから、15メートル級の巨人がその姿を現したのだから。
私は愛馬から素早く飛び降り、土煙を上げて近づいてくるその巨大な影を、真っ直ぐに見据えた。
数十秒後
木々の隙間から、その全貌があらわになる。
中性的な、彫刻のように端正な顔立ち。
肩にかかる漆黒の髪。そして、一切の淀みがない、夜空のように深く澄んだアイスブルーの瞳。
「アトラス……!」
私の口から、一年三ヶ月ぶりに彼を呼ぶ声が漏れた。
彼は立ち止まり、私、そして私の背後に展開する三百名の兵士たちを交互に見つめると、巨人の口を微かに動かした。
『……リーシェ、久しぶりだね。どうしたんだい、こんなにお仲間を連れてきて』
森の空気を震わせる、重く、けれどどこまでも優しいあの声。
その声を耳にした瞬間、私の中で張り詰めていた「氷の鬼神」という分厚い仮面が、音を立てて完全に崩れ去った。
「遅い……ッ! 遅いから、私が迎えに来たのよ!!」
気づけば、私は三百人の部下やエルヴィン団長の視線など完全にそっちのけで、駆け出し、彼の巨大な足の甲にすがりついて泣き喚いていた。
調査兵団の冷徹な班長の姿など、そこには欠片もなかった。ただの、恋人に待ちぼうけを食らわされた、我儘でみっともない一人の女だった。
「早くしてって言ったよね!? 一年と三ヶ月も待ったのに! なんで、なんでまだ巨人のままなのよ!! 私を納得させるための、ただの嘘だったの!?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で責め立てると、アトラスは困ったように、酷く気まずそうな表情で巨大な視線を泳がせた。
『いや、その、なんだ……嘘じゃない
人間には、戻れるようになったんだ……
でも、その……』
歯切れが悪く、もごもごと口ごもる彼。
何か、私に言えない重大な問題──たとえば、人間には戻れたが、寿命が残りわずかだとか、身体の一部が欠損しているとか、そういった悲劇的な理由があるのだろうか。
「今すぐ人間になって!」
私は、彼がまた私から離れていくような気がして、半ばパニックになりながら腰のブレードを引き抜いた。
「今すぐ人間の姿を見せて! じゃないと、ここで自分の首を斬るから!!」
私は、絶対に刃こぼれしないその銀色の刃を、自身の白い首筋にピタリと押し当てた。
「ひぃぃっ!?」と、背後で幹部たちが一斉に悲鳴を上げるのが聞こえたが、知ったことではない。
『わ……! 分かった! 今すぐ人間になるから、落ち着けリーシェ!! 刃を下ろすんだ!!』
私の常軌を逸した脅迫に、アトラスはかつてないほど慌てふためき、両手を振って私を諭した。
そして、彼が深い溜息をついた直後。
─────シュウゥゥゥゥゥゥッ……!!
15メートルの巨大なうなじから、凄まじい勢いで超高温の蒸気が噴き出し始めた。
分厚い肉の鎧が音を立てて崩壊し、白い霧となって森の空気を満たしていく。
(……どんな姿だろう)
私は、首に当てていたブレードを下ろし、立ち昇る蒸気の向こう側を瞬きもせずに見つめた。
歴戦の戦士のような、傷だらけの屈強な男だろうか。
それとも、あの巨人体の中性的な顔立ちに似た、優しげで線の細い青年だろうか。
どちらにせよ、私が彼を愛することに変わりはない。
やがて、蒸気の中から一つの影が飛び出し、タンッ……という軽やかな音と共に、私の目の前の地面へと着地した。
ゆっくりと、白い霧が晴れていく。
「……え?」
私の口から、間の抜けた声が漏れた。
そこに立っていたのは、私の予想していた「男性」の姿ではなかった。
真っ白な、陽光を透かすような薄手のワンピース。
肩甲骨の辺りまで流れる、絹糸のように艶やかな漆黒の長い髪。
顔のパーツは、まるで神が黄金比を計算し尽くして配置したかのような完璧な美しさ。
長く濃いまつ毛の奥で揺れるアイスブルーの瞳は、どこか憂いを帯びたミステリアスな雰囲気を醸し出している。
身長は170センチほど。
女性としてはかなり背が高い部類だが、巨人体にあった鋼のような筋肉は必要最低限のしなやかなインナーマッスルへと削ぎ落とされており、全体的なフォルムは柔らかな曲線に支配されていた。
そして何より───その純白のワンピースの胸元には、自己主張しすぎない絶妙なサイズの「確かな膨らみ」が存在しており、どうしようもなく、残酷なまでに、彼女(彼)が「女性」であることを主張していた。
控えめに言っても、国を二、三は傾けるほどの極上の『超絶美少女』が、そこに立っていた。
「…………私も、まさかこうなるとは思わなかったんだ……」
美少女──アトラスは、居心地が悪そうにワンピースの裾をギュッと握りしめ、視線を足元へと落とした。
その恥じらいに揺れる瞳。
頬をほんのりと赤く染めたその仕草は、ただでさえ圧倒的な美貌と相まって、周囲の空気を狂わせるほど扇情的な雰囲気を強烈に撒き散らしていた。
私は、完全に思考が停止したまま、ただただ、目の前の『彼』の姿を上から下まで、穴が開くほど見つめ続けた。
あの、重低音で私を優しく包み込んでくれた、巨大で頼もしい彼が。
今は、私よりも少し背が高いだけの、とてつもなく美しい少女の姿で、恥ずかしそうに身をよじっている。
……ダメだ。
頭の芯が痺れるような感覚と共に、私の中の何かが、完全に別の方向へと振り切れた。
(……えっろ……)
鬼神としての威厳も、涙の再会の感動も、すべてが吹っ飛んだ。
私は、ただその一言だけを、心の中で深く、深く呟いていた。
感動の再会ですね!
次回更新については、少し日数を空けさせて下さいm(_ _)m