進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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団長視点です。


第六十七話

広大な平原のど真ん中。

太陽が容赦なく照りつける中、我々調査兵団の精鋭三百名は、文字通り「ただのピクニック」のような小休止を満喫していた。

 

 

「前方より巨人三体! 15メートル級二、10メートル級一!」

 

 

索敵班からの報告が響く。

 

だが、かつてなら即座に陣形を組み、抜刀と怒号が飛び交っていたはずの部隊には、欠伸が出るほどの弛緩した空気が漂い続けていた。

 

 

「アトラス。少し待っててね。すぐにあのゴミを片付けてくるから」

 

 

私のすぐ横で、リーシェ・ベニア班長が愛馬からふわりと飛び降りた。

 

 

彼女は、まるで近所に散歩へ出かけるかのような足取りで、チャキッと腰のブレードを抜き放ち、三体の巨人が迫る方向へと一直線に歩き出した。

 

 

周囲の兵士たちは誰一人として彼女を援護しようとせず、「お、また班長の解体ショーか」「水筒回してくれ」などと完全に気の抜けた談笑を続けている。

 

 

 

その異様な光景にただ一人、激しくパニックを起こしている存在がいた。

 

 

リーシェの愛馬の鞍の上に取り残された、過剰なフリルと漆黒の布地が目を引くメイド服姿の超絶美少女──知性巨人である、アトラスだ。

 

 

「あ、あの! エルヴィン団長! リーシェが一人で向かっていきましたけど、誰も援護に行かないんですか!? あの数なら死人が出てもおかしくないのに……!」

 

 

純白のホワイトブリムを揺らし、涙目で私に縋り付いてくる彼女。

 

 

人類の天敵たる巨人が、調査兵団の団長たる私に向かって、兵士の命を案じて必死に訴えかけてきている。

 

 

 

この状況のすべてが狂っていると理解しながらも、私は分厚いコートの上から自身の胃の腑を強く押さえつけ、深く、重い溜息を吐き出した。

 

 

「あぁ……それに関しては、心配には及ばない……というより、我々には手出しができないんだ」

 

 

「……手出しができない?」

 

メイド姿の美少女が、不思議そうに小首を傾げる。

 

 

私は胃の激痛を堪えながら、この大規模遠征の裏に隠された、あの大立ち回りについて語り始めた。

 

 

「彼女は、今回のこの『調査兵団の保有するほぼ全ての戦力と物資を動員した大規模遠征』を上層部に認めさせるために、会議室の分厚い扉を蹴り破って直接乗り込み、幹部たちと”ある異常な約束”を交わしたんだよ」

 

 

 

「……や、約束、ですか?」

 

 

「『本作戦における戦闘は、すべて私が単独で引き受ける。私が死なない限り、兵団の死傷者はゼロだ。……さぁ、今すぐ決めろ』……要約すれば、こういう脅迫だ」

 

 

「……ぇ? ………」

 

 

「もし断ればその場で上層部の全員を斬り捨てるような殺気を放ちながらな。当然、命を惜しむ幹部たちは即座に首を縦に振った」

 

 

目の前の美少女は、開いた口が塞がらないという様子で完全に絶句していた。

 

 

「じ、実態はどうなんですか……?」

 

 

「実態も何も、君がここに来るまでの道中を見てきた通りだ」

 

私は、自分でも分かるほど虚無に満ちた死んだ目で、平原の彼方を見つめた。

 

 

「シガンシナ区を出発してからこの平原に至るまで、戦闘は”すべて”彼女が一人で引き受けた。

ワイヤーを刺す木すらない平原で、自身のガスボンベの圧倒的な推進力だけを頼りに空を飛び回り、現れる巨人の群れを一方的に解体し続けてきたんだ。

我々三百人は、ただの一度も剣を抜いていない。当然、兵団の死傷者はゼロ人だ」

 

 

私の説明を聞き終えたアトラスは、しばらくの間、微動だにしなかった。

 

 

そのアイスブルーの瞳の奥で、常識の崩壊と、目の前の現実に対する強烈なツッコミが渦巻いているのが手に取るように分かった。

 

 

「……その、なんというか……」

 

 

やがて、アトラスはメイド服のエプロンを両手でギュッと握りしめ、馬の上から私に向けて、深く、深々と頭を下げた。

 

 

「うちのリーシェが、軍の規律をめちゃくちゃにしてしまって……本当に、本当にすみません……」

 

 

(……「うちのリーシェが」……か)

人類の敵であるはずの巨人が。神のごとき力を持つ超越者が。

 

 

恥辱にまみれたメイド服を着せられながら、出来の悪い身内の不始末を詫びるように、私に向かって謝罪している。

その痛ましい姿を見た瞬間。

 

 

 

私の中の「人類の希望たる指揮官」としての仮面がポロリと剥がれ落ち、代わりに、度を越えた暴君に振り回される「被害者同盟」としての、強烈な連帯感と深い同情が込み上げてきた。

 

 

「顔を上げてくれ、アトラス氏」

 

 

私は、これまでの人生で最も優しく、そして人間臭い、共感に満ちた笑みを浮かべて彼女を見た。

 

 

「君も……あのような常軌を逸した暴君を相手に、言葉にできないほど苦労しているようだからな。

無理矢理そんな格好をさせられた上に、先程の地下空間での出来事……心中、察するに余りある」

 

 

私の言葉に、アトラスはハッとして顔を上げ、まるで「この人は分かってくれる」と言わんばかりの、潤んだ瞳で私を見つめ返した。

 

 

種族の壁を超え、私と彼女(彼)の間に、確かな戦友としての絆が芽生えた、その直後だった。

 

 

 

 

───ドゴォォォォンッ……!!!

 

 

 

平原を震わせる凄まじい地響き。

 

 

 

振り返れば、土煙の向こう側で、空高く舞い上がったリーシェが優雅に身を翻して着地すると同時に、最後の一体であった10メートル級の巨人が、うなじを丸く抉り取られて地面へと倒れ伏すところだった。

 

 

 

「一丁上がり! さぁアトラス、お待たせ!」

 

 

ブレードの血を払い、一切の息乱れもなく、満面の笑みでこちらへ手を振る人類最強の鬼神。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

私とアトラスは、一切の驚きもなくただその光景を眺め、全く同じタイミングで、重く深い溜息を平原の風に溶かした。

 

 

もはや、この部隊の真の脅威は巨人などではない。あの、愛に狂った小柄な女なのだ。

 

 

私は、これからの壁内での生活において、胃薬の追加発注が急務であることを痛感していた。

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