進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第七話
何はともあれ、向こうからわざわざ都合よく極上のサンドバッグがデリバリーされてきたんだ。
逃げる理由もない。
まずは一切の抵抗を放棄し、無防備に立ち尽くして自分の「素の防御力」を試してみることにした。
ドスドスと地響きを鳴らし、先頭の8m級の巨人が猛スピードで突進してくる。
俺の巨体にモロに激突した────が、俺は微動だにしない。
脚のスタンスすら崩れることなく、ただそよ風を受けたようにその衝撃を完全に殺し、受け止めた。
それを皮切りに、10m級、そして同サイズの15m級と、次々に十数体の巨人がうじゃうじゃと群がり、俺の身体をもみくちゃにし始める。
奴らは歓喜に満ちた濁った瞳で、俺の肩や腕、さらにはうなじ目掛けて、その巨大な口を限界まで開けて喰らいついてきた。
バキィィッ……!!
鈍く、そして硬質な音が連続して響く。
それは俺の肉が裂ける音ではなかった。
俺の生身の皮膚に全力で噛みついた巨人たちの歯が、まるで硬い岩盤を噛んだかのように、根元から無惨に砕け散った音だ。
2年間、自身の肉体を極限まで破壊し、再生と超回復を狂ったように繰り返してきた俺の皮膚と筋肉は、硬質化をせずとも最早通常の巨人の顎の力を凌駕するほどの強度を誇っていたのだ。
それでも知性のない奴らは諦めず、ボロボロに砕けた歯のまま、血まみれの顎にギリギリと力を込めて俺の肉を削ろうとしている。
(……なるほど。大体の強度は分かった)
俺は全身にべったりと張り付く十数体の巨人を、まるで鬱陶しい羽虫でも払うかのように、無造作に腕を振って吹き飛ばした。
そして、手近な巨人の足や頭を雑に掴むと、そのまま巨大なハンマー代わりに振り回し、次々と周囲の同族たちへ叩きつけて物理的に粉砕・無力化していく。
わずか十数秒後。
先程までの狂乱が嘘のように、周囲は手足を吹き飛ばされ、うなじを削ぎ落とされた(あるいは物理的にすり潰された)巨人たちの死体と、そこから立ち昇る猛烈な高温の蒸気で真っ白に覆い尽くされていた。
俺はただ一匹、その死山のど真ん中で立ち尽くす。
正直、弱過ぎて味気ない。
結局、自慢の硬質化を発動するまでもなく、ただの「素の腕力と耐久力」だけで蹂躙が終わってしまった。
そんな風に少し拍子抜けしていた、その時。
ふと、視界の端───立ち昇る蒸気の向こう側、俺の胸元ほどの高さにある巨大樹の太い枝に、何かがいるのに気がついた。
視線を向ける。
そこにいたのは、見覚えのある短いジャケットと、腰と太腿に装着されたあの無骨な機械装置。紛れもなく「立体機動装置」を纏う、“人間”だった。
パッと見、小柄な女性のようだ。深く被った調査兵団の緑色のマントのフード、その隙間から、サラリとした金の毛先が漏れるように覗いている。
(人間だ……! しかも調査兵団!)
転生して初めて出会う、まともな人間。
俺は相手を極力怖がらせないよう、細心の注意を払った。
ただでさえ15mの巨体なのだ。
ここは一つ、友好的であることをアピールしなければ。俺は巨人にしてはダビデ像のように整った端正な顔立ちの筋肉を柔らかく緩め、精一杯の「爽やかな微笑み」を浮かべた。
そして、あの獣の巨人すら凌駕する流暢な発音で、気さくに声をかけた。
『こんにちは』
────ズシン、と。
意図せずに周囲の空気を震わせ、腹の底にどっしりと響き渡る重低音のバリトンボイス。
巨人の死骸が放つ灼熱の蒸気のど真ん中で、返り血(蒸発する血肉)を浴びた15mの異形が、人間臭い笑顔を浮かべながら流暢な人語で挨拶をしてくる。
その狂気じみた光景が、見下ろされている小柄な女性兵士の心を、どれほど絶望的な恐怖と混乱で染め上げているかなど、この時の暢気な俺は知る由もなかった。
ほんへです
こっから流れ変わってきます