進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第五十九話

正午

 

 

うららかな春の陽光が、巨大樹の森の入り口を煌びやかに照らし出していた。

 

 

 

三百人という調査兵団の精鋭たちがズラリと並び、固唾を飲んで見守るそのド真ん中。

 

 

 

俺は今、自身の生み出した最強にして最愛の人であるリーシェ・ベニアに、正面からガッチリと抱きすくめられていた。

(……し、死ぬほど恥ずかしい……っ!!)

 

 

 

頭の中は完全にパニック状態だった。

 

 

ただでさえ「実は超絶美少女になっちゃってました」という特大の黒歴史をカミングアウトした直後だというのに、

 

彼女はそれを気にするどころか、「抱かせろ」宣言からの一切の躊躇なく俺の胸にダイブしてきたのだ。

 

 

 

柔らかい金髪が顎をくすぐり、彼女の体温が薄手のサマーワンピース越しに直に伝わってくる。

 

 

 

俺は、文字通り三百人の兵士にガン見されているこの公開処刑じみた羞恥プレイをなんとか誤魔化そうと、視線を泳がせた。

 

 

 

そして、部隊の先頭で完全に石像と化し、胃のあたりを力強く押さえている金髪の偉丈夫──おそらく彼が、エルヴィン・スミスその人だろう──に向けて、引きつった笑みを浮かべながら話しかけた。

 

 

「あっ……あの、リーシェを安全にここまで連れてきて頂いて、本当にありがとうございます……」

 

 

我ながら、声が上ずっていた。

 

 

 

人類の希望である指揮官に向かって、こんな美少女の姿でペコペコと頭を下げる巨人がかつていただろうか。

 

 

いや、いない。

 

 

「……ほら……リーシェ……皆さんが見てるから、そろそろ離れて……?」

 

 

俺は周囲の視線から逃れるように、胸元に顔を埋めているリーシェの耳元へと顔を寄せ、こそこそと小声で問いかけた。

 

 

俺の甘く(なってしまった)吐息が彼女の尖った耳の裏にかかった瞬間、リーシェの華奢な肩がビクッと大きく跳ねたのが分かった。

 

 

よし、これで冷静になって離れてくれるはずだ。

 

 

 

そう思い、俺は彼女の背中に回していた手を彼女の肩口に移動させ、そっと引き剥がそうと力を込めた。

 

 

……が

(……え? 嘘だろ、全っ然動かないんだけど!?)

 

冗談ではない。

 

 

現在の俺の肉体は、外見こそ華奢な美少女だが、ベースはあの80メートルの巨木を軽々と担ぎ上げていた筋肉を圧縮したものだ。

 

 

 

人間基準で言えば、間違いなく最上位クラスの理外の筋力を誇っているはずなのだ。

 

 

 

にも関わらず、俺の腰と背中をホールドするリーシェの腕は、まるで油圧式の万力のようにビクともしない。

 

 

 

俺とパスが繋がってリミッターが外れたその彼女が、俺への執着心と愛情だけでフルパワーを発揮しているのだ。

 

 

 

力任せに引き剥がそうとすれば、最悪の場合、俺の背骨か彼女の腕のどちらかがへし折れる。

 

 

「……アトラス成分補給中……

……にしても……すっごく、めっちゃ良い匂い……スンスン……」

 

引き剥がすのを諦めた俺の耳に、リーシェの完全に理性を溶かしきった声が届いた。

 

 

 

彼女は俺の首筋に顔を擦り寄せながら、犬のように鼻を鳴らして俺の匂いを嗅ぎまくっている。

 

 

(このスケベ女め……! 調査兵団三百人の公衆の面前で、一体何を言ってんだ!?)

 

 

ただでさえ美少女受肉のせいでフェロモン過多になっている自覚はあるのに、それを真正面から吸い込まれては、俺の羞恥心は限界突破寸前だった。

 

 

とその時

 

 

ちゅるん、と。

 

 

俺の、白く無防備に晒された首筋に、生温かく、ひんやりとした柔らかな感触が這った。

 

 

(───ちょいっ!?)

この女、今、俺の首筋を舐めやがった!?

 

 

 

思考が追いつくよりも早く、俺の現在の肉体──極度に敏感に構築されてしまった女性の身体──が、その強烈な刺激に無意識の反応を返してしまった。

 

 

 

「ひゃっ……!……っぁ……///」

ビクンッ!と全身を大きく震わせた俺の口から飛び出したのは、自分でも信じられないほど甘く、掠れた、情けなくも扇情的な嬌声だった。

 

 

 

ひゃっ、ってなんだ、ひゃっ、って。

前世の俺の辞書にそんな悲鳴は存在しないぞ!

 

 

一瞬にして、自身の顔面が沸騰したかのようにカァァァッ!と真っ赤に染まるのが分かった。

 

 

 

耳の先から首の根元まで、火が出そうなほど熱い。涙目で口元を手の甲で宛てがうが、時すでに遅し。

 

 

 

巨大樹の森の入り口に、俺のその取り返しのつかない甘い声が、風に乗って鮮明に響き渡ってしまった後だった。

 

 

 

 

 

…………

………………

 

世界から、音が消えた。

 

 

 

木々のざわめきすら止まったかのような、絶対的な、そして気まずすぎる沈黙が数秒間(俺にとっては永遠にも等しい時間)続いた。

 

 

その地獄のような空気を、見兼ねた……いや、指揮官としての最後の責任感からか、エルヴィンが胃を押さえたまま、代表して口を開いた。

 

 

「その……何だ……

我々は、2人の再会を、心から祝福する……」

 

 

どこか虚空を見つめるような、完全に死んだ魚の目でそう宣言したエルヴィンは、直後、消え入りそうな声で深く、深く絶望の溜息を吐き出した。

 

 

「…………一体、何を言っているんだ私は……」

(……だ、団長(?)ォォォ!! かなり動揺してるじゃないですか!!)

 

 

人類の未来を背負い、冷徹な判断を下すことで知られる伝説の指揮官の、あんなにも疲労困憊で現実逃避に走る姿など、できれば一生見たくはなかった。

 

 

 

だが、そんな極限の混乱状況にあっても、俺の中の『元・冴えない男子大学生』としての染み付いた一般常識と礼儀正しさが、勝手に口を動かしてしまう。

 

 

 

「あっ……ありがとうございます……」

首まで真っ赤にしたまま、美少女の姿でおずおずと、しかし律儀に感謝の言葉を述べてぺこりと頭を下げる俺。

 

 

 

なんてシュールな光景だろうか。

 

世界を滅ぼせる巨人と最強の兵士がイチャつき、それを人類の希望たる団長が胃痛に耐えながら祝福しているのだ。

 

 

 

ふと視線を上げると、エルヴィンの背後に整列している調査兵団の兵士たちの様子が、先程までとは劇的に変化していることに気がついた。

 

 

巨人の出現に対するあの極限まで張り詰めていた恐怖の空気は、完全に霧散していた。

 

 

代わりに、三百人の歴戦の猛者たちが、顔を真っ赤にして明後日の方向を向いたり、咳払いをしたりしている。

 

 

中には、春の陽光の下で抱き合う『金髪の小柄な美少女』と『黒髪の超絶美少女』という、あまりにも眼福で百合の極致とも言える神聖な光景に対し、

 

そっと両手を組んで天に祈りを捧げている者すらチラホラと散見された。

 

 

 

(ダメだこの空間……全員のIQが溶け出している……!)

 

 

 

俺は、これ以上の黒歴史の生成を防ぐため、そして何より己の理性を(別の意味で)保つために、

 

胸の中で未だにスンスンと匂いを嗅ぎ続けている愛しの暴君に向けて、今度こそはっきりと、呆れを含んだ声で告げた。

 

 

「……リーシェ。そろそろ、本当に離れて欲しいな……」

 

 

 

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