進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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地下街編
第八十一話


844年4月18日

 

 

陽の光など一度も差し込んだことのない、王都の地下深く。

 

 

腐った泥と鉄錆、そして行き場を失ったクズ共の放つ体臭が混ざり合った、吐き気を催すような淀んだ空気が常に充満しているこの場所が、俺たちにとっての『世界』だった。

 

 

 

「……チッ、相変わらずクソみてぇな空気だ」

 

 

 

俺は、壁の染み一つにすら苛立ちを覚えながら、立体機動装置のブレードの柄を軽く指先で叩いた。

 

 

 

この地下街において、俺たち──俺、ファーラン、イザベルの三人は、憲兵団の横流し品の立体機動を操り、ある種の『顔』として自由に飛び回っていた。

 

 

力と技術がすべてのこの掃き溜めで、誰の指図も受けず、ただ地上の光を夢見ながら生き抜いてきた。

 

 

 

だが、今日の俺たちの隠れ家には、いつものような自由の気配は微塵もなかった。

 

 

 

「……リヴァイ」

 

 

 

部屋の奥で腕を組んでいたファーランが、低く押し殺した声で俺を呼んだ。

 

 

 

その顔には、普段の飄々とした余裕はなく、苦虫を噛み潰したような険しい色が浮かんでいる。

 

 

 

隣に立つイザベルも、いつもならうるさいくらいに喋り倒す口をギュッと結び、不安げに俺とファーランを交互に見つめていた。

 

 

 

状況は、最悪だった。

 

 

 

詳細は語るまでもない。

俺たちの仲間───この地下街で貧しくとも身を寄せ合って生きている何人かの連中が、姿を消したのだ。

 

 

 

いや、『消された』わけじゃない。

 

 

 

これは明確なメッセージだ。俺たちに否応なく首を縦に振らせるための、『前金』という名の卑劣な人質。

 

 

 

「……で? どこのどいつだ、俺たちの首輪を握ろうって薄汚ぇ豚は」

 

 

俺は、薄暗い隠れ家の入り口に立つ数名の黒服の男たちを、氷のように冷たい目で見据えて吐き捨てた。

 

 

 

憲兵の犬か、あるいは地下を牛耳る元締めの手先か。

どちらにせよ、俺たちの身内を盾に取るような真似をした以上、ただで済ますつもりはなかった。

 

 

 

だが、黒服の男たちは俺の殺気に怯むことなく、無言で道を空けた。

 

 

その先───地下街から地上へと続く、決して俺たちには登ることの許されない長く薄暗い階段。

 

 

 

その中腹あたりに、恰幅の良い、見るからに上等な仕立ての服を着た初老の男が立っていた。

 

 

「……ごきげんよう、地下のネズミ諸君。君たちの見事な立体機動の腕前は、私の耳にも届いているよ」

 

 

見下ろすような視線と、脂ぎった顔に浮かぶ傲慢な笑み。

 

 

そいつの顔には見覚えがあった。ニコラス・ロヴォフ。

地上の王政府でふんぞり返っている、権力にまみれた腐れ議員の一人だ。

 

 

「……何の用だ、地上の豚。仲間を返しに来たんなら、その脂身ごと削いでやるが」

 

 

 

俺がブレードのトリガーに指をかけると、ファーランが「待て、リヴァイ」と鋭く制した。

 

 

 

相手は俺たちの弱みを握っている。ここで斬り捨てれば、人質がどうなるか分からない。

 

 

ロヴォフは俺の殺気を鼻で笑い、ステッキで階段の石段をカンカンと叩いた。

 

 

「野蛮な真似はよしたまえ。私は君たちに、素晴らしい取引を持ちかけに来たのだ。

……君たちも、こんな掃き溜めで一生を終えたくはないだろう?」

 

 

「取引、だと?」

 

ファーランが眉をひそめる。

 

 

「そうだ。君たちに、ある簡単な『仕事』を頼みたい」

 

 

ロヴォフは、もったいぶるように目を細め、階段の上から俺たちを見下ろしたまま、そのふざけた依頼の全貌を口にした。

 

 

「……調査兵団に所属する、”アトラス・ベニア”という女を殺せ。そうすれば、君たち全員に地上での居住権を与えよう」

 

 

「……は?」

 

 

俺の口から、無意識に間抜けな声が漏れた。

 

 

 

アトラス・ベニア

 

 

誰だ、そりゃ。

 

 

地下街の底で生きる俺たちにとって、地上の情勢など何一つ知る由もなかった。

 

 

 

最近、調査兵団が壁外遠征で何かとんでもない偉業を成し遂げたらしい、という噂の欠片が風の便りに流れてきた程度だ。

 

 

だが、その調査兵団の中にいる「アトラス・ベニア」なる女が何者で、どれほどの脅威なのか、俺たちには見当もつかない。

 

 

「調査兵団の、女を一人殺す……それだけで、地上の居住権だと?」

 

 

ファーランが、信じられないというように呟く。

 

 

割が良すぎる。

 

 

相手が調査兵団の兵士だとしても、たかが人間一人だ。俺たちの立体機動の腕があれば、寝込みを襲うなり、街中で背後からうなじを削ぐなり、造作もないことだ。

 

 

 

それだけで、この腐った地下から抜け出し、仲間たちと共に陽の当たる地上で暮らせるというのか?

 

 

 

(……胡散臭ぇ)

俺は、ロヴォフの脂ぎった顔を睨みつけながら、内心で舌打ちをした。

 

 

 

こんな豚が、ただの兵士一人を殺すためだけに、地下のゴロツキをわざわざ雇い、人質まで取って確実に仕事をさせようとする。

 

 

 

その「アトラス・ベニア」という女には、確実に何か裏がある。

 

触れれば火傷じゃ済まないような、とんでもない爆弾が隠されているはずだ。

 

 

「……リヴァイ。どうする……?」

 

 

イザベルが、不安げに俺の袖を掴む。

 

 

俺は小さく息を吐き、ブレードの柄から手を離した。

 

 

「……やるしかねぇだろ。俺たちの手札は、最初から切らされてんだからな」

 

 

仲間を人質に取られ、目の前に地上の光をぶら下げられた。ゴロツキに選択の余地などない。

 

 

(アトラス・ベニア……

どんな面した女か知らねぇが、俺たちの地上の切符になってもらう)

 

 

 

 

これが、俺たちと、あいつら──人類の常識をすべて破壊する「歩く終末兵器」と「鬼神」という、絶対に手を出してはいけない理不尽の権化との、最悪な邂逅への始まりだった。

 

 

 

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