進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第八十八話

844年4月27日

 

春のうららかな陽射しが降り注ぐ中、シガンシナ区を出発した俺たちは、ウォール・シーナ内に存在する調査兵団本部へと向けて、長閑な街道で馬を走らせていた。

 

 

だが、俺の心中はこれっぽっちも長閑ではない。

 

 

一週間強。そう、あの日から一週間と少しの期間に及んだ、『慰安旅行』という名の血で血を洗う【貞操防衛戦争】が、ようやく、本当にようやく幕を閉じたのだ。

 

 

 

(エルヴィンよ……お前、一体どういうつもりか知らないが……リーシェと俺を『二人きり』で『人里離れた』特別施設に旅行へ向かわせるという悪魔的な提案、よくもやってくれたな……ッ!!)

 

 

手綱を握る手にギリッと力がこもる。

 

 

この一週間強、俺は地獄を見た。

 

 

四六時中、昼夜を問わず目をギラギラと光らせた飢えた獣(リーシェ)とひとつ屋根の下に隔離され、いつベッドに引きずり込まれて物理的に食べられてしまうか分からない、極限の恐怖と隣り合わせの生活を味わい続けたのだ。

 

 

巨人体になれば、俺は半径10キロを吹き飛ばす規格外の存在だ。

 

 

だが、人間の姿のままでの単純な近接戦闘力や体術、そして何より『隙を突く神速の身のこなし』においては、圧倒的にリーシェに軍配が上がる。

 

 

俺にも膂力はあるが、相手は俺を愛してやまない可憐な女の子だ。

 

 

本気で振り払えば彼女の骨が折れてしまうかもしれないという「俺自身の優しさと甘さ」という最大の弱点を、彼女は完全に理解し、冷酷なまでに利用し尽くしてきた。

 

 

 

彼女がその気になれば、俺のこの無駄に神がかった美少女ボディを腕力で組み伏せ、好き放題に蹂躙することなど造作もなかったはずだ。

 

 

 

では何故、俺はこの長きにわたる地獄の1週間、己の尊厳と貞操をギリギリのところで守り抜くことができたのか。

 

 

 

それは偏に、彼女の残された最後の理性───いや、狂気的な愛ゆえのこだわりである、『アトラス自身の”同意”がなければ最後まで手を出さない』という、彼女なりの謎のルールが存在していたためだ。

 

 

 

ただ、それでも限界というものはある。

 

 

『最後まで手を出さない』だけであって、それ以外の過程は完全にフリーパスだと思い込んでいる節があった。

 

 

事実、俺はこの一週間、定期的に首筋や鎖骨、太ももといった特定部位を執拗に吸われ、全身の匂いを限界まで嗅ぎ回られ、少しでも気を抜けば背後から服の中に手を滑り込ませてこられるという、セクハラのフルコースを味わい続ける羽目になった。

 

 

『ねぇ、アトラス……いいでしょ? 私の全部、アトラスにあげるから……だから、アトラスの全部も私に頂戴……?』

 

 

耳元で、蕩けるような甘い声でそう囁きながら、俺自身の理性をあの手この手でぶっ飛ばそうと、幾度となく「同意」を引き出そうと迫ってきた彼女の姿。

 

 

 

薄暗い寝室で、俺の上に馬乗りになり、アイスブルーの瞳を妖しく潤ませながら俺の唇を奪おうとしてきたあの夜の記憶が、その時の生々しい肌の感触や甘い吐息の熱量ごと脳裏にフラッシュバックする。

 

 

「……ッ!!///」

 

カァァァッ! と、全身の血液が一気に顔へと集まるのを感じた。

 

 

俺は馬の背に揺られながら、限界まで熱を持った頬を、街道を駆け抜ける春の風に当てて必死に冷却する。

 

 

(エルヴィン……てめぇ、俺の壁内での戸籍を手配してくれた恩はあるが、今回の件だけはマジで絶許だからな。

本部に戻ったら絶対硬質化のクリスタルで団長室の扉塞いでやる……覚悟しとけよ)

 

 

心の底から湧き上がる上官への黒い復讐心を燃やしながら、俺は自身の現在の服装へと視線を落とした。

 

 

今日、俺が身に纏っているのは、あの破壊的なヴィクトリアン風メイド服ではない。

 

 

兵団本部への正式な合流に備えてエルヴィンが手配してくれていた、『女性用の調査兵団服』である。

 

 

白いシャツの上に丈の短いブラウンのジャケット、そして白いスリムパンツ。腰には濃茶色の巻きスカートのような布。

 

 

何より、絶対領域や胸の谷間を晒していたメイド服に比べ、肌の露出面積が圧倒的に少ない。

 

この防御力の高さと、普通の服を着られているという偉大さに、俺は深い感動と安心感を覚えていた。

 

 

……しかし。

安心したのも束の間、俺はすぐに別の問題に直面することになった。

 

 

 

女性用の兵団服は、機動性を高めるためにかなりタイトに作られている。

 

 

さらにその上から、立体機動装置を固定するための全身を這う『革ベルト(ハーネス)』を装着しなければならない。

 

 

この無数の革ベルトが、ウエストの細さを異常に際立たせ、あろうことか胸の膨らみを下と横から強烈に締め上げて強調するのだ。

 

 

おまけにパンツは足のラインにピタッと密着し、歩くたびに腰から太ももにかけての女性特有のしなやかな曲線美を、これでもかとばかりにひけらかす構造になっていた。

 

 

 

露出は減ったのに、なぜかメイド服の時以上に『いやらしい』というか、ボディラインを露骨に強調されているこの密着感。

 

 

俺は手綱を握りながら、ひどい居心地の悪さに身をよじった。

 

 

そして、俺が居心地の悪さを感じている最大の理由は、服の構造だけではない。

 

 

「…………ふふっ。ふふふふっ」

 

並んで馬を走らせている隣から、尋常ではない熱線を帯びた視線が、文字通り俺の全身を舐め回すように這いずり回っているのだ。

 

 

横目で見なくても分かる。リーシェだ。

 

 

彼女は手綱を握ったまま、前方など一切見ず、ただひたすらに俺の革ベルトで強調された胸元や、鞍に跨って張った太もものラインを、ヨダレでも垂らしそうな恍惚とした表情でガン見し続けていた。

 

 

その粘着質で、まるで舌で直接撫でられているかのような生々しい視線は、風で冷やしたはずの俺の頬に、再びカッと熱をもたらすのに十分すぎる破壊力を持っていた。

 

 

(……前向きなさい、危ないよ……落馬するよ……)

 

 

注意しようと口を開きかけるが、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。

 

 

言っても無駄だ。どうせ「アトラスの美しい姿を目に焼き付けていないと死んでしまう病気なの!」などと全く意味の分からない反論をしてきて、さらにヒートアップするだけなのだから。

 

 

俺は大きな溜息を吐き、すべてを諦めて前だけを向き、無心で馬を走らせることに徹した。

 

 

───だが、この時の俺は知る由もなかったのだ。

 

 

俺が人里離れた特別施設で、リーシェの性欲と独占欲から己の貞操を死守する局地戦に明け暮れていた、この空白の一週間強。

 

 

その間に、壁内の歴史の裏側で、原作の悲劇が一つ完全に『回避』されていたという事実を。

 

 

エルヴィンの機転と、リーシェという制御不能のバグが存在したことによる強烈なバタフライエフェクト。

 

 

それにより、本来であれば壁外調査の雨の中で無惨に命を散らすはずだったイザベルとファーランが救われ、原作で最後まで人類を導き戦い抜いた『人類最強の兵士』が、彼らへの人質という鎖ではなく、エルヴィンとの”揺るぎない絶対の契約”という、最も理想的な形で調査兵団の仲間に加わっていたことを。

 

 

 

そしてこの後、調査兵団本部へと到着した直後、俺たちのもとにその小柄で凶悪な刃が向けられ、予期せぬ最悪の対面が控えているということを……

 

 

 

平和な春の風に髪を揺らしながら、俺は近づいてくる巨大な壁の威容を、ただ静かに見上げていた。

 

 

 

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