進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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現場を目撃した兵士視点です


第七十三話

 

 

朝靄が立ち込める冷たい平原の空気を、小鳥のさえずりが微かに震わせていた。

 

 

 

我々調査兵団の兵士たちは、携帯食料の硬いパンをかじりながら、馬への鞍の装着や野営地撤収の準備を慌ただしく進めていた。

 

 

 

だが、あの『特別なテント』──つまり、人類最強の鬼神であるリーシェ班長と、昨日我々に極上の果実を振る舞ってくれた超絶美少女(知性巨人)のアトラスさんが夜を明かした分厚いキャンバス地のテントの周囲に陣取っていた者たちだけは、作業の手を止め、息を潜めて聞き耳を立てていた。

 

 

 

 

無理もない。

昨夜、会議から戻ってきたリーシェ班長の様子は、完全に「飢えた肉食獣」のそれだったのだ。

 

 

 

今朝、無事にアトラスさんの純潔(?)は保たれているのか。

 

 

兵士たちの間には、得体の知れない緊張感と、一人の美少女の安否を気遣う悲痛な連帯感が漂っていた。

 

 

 

やがて、薄いテントの布越しに、衣擦れの音が微かに響いた。

 

 

誰かが身じろぎしたのだ。兵士たちがゴクリと唾を飲み込んだ直後。

 

 

『……おはようリーシェ。朝だよ』

 

 

鈴を転がすような、どこまでも甘く、優しく、そして途方もなく庇護欲を掻き立てる天使の声が野営地に響いた。

 

 

「おお……」と、近くで馬のブラシ掛けをしていた新兵が、その声のマイナスイオン効果だけで泣きそうになりながら天を仰ぐ。

 

 

 

よかった。アトラスさんは無事だ。あんなに優しく起こしてあげているのだから、何事もなく夜を明かせたのだろう。なんて慈愛に満ちた女神なのだろうか。

 

 

だが、我々のその安堵は、次の瞬間に巻き起こった「奇怪な環境音」によって木端微塵に粉砕されることとなる。

 

 

『んぅ……』

リーシェ班長の、ひどく甘ったるい寝起きの声。そして。

 

『スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ッ』

テントの中から、巨大なポンプか何かで空気を限界まで吸い上げるような、凄まじい「吸引音」が鳴り響いたのだ。

 

 

『嗅ぐな変態っ!///』

アトラスさんの、悲鳴に近い素のツッコミ。

 

 

バサッ! と、近くで荷馬車の整理をしていたベテラン兵士が、手から麻袋を取り落とした。

 

 

周りにいた全員が、完全に石像と化してテントを凝視した。

 

 

間違いない。

 

今のは、あの人類最強のリーシェ班長が、寝起き一番にアトラスさんの胸元(あの破壊的なメイド服の谷間)に顔を埋め、深呼吸をして匂いを嗅ぎまくっている音だ。

 

 

『ひゃあっ!? ちょっと、朝からやめてよ!!』

 

『えー? 朝以外なら良いってこと?』

 

『違う! いつでもダメ!!』

 

バタバタと中で何かが激しく争う音が響き渡る。

 

「…………」

我々兵士たちは、無言のまま互いに顔を見合わせた。

 

 

 

かつて、巨人を前にして一歩も引かず、冷酷無比な決断で我々を導いてきた『氷の刃』。

 

 

その威厳ある姿は、今や我々の脳内から完全にデリートされていた。

 

代わりに上書きされたのは、「寝起きの極上美少女にセクハラをかまし、柔肌を舐めようとして全力で拒絶されている、救いようのないド変態上官」という、あまりにも生々しく、そして悲惨すぎる真実の姿だった。

 

 

(((……アトラスさん、逃げて……っ!)))

 

兵士全員の心が一つになった、まさにその時。

 

 

バサァッ!と勢いよくテントのフラップが捲り上げられ、中から一人の少女がいそいそと転び出るように脱出してきた。

 

 

「はぁ、はぁ……朝から心臓に悪い……」

 

乱れたメイド服の襟元を必死に直し、ズレた純白のホワイトブリムを押さえながら、肩で息をするアトラスさん。

 

 

朝日を浴びたその顔は耳の先まで茹でダコのように真っ赤に染まっており、涙目に潤んだアイスブルーの瞳が、これ以上ないほど扇情的で、庇護欲をそそるものだった。

 

 

 

その、あまりにも「事後」感(※実際には未遂だが)が漂う艶かしい姿とバッチリ目が合ってしまった我々は、気まずさに視線を泳がせながらも、彼女に向けて一斉に同情の眼差しを送った。

 

 

「あ……」

 

我々の視線と、周囲の静まり返った空気で、今のヤバすぎる会話が全部筒抜けだったことに気づいたのだろう。

 

 

アトラスさんは顔から火が出そうなほど真っ赤になり、恥ずかしそうに身を縮めた。

 

 

そこへ、我らが調査兵団のトップ、エルヴィン団長が静かな足取りで歩み寄ってきた。

 

 

「……朝から大変だな」

 

団長のその言葉には、上官としての威厳よりも、度を越えた問題児(リーシェ班長)を抱える者同士の、深い同情と哀れみが込められていた。

 

 

我々も皆、団長と全く同じ気持ちで黙って頷いた。

 

そこから交わされた団長とアトラスさんの会話は、さらに我々の肝を冷やすものだった。

 

 

 

昨夜の会議で決まった『リーシェ班長とアトラスさんの公開模擬戦』の決定を、彼女は全く知らなかったらしい。

 

 

『……はい。昨夜は、彼女が会議から帰って来る前に、疲れ果てて寝てしまって……』

 

 

申し訳なさそうに視線を落とすアトラスさん。

 

 

その瞬間、エルヴィン団長が信じられないものを見るように目を見開き、我々も全員、心の中で「ヒッ」と悲鳴を上げた。

 

 

『……っ! ……あの、完全にタガが外れた彼女を相手に……よくそのような自殺行為を……』

 

 

団長の言う通りだ。

 

 

今の、性欲と独占欲のストッパーが完全にブチ壊れているリーシェ班長の待つテントで、あんな無防備なメイド服姿のまま、先に寝顔を晒して眠るだと?

 

 

それはもう、巨人の口の中に自ら飛び込むより恐ろしい『自殺行為』以外の何物でもない。

 

 

無傷(?)で朝を迎えられたのは、それこそ奇跡だ。

 

 

「とっ! とにかく、事情は分かりませんが、模擬戦の件については本人に確認しておきます!」

 

 

冷や汗を拭いながら慌ててテントへ戻ろうとするアトラスさんの華奢な背中を、我々三百名の兵士は、まるで生贄の羊を見送るかのような、深い、深い祈りと同情の眼差しで見送り続けた。

 

 

(……アトラスさん。どうか、今日一日、無事に生き延びてくれ……)

 

平原に昇る朝日を浴びながら、調査兵団の心はかつてないほど強固に一つにまとまっていたのだった。

 

 

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