進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第九十五話
844年4月30日
数日後に控える壁外調査──その出発地点であるシガンシナ区へとウォール・シーナから移動する、前日のことだ。
俺は一人、壁内の人気のない森の奥深くで、とある『練習』に励んでいた。
立体機動装置の練習かって?
まさか、あんな鉄の塊、数日前に自室へ持ち帰って分厚い取り扱い説明書やら操作マニュアルやらを読んだ時点で、秒で投げ捨てた。
レバーの押し引きでガスを噴射し、体重移動でワイヤーを制御する? ムリムリムリ。
あれは正真正銘、狂人のための変態機動装置だ。平和な現代日本で育った俺に一朝一夕で扱える代物じゃない。
では、俺が今この森で何をしているのか。
それは、自身の持つ『硬質化の能力』を応用し、極細の硬質化の糸を生成・伸縮させることで、擬似的に立体機動装置のような動きを再現できないかという実験──もとい、猛特訓である。
考えてみればおかしな話だ。
本来、九つの巨人の能力(硬質化など)は、巨人化しなければ使えないはずだ。
アニだって、指輪で傷をつけて巨人化のプロセスを踏むことで硬質化を扱っていた。
だが、俺は当たり前のように人間体のままでも硬質化能力を使えている。
これはやはり、俺自身が始祖のユミルとは完全に独立した、独自の『道』を保有している完全独立個体へと進化したことが大きな理由なのだろう。
そんな考察はさておき。
俺は今も、太い木の幹に向けてシュバッ!と硬質化の糸を射出し、自身を引き寄せたり、軌道を変えたりする練習を繰り返している。
……実のところ、最初の数日は文字通りの大惨事だった。
勢い余って木に真正面から激突したり、制御を誤ってこの神がかった端正な美少女顔面でゴリゴリと地面を抉りながら滑走したりした。
もしあんな無惨な顔面大根おろし状態をリーシェが見たら、ガチで発狂して森を更地にするレベルの大怪我だったが、そこは巨人特有の超回復力。
数秒で「プシューッ」と蒸気を上げて完治してしまうので、証拠隠滅は完璧だった。
そして、泥と木屑に塗れること数日。
出発前日になって、ようやくその動きが『形』になってきたのだ。
「……ふっ!」
────シュガァッ!
両腰に装着した手のひらサイズの硬質化円盤(射出機)から、透明な糸が放たれ、上空の枝に突き刺さる。
ガチャガチャとレバーやトリガーを操作しなければならない正規の立体機動装置とは違い、俺の硬質化の糸は、俺の『飛ばしたい』という意識と直結している。
見つめた先、思い描いた場所へと、手足の延長のように素直に飛んでくれるのだ。
そのため、慣れてしまえば正規の装置では不可能な、物理法則を無視した様なえげつない機動も可能になっていた。
これが、超楽しい。
元々、巨人としての演算能力や処理能力が異常に高い俺の脳は、この数日間で見た『リーシェの神がかった動き』を、自然とコピーし始めていた。
現在の俺のフル装備はこうだ。
両手には、ブレードを模して生成した超硬度の硬質化の刃。
左右の腰には、糸を射出・巻き取るための手のひらサイズの円盤。
そしてその円盤には、巨人の超高温蒸気を硬質化で作った筒状のケース内に『超圧縮』して取り付け、ガスの代わりとなる強烈な推進力としている。
「いーやっほーい!!!」
超高圧蒸気の噴射音と共に、俺の身体が森の木々の間を弾丸のように駆け抜ける。
重力から解放されたような浮遊感。風を切り裂く速度。
(楽しい! 自由だぁぁぁ!!!)
テンションが最高潮に達した俺は、試しに両手のブレードで、目の前に迫る巨大な木を斬りつけてみることにした。
イメージするのは、リーシェや、あの休憩室で出会ったリヴァイが得意とする『回転斬り』だ。
蒸気を全開にして、残像のような速度で木に向けて飛び込む。
身体を横に倒し、ドリルのように高速回転!
常人であれば、この速度と回転の遠心力だけで肉体が空中分解してしまうところだが、そこは抜かりない。
回転する瞬間、全身の皮膚の表面に極薄の『硬質化の外骨格』を展開し、肉体の崩壊を完全に防ぎながら刃を振り抜いた。
木の表面を軽く斬りつけ、樹皮を削ぎ落とすつもりだった。
しかし。
────ズバァァァァァァァンッ!!
刃が触れた瞬間、手応えすらほとんどなく、大気を揺るがす凄まじい轟音が響き渡った。
「えっ」
空中で姿勢を立て直した俺が振り返ると、直径が2メートルはあろうかという巨大な大木が、まるでバターでも切られたかのように斜めにスパッと両断され、ズズンッ……!と地響きを立てて倒れていくところだった。
「……つ、強い……!」
自分のデタラメな出力に、俺自身が一番ドン引きしていた。
疑似立体機動装置の圧倒的なスピードと、絶対に砕けない硬質化の刃、そして遠心力に耐え切る外骨格。
これらを組み合わせた人間状態の俺の攻撃力は、もはや並の巨人のうなじどころか、鎧の巨人の装甲すら紙屑のように切り裂けるレベルに到達していた。
「あはは……なんかもう、人間やめてるなぁ……」
とはいえ、この圧倒的な全能感と空を飛ぶ爽快感は、一度味わうと癖になる。
俺は倒れた大木を見下ろしながらニヤリと笑い、再び腰の蒸気シリンダーを吹かした。
数日後に控える壁外調査。
リーシェやリヴァイがいる手前、俺が自ら戦う場面はないだろうと思っていたが、これならいざという時の自衛(とストレス発散)には十分すぎる。
俺はその後も、出発前夜であることすら忘れ、夜通し森の中を飛び回り、満足するまで自身の新たな翼の動作確認を続けるのだった。
ここだけの話、実は初期案は硬質化の鎧を纏い巨人蒸気で空を飛び交うアイ〇ンマン装備にするつもりでした。
結局世界観との兼ね合いを考慮して立体機動装置の上位互換みたいな感じに落ち着いたんですけどね。
R.I.P ア〇アンウーマンアトラス……