進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第七十七話

アトラスが小走りでリーシェの元へ向かい、待ってましたとばかりに広げられた腕の中にすっぽりと収まるのを、私は手元のメモ帳を両手でギュッと握りしめながら見送った。

 

「…………」

 

静寂

 

平原の風が私の前髪を揺らす。隣ではエルヴィンが死んだ魚のような目で虚空を見つめ、ミケは完全に現実逃避して雲の形を数え始めている。

 

 

 

背後の三百人の兵士たちは、もはや信仰対象を見つけた狂信者のように、両手を組んでひざまずき祈りを捧げている状態だ。

 

 

だが、私の脳内は違った。

 

沈黙していたのではない。あまりにも規格外すぎる情報量が処理能力の限界を突破し、一時的にフリーズと再起動を余儀なくされていただけなのだ。

 

 

そして数秒後。私の脳髄は、沸騰するような歓喜と探究心と共に、猛烈な勢いで稼働を再開した。

 

 

(え? ちょっと待って。待って待って待って待って!?)

 

私は手元のメモ帳を開き、自分が先程震える手で書き殴ったインクの文字を、食い入るように見つめ直した。

 

 

『持久力:事実上無限』

『肉体再生:本体が無事な限り一瞬で無限に可能』

 

「あはっ……あははははっ! 無限!? 巨人の活動限界って、日光の有無や体力の消耗に依存するはずだよね!? それが無限!? 一体どこからその膨大なエネルギーを引っ張ってきているんだい!? 物理法則はどうなってるの!? 熱力学の第一法則を息を吐くように無視してるよ!!」

 

 

私は自分の髪を両手でガシガシと掻き毟りながら、喉の奥から込み上げる笑いを抑えきれずに呟き始めた。

 

 

『遠隔攻撃:超高圧蒸気を圧縮した直径2mの硬質化球体』

『投擲速度:超音速』

『バリエーション:散弾、徹甲弾』

 

 

「超音速の投擲……! 直径2メートルのクリスタル球が音速を超えて飛んでくる!? 摩擦熱はどうなる!? というか、硬質化の内部にあの超高温の巨人蒸気を『超圧縮』して封じ込めるって、どれだけの内圧がかかってるの!? それを破裂させずに安定維持できるクリスタルの分子構造って……! しかも徹甲弾って、標的の硬度に合わせて弾頭の形状や密度を任意に変化させられるってこと!? そんなの、もはや歩く要塞……いや、意思を持った超巨大榴弾砲じゃないか!!」

 

 

ヨダレが出そうだった。

 

今すぐあのクリスタル球体を解剖したい。超音速で放たれる散弾の弾道計算をしたい。どうやって蒸気を圧縮しているのか、その圧力バルブの仕組みをこの目で確かめたくてたまらない。

 

 

 

だが、それらすべてを過去にするほどの、最も狂ったスペックが最後に書かれていた。

 

 

『全身硬質化状態での全力打撃』

『破壊規模:半径10キロ圏内の地盤が一撃で崩壊(陥没)』

 

 

「……半径、10キロ」

 

私はゴーグルの位置を直し、呆然とその数字を反芻した。

半径10キロ。

 

それは、壁内人類が暮らすウォール・ローゼやウォール・マリアの『突出区(シガンシナ区やトロスト区など)』の面積が、丸ごとすっぽり収まってさらにお釣りがくる規模だ。

 

 

 

つまり彼女は、大地のど真ん中で「えいっ」と地面を殴るだけで、一つの都市を、そこに住む何万人という人間ごと、一瞬で地図上から消し飛ばすことができるのだ。

 

 

 

文字通りの『地形変動』。歩く終末。神の怒りそのもの。

 

 

私は、ゆっくりと顔を上げ、500メートル先の平原の彼方へと視線を向けた。

 

 

そこには、人類最強の鬼神リーシェに背後からギュッと抱きしめられ、首筋に顔を埋められて「んひゃっ、くすぐったいってば!」と身をよじって笑っている、漆黒のメイド服を着た極上の超絶美少女の姿があった。

 

 

「あはははははははははははははははっっ!!!」

 

 

たまらず、私は平原の空に向かって大爆笑を放っていた。

腹が千切れるほど可笑しかった。

狂っている。この世界は、最高に狂っていて素晴らしい!!

 

 

 

あんな、そよ風で飛んでいってしまいそうなほど華奢で、花の匂いがしそうな可憐な女の子が! 本来なら兵士たちに守られるべき深窓の令嬢のような存在が!

 

 

その気になれば、たった一発のパンチでこの広大な大地の地形を書き換え、人類を滅亡させられる絶対的創造主なのだ!!

 

 

「最高だ!! アトラス、君は最高だよ!! 私のこれまでの巨人研究が、全部赤子の砂遊びに思えるくらいの超特大のパラダイムシフトだ!!」

 

 

私はメモ帳を放り投げ、歓喜のあまり両腕を天に突き上げた。

 

 

「ねぇ!! アトラス!! リーシェ!! 頼む、お願いだ!! ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、その超音速の徹甲弾を『私に向けて』投げてみてくれないかな!?

軌道と風圧を至近距離で体感したいんだ!! 死んでも構わないから!!」

 

 

私がヨダレを垂らし、目を血走らせながら二人の甘い空間へと猛ダッシュしようとした、その瞬間。

 

 

「……班長! 落ち着いてください! 本当に死にます! 蒸発します!!」

 

「エルヴィン団長の胃がこれ以上もたねぇんだよ! 頼むから自重しろ狂人!!」

 

私の両脇に、モブリットとミケが凄まじいタックルをかましてきて、力ずくで羽交い締めにされた。

 

 

 

「放せーっ! 私は真理に触れたいんだ! アトラスの超高圧蒸気で吹き飛ばされたいんだああああっ!!」

 

 

平原のど真ん中で繰り広げられる、完全に理性を失った巨人オタクの絶叫と、それを必死に押さえ込む幹部たちの乱闘。

 

 

 

遠くでは、アトラスが「ハンジさん、大丈夫かな……?」と心配そうに首を傾げ、リーシェが「放っておけばいいわ。それよりアトラス、もう一回匂い嗅がせて」とメイド服のフリルに顔を埋めている。

 

 

 

もはや、巨人への恐怖など欠片も存在しなかった。

 

 

我々調査兵団が持ち帰る最大の成果は、「世界の真理」でも「敵の正体」でもなく、この理不尽なまでに美しく、そしてデタラメな力を持った一人のメイド少女そのものなのだから。

 

 

 




はい、盛りすぎました。
反省してますが後悔はしてません。
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