進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第七十二話

チュン、チュン……と

 

 

テントのキャンバス布越しに、微かに朝を告げる鳥のさえずりが聞こえてきた。

 

 

 

ゆっくりと重い瞼を開け、微睡みの中から意識を浮上させた俺は───自身の置かれている現在の状況を認識した瞬間、完全に思考がフリーズした。

 

 

 

(……えっと、これは、どういう状況だ?)

 

 

簡易ベッドの上で横になっている俺が、恐る恐る視線を下に向ける。

 

 

そこには、透き通るような美しい金髪のつむじがあった。リーシェだ。

 

 

 

彼女はあろうことか、俺が着せられているメイド服の胸元に寄せて上げられた双丘の谷間に、ぴったりと顔を埋めていた。

 

 

両腕は俺の細い腰にガッチリと回され、さらに下半身に意識をやれば、彼女の白く滑らかな脚が、知恵の輪の如く俺の脚と複雑に絡み合っているではないか

 

 

 

俺が昨日から着せられているこのヴィクトリアン風メイド服は、デザインこそ秀逸だが、胸元や絶対領域の露出など布面積が極端に小さい箇所がある。

 

 

 

おまけに彼女も、寝るためにマントや上着を脱いで薄着になっている。

 

 

 

その結果、互いの素肌が直接、密接に擦れ合う形になっていた。

 

 

「っ……」

 

体温。柔らかさ。そして、触れ合う素肌のあまりにも生々しい質感。

 

 

ただでさえ女性化して極度に敏感になっている俺の肉体と脳が、その刺激的な感触に反応し、致死量の快楽物質を過剰分泌し始めるのが分かった。

 

 

 

顔が一気に熱くなり、変な声が出そうになる。

 

 

(落ち着け俺! 相手は愛しのリーシェだけど!)

 

 

俺は残された理性をフル動員して自身のバグりそうな感覚をねじ伏せ、胸元に顔を埋めている彼女の艶やかな金髪を、優しく撫でながら声をかけた。

 

 

「……おはようリーシェ。朝だよ」

 

 

そう言えば、あの巨大樹の森で同棲(?)していた頃は、いつも早起きの彼女の方から、声をかけてくれていたっけな。

 

 

そんな懐かしい記憶に少しだけ頬を緩ませていると。

 

 

「んぅ……」

 

 

俺の胸の中で、目を覚ましたのかリーシェが小さく身じろぎをした。

 

 

起き上がるかと思いきや、彼女は胸の谷間に顔を埋めたまま、大きく、肺の限界まで息を吸い込んだのだ。

 

「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ッ」

「嗅ぐな変態っ!///」

 

 

あまりの変態的行動に、俺は女性的な可憐な口調を維持する余裕もなく、完全に素のツッコミを炸裂させてしまった。

 

 

しかし、鬼神の暴走は止まらない。

 

 

あろうことか彼女は、メイド服から無防備に露出した俺の双丘の柔肌に向かって、ペロッと、その赤い舌を這わせようとしてきたのだ。

 

 

「ひゃあっ!? ちょっと、朝からやめてよ!!」

 

 

俺は全力で彼女の顔面を両手で押し退け、なんとか自分の胸からその変態を引き剥がした。危ない、朝から貞操の危機(?)だ。

 

 

 

押し退けられたリーシェは、寝ぼけ眼をこすりながら、とろけるような笑顔で小首を傾げた。

 

 

「えー? 朝以外なら良いってこと?」

 

「違う! いつでもダメ!!」

 

そんな馬鹿な痴話喧嘩(という名のセクハラ攻防戦)を繰り広げながら、俺はいそいそとベッドから這い出し、逃げるようにしてテントのフラップを捲り上げ、外へと脱出した。

 

 

「はぁ、はぁ……朝から心臓に悪い……」

 

乱れたメイド服の襟元を直し、ホワイトブリムを押さえながら深呼吸をする。

 

 

すると

 

「「「…………」」」

 

テントの周囲で、出発の準備や朝食のために立ち往生していた兵士たちと、バッチリ目が合ってしまった。

 

 

彼らは皆、一様に気まずそうな、それでいて深い同情と哀れみの眼差しを俺に向けてきている。

 

 

……間違いない。テントは布一枚だ。今の「嗅ぐな変態っ!」や「朝以外ならいいの?」というヤバすぎる会話、全部外に丸聞こえだったのだ。

 

 

 

俺は顔から火が出るほどの羞恥心に襲われ、その場にしゃがみ込みたくなった。

 

 

 

そこへ、遠くから金髪の偉丈夫──エルヴィン団長が、静かな足取りでこちらへとやってきた。

 

 

「……朝から大変だな」

 

 

エルヴィンは、他の兵士たちと全く同じような、あるいは「自身が普段からあの暴君にどれだけ理不尽に振り回されているか」という苦労を重ね合わせるような、ひどく疲労感の滲む目で俺を見つめてきた。

 

 

 

「あ……あはは……お騒がせしてすみません……」

 

俺は顔を真っ赤にしながら、乾いた笑いを返すしかなかった。

 

エルヴィンは微かに同情の溜息を吐き、一拍置いてから、真剣なトーンで口を開いた。

 

 

「昨日の夜の会議でリーシェ班長と、アトラス殿の『公開模擬戦』を、この平原で行うことが決まった」

 

「……はい?」

俺は、自分の耳を疑った。

 

 

模擬戦? リーシェと俺が? いやいやいや、何をどうやったら、そんな物騒な結論に至るの?

 

 

「彼女から聞いていないのか?」

 

怪訝な顔をするエルヴィンに、俺は申し訳なさそうに視線を落とした。

 

 

「……はい。昨夜は、リーシェが会議から帰って来る前に、疲れ果てて寝てしまって……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

 

「……っ!」

 

エルヴィンが、まるで信じられない恐ろしい怪談でも聞いたかのように目を見開き、息を呑んだ。

 

 

そして、先程よりもさらに一層、心の底からの哀れみと戦慄が混ざった目で、俺の全身を舐め回すように見たのだ。

 

 

「……あの、完全にタガが外れた彼女を相手に……よくそのような『自殺行為』を……」

 

 

「じ、自殺行為……?」

 

 

エルヴィンの震える声に、俺はハッと気づいた。

 

 

確かに、完全に気が抜けていた。

 

今の、俺に対する性的な執着と独占欲を一切隠そうとしなくなったリーシェ相手に、無防備な寝顔(しかもこのメイド服姿で)を晒して先に寝るなんて。

 

 

 

それはもう、「どうぞ美味しく召し上がってください」と宣言して、腹を空かせた肉食獣の檻に自ら入っていくようなものだ。

 

 

朝、自身の双丘に顔を埋められていた程度で済んだのは、奇跡的なまでの彼女の自制心(あるいは寝落ち)のおかげだったのだ。

 

 

(気を付けよう……俺の貞操(男としての尊厳)は、常に風前の灯火なんだ……)

 

 

「とっ! とにかく、事情は分かりませんが、模擬戦の件については本人に確認しておきます!」

 

 

俺は冷や汗を拭いながら、慌ててそう誤魔化した。

 

 

「ああ、そうしてくれ。

……君の無事を、心から祈っているよ」

 

 

エルヴィンは深く頷き、胃のあたりをさすりながら自分の指揮所へと戻っていった。

 

 

(リーシェと模擬戦、か……)

 

 

朝の冷たい平原の風にエプロンを揺らされながら、俺は一人、頭を抱えた。

 

 

一体全体、昨夜の会議で何をどう話し合ったら、俺とあのリーシェが平原のど真ん中で戦うなんていう特撮映画の怪獣大戦争みたいな結論に至るのだろうか。

 

 

 

俺は、テントの中でまだ「アトラスが足りない……」と寝言を言っているであろう問題児に事情聴取をするべく、重い足取りで再びテントへと戻るのだった。

 

 

 

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