進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第六十八話

 

 

 

夕闇が平原を深い藍色に染め上げる頃、約三百名の調査兵団は行軍を停止し、夜を越すための野営の設営を開始し始めていた。

 

 

 

通常、壁外での野営といえば、いつ暗闇から巨人が現れるか分からない極限の緊張状態を強いられるものだ。

 

 

 

しかし今日の陣形内には、拍子抜けするほど穏やかで、どこか気の抜けた空気が漂っていた。

 

 

 

無理もない。人類最強にして最凶の兵士、リーシェ・ベニアという「過剰戦力」が先頭に鎮座しているおかげで、ここに至るまで兵士たちは一度も剣を抜いていない。

 

 

 

規模がかつてないほど大きいことも相まって、皆は一様に焚き火の周りに集まり、硬い携帯食料をかじりながら、安堵の入り混じった声で談笑している。

 

 

 

その平和な兵士たちの視線の端には、常にチラチラと、ある一点へと向けられる熱を帯びた眼差しがあった。

 

 

 

彼らの視線の先──つまり、あの傍若無人な鬼神に完全にペースを握られ、いいように陵辱(物理的な意味ではなく、精神と尊厳の蹂躙という意味で)されている、漆黒のメイド服を着せられた哀れな超絶美少女(俺)へと向けられたものだ。

 

 

 

「アトラス……っ、ごめんね、私、ちょっと会議に行ってこなくちゃいけなくて……!」

 

 

野営の設営が一段落した直後。

 

リーシェは、エルヴィン団長から分隊長や一部の班長クラスが集まる今後の作戦会議に招集されてしまった。

 

 

 

彼女は、まるで今生の別れかのように俺の細い腰にしがみつき、メイド服のエプロンに顔を擦りつけながら、涙目で俺を見上げた。

 

 

「すぐ……っ、すぐに戻ってくるからね……! 誰もアトラスに手を出さないように、私が後で全員の目をくり抜いておくから!」

 

「やめて!? 誰も手を出さないし、物騒なこと言わないで早く行ってきなさい!」

 

俺が必死に背中を押して追い払うと、彼女は名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら、ようやく指揮官用のタープへと向かっていった。

 

 

 

(……ふぅ。やっと、一人になれた)

 

 

俺は、過剰なフリルがあしらわれたスカートの裾を軽く払いながら、密かに安堵の息を吐いた。

 

 

 

そして改めて、周囲を見渡す。

 

 

 

調査兵団の精鋭三百人。

 

 

彼らは、本来なら全滅の危険すらある大規模遠征に、リーシェの個人的な「恋人(俺)のお迎え」という極めて理不尽な理由で強引に巻き込まれ、駆り出されてしまった被害者たちだ。

 

 

(……彼女が現在進行形でやらかしているこの大暴走の尻拭いを、少しでもしておかないと)

 

 

 

俺は、申し訳なさで胸を痛めながら、ある考えを実行に移すことにした。

 

 

 

メイド服の硬いパニエをガサガサと鳴らしながら、野営地の後方に並べられた荷馬車の方へと歩み寄る。

 

 

 

そこでは、若い兵士が一人、物資の管理と見張りを任されて立っていた。

 

 

「あの……すみません」

 

俺は、少しだけ上目遣いになりながら、眉を八の字に下げて申し訳なさを前面に出した表情を作り、控えめな声で話しかけた。

 

 

 

中身が男だとはいえ、この「神が黄金比を計算し尽くした超絶美少女の困り顔」が持つ破壊力は、自分でも恐ろしいほど理解しつつあった。

 

 

「に、荷物を……少し取りたいのですが、良いですか?」

 

 

「は! はいぃッ!! どうぞご自由にお取り下さい!!」

 

案の定、声をかけられた若い兵士は、顔を一瞬にして茹でダコのように真っ赤に染め上げ、裏返った大声で叫びながら、完璧な角度で『心臓を捧げる』敬礼をビシッと決めた。

 

 

 

あまりの緊張に、彼の全身はガチガチに強張っている。

 

 

「ふふっ……ありがとうございます!」

 

俺はほっとした顔で破顔し、彼に向けて心からの感謝の笑みを向けた。

 

 

すると。

 

「…………ッ!!(昇天)」

 

兵士は、目を見開いたままその場で完全に硬直してしまった。まるで石化の魔法でも食らったかのように、呼吸すら忘れて俺の笑顔に見惚れている。

 

 

……この世界の兵士、純情すぎないか。

 

 

 

俺は硬直した彼をそのままにして、荷馬車の荷台へとひらりと飛び乗った。

 

 

そこには、巨大樹の森の地下空間から搬出させた、俺が硬質化能力で生成した三つの巨大なクリスタル製トランクケースが積まれている。

 

 

「……あった、これだ」

 

俺はそのうちの一つに手をかけた。

 

 

中に入っているのは、俺が一年以上かけて森で採取し、品種改良に近いくらい手をかけて育て上げた、個人的に一番甘くて美味しい『巨大樹の森の特産果実』だ。

 

 

壁内基準では恐らく考えられないほど糖度が高く、果汁が溢れる絶品である。

 

 

三つある巨大な荷物のうち、一つ丸々を使って、俺はこの果実を大量に持ち出していたのだ。

 

 

「よっ、と」

 

俺は、成人男性の背丈ほどもある超重量のクリスタルトランクを、いとも容易く、ひょいっと頭上に掲げた。

 

 

見た目は華奢で可憐なメイド服の美少女が、数百キロは下らないであろう巨大な箱を片手で軽々と持ち上げているという、物理法則を無視したシュール極まりない光景。

 

 

「それじゃあ、見張りよろしくお願いしますね」

 

俺は未だに硬直している兵士に軽くウインクをしてから、荷馬車を降り、軽やかな足取りで野営地の中央へと移動した。

 

 

ズシンッ!

 

 

野営地のど真ん中、焚き火の近くの開けたスペースに巨大なトランクを下ろす。

 

 

そして、床の土にスッと指先をかざし、脳内でイメージを構築した。

 

 

ガキィィィンッ!

 

 

瞬時に硬質化能力が発動し、地面から青白い光を放つクリスタルが隆起。

あっという間に、十人以上が並べるほどの長く美しいクリスタルの長机が完成した。

 

 

俺はトランクの蓋を開け、中にぎっしりと詰まった、赤や紫に熟した瑞々しい果実の山を取り出す。

 

 

その瞬間、果実特有の濃厚で甘い香りが、夜風に乗って野営地全体へと広がっていった。

 

 

「なんだなんだ?」

 

「あのメイド服の……アトラスさんが何かやってるぞ?」

 

「すげぇ、地面から一瞬で氷みたいな机を……!」

 

甘い匂いと俺の異能に引き寄せられ、周囲で硬いパンや干し肉をかじっていた兵士たちが、何事かとワラワラと集まってきた。

 

 

俺は机の前に立ち、エプロンを軽く払いながら、彼らに向けてよく通る声で宣言した。

 

 

「皆さん、今日はお疲れ様です! 今からこの果物を切り分けますので、良かったら味見してみてください!

甘くて水分もたっぷりありますから、疲れが取れると思いますよ!」

 

 

俺がそう声がけした瞬間、ただでさえ粗末な野営食で乾ききっていた兵士たちの間に、爆発的な歓声が巻き起こった。

 

 

「うおおおおッ!! アトラスさんが直接切った果物食えるらしいぞ!!」

 

「マジかよ! しかも結構な量あるじゃねぇか! 全員に回るぞ!」

 

「美少女が……俺たちのために、わざわざ果物を切り分けてくれてる……

なぁ、俺たち実は平原で一回死んでて、ここは死後の世界なんじゃないか?」

 

「クンクン……果物の匂いだけじゃない。この距離からでも、あの娘のすっごく良い匂いがする……ッ!」

 

「……風で揺れるスカートから見える太もも、絶対すべすべしてそう……」

 

「改めて見ると、すげぇ破廉恥な衣装だなアレ。班長の趣味、恐ろしすぎるだろ……」

 

ぞろぞろと俺の周りに集まってくる、むさ苦しくも純粋(一部完全に変態思考が混ざっているが)な兵士たち。

 

 

「来た人から順番に、一列に並んでくださいねー!」

 

俺が、花も照れるような最高の愛想笑いを浮かべてそう言うと。

 

 

「「「ハッ!!」」」

 

ザザザザザッ!!!

 

 

さすがは壁外で死線を潜り抜けてきた精鋭たち。彼らは一瞬にして一切の私語を止め、軍事パレード並みの恐るべき統率力で、ピシッと一直線の美しい行列を作り上げた。

 

 

その速度、わずか三秒。

訓練兵団の教官が見たら泣いて喜ぶであろう見事な整列ぶりだった。

 

 

「はい、それじゃあ切っていきますね」

 

俺は右手に超薄型の鋭利なクリスタルナイフを生成し、左手にも次々と硬質化でお皿を生み出していく。

 

 

そして、巨人としての極限の反射神経と動体視力を「果物の皮剥き」という一点に全振りした。

 

 

シュタタタタタタタタッ!!!

 

 

目にも留まらぬ早業。宙に舞う果実の皮。

 

果汁を一滴もこぼさぬ神業的な包丁捌きで、次々と果実が一級品のデザートのように美しく切り分けられ、透き通るクリスタルのお皿の上へと盛り付けられていく。

 

 

「はい、どうぞ!」

 

「あ、ありがとうございます……ッ!」

 

一番前に並んでいた兵士が、震える両手で皿を受け取る。

彼はまるで聖遺物でも扱うかのようにそっと果実を口に運び、咀嚼した瞬間、カッ!と目を見開いた。

 

 

「あっ、甘ぇ……ッ!! なんだこれ、こんな瑞々しくて甘い果物、生まれて初めて食ったぞ!!」

 

彼の叫びに、後ろに並ぶ兵士たちのボルテージも最高潮に達する。

 

「アトラスさんが、あの白くて細い指で触れた果物……いただきます……(昇天)」

 

「ちくしょう……! 最初はどんな恐ろしい化け物かと思ってたのに……

俺たちを気遣ってくれる、こんな良い娘だったなんて……うぅっ、ぐすっ……」

 

 

美味しい果実の味と、メイド美少女の手作りというダブルの破壊力に、屈強な兵士たちが次々と感涙に咽び泣きながら果物を頬張っていく。

 

 

(……うん、悪くない反応だ)

 

俺は、次々と果物を切り分けながら、内心で満足げに頷いた。

 

 

一部、完全に果物ではなく俺の指先や太ももを凝視している怪しい奴ら(主に「アトラスさんが触れた果物……」とか呟いている連中)も混ざっているが、まぁこの際見逃してやろう。

 

 

調査兵団の兵士たちの胃袋と心を掴む大作戦。

 

 

鬼神リーシェの暴虐によってズタズタにされた彼らの精神は、甘い果実と美少女メイドの給仕によって、急速に、そして全く別の方向へと癒やされていくのだった。

 

 

 

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