擬英戦記   作:キセツ

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エピソード6「カクゴ」

 ガナード本部のとある研究室でゼインはメンテナンスを受けていた。ゼインが倒したスペースビースト、『ガルベロス』から受けたダメージの修復とダークフィールド対策のバージョンアップをプログライズキーに施していた。

 

「博士、これで彼らが放つ不連続時空間でも変わりなく戦闘できるでしょうか?」

 

「理論上ではね。でもこれはあくまであなたに蓄積されたデータに基づくものを仮定に仮定を重ねたものだから」

 

「ではまたデータの方を蓄積して参ります」

 

「それはいいけど、カードの方はどうする?補充できるけど?」

 

「遠慮しておきます。私は私の力で守って見せたいのです」

 

「このシステムも一応あなたの力の一部よ?」

 

「確かに私は様々な能力をカードを通して使用できる力があります。しかし、力だけでは時には救えないことを知ったのです」

 

「力だけじゃ救えないねぇ。誰から教えてもらったの」

 

「ジオライザー、彼には私にないものを持っています。今はただ・・」

 

「何かあったかと。そう言う時は見守ることも重要だったりするのよ」

 

「見守る・・ただ見ているだけでよろしいのですか?」

 

「その人が間違った道を進みそうになったらそれを止める。その人が進みたい道を見つけたら全力で助ける。そうでいいんじゃない?とりあえず、私は別の仕事があるから」

 

 白衣の女性はゼインにプログライズキーを手渡すと、複数のディスプレイに接続された機械に向き直る。ゼインはその機械をのぞき見る。

 

「この機械は?」

 

「うちの総司令から預かったもの。あのS.A.M.の生き残りが本物かどうか確かめるために直してくれって頼まれてね」

 

「サムですか・・」

 

 ゼインはふと疑問に思った。この人はサムの正体をサムの中身を知っているのだろうか。疑問が口から発するその時、伝えるのをやめた。サムが今まで正体を隠していたのは何か訳があるのだろうと考え直したのだった。白衣の女性は不思議そうな顔をしたが機械の前に座り、マザーコンピュータの修復に取りかかった。

 ハルトは暗い表情をしていた。ジオライザーという力を手に入れ、ようやく人々を守れるヒーローになったとばかり考えていた。ファウストに手も足も出ず、ただやられてばかりだった。挙句の果てに共に戦ってきた者に庇われ、その者が倒れる光景を目の前で見てしまった。ハルトが深く考え込んでいたところに声がかかる。

 

「ハルト君、何してるの?」

 

 ハルトは顔を上げる。そこには美佳が顔を覗かせていた。美佳の顔を見たハルトは再び、俯く。美佳は表情を変えることなく、ハルトに寄り添う。

 

「何かあったの?」

 

「・・色々と。今はそっとしておいてくれ」

 

「負けたことがそんなに悔しい?」

 

 ハルトは首を振るう。しかし、美佳はハルトのことを気にせず、言葉を続ける。

 

「君はあの戦士に負けたことを心のどこかで悔やんでいる。だから君は力を欲してる。違う?」

 

 ハルトは心ない美佳からの質問にやけになる。腕で、美佳を振り払うように回し、美佳から距離を取る。

 

「一体何なんださっきから!何で知ってるんだ!俺が負けたこと・・」

 

 ハルトの表情は恐怖で顔を強ばらせていた。美佳は作っていた笑顔をやめ、死人のような無表情へと変わる。

 

「知ってるよ私。だって」

 

 美佳の姿が一瞬にして変わる。そこにいたのは赤と黒の姿をした闇の戦士、ファウストがそこに立っていた。ハルトの表情は絶望の表情へと変わる。自身の幼なじみが闇の戦士だったことに深く絶望していたのだ。

 

「なんで、美佳ちゃんは・・本物の美佳ちゃんは!」

 

「彼女ならすでに死んでいる。七年前にな。私は身体を模倣したに過ぎない」

 

「そんな・・そんな・・・」

 

「私が憎いか?なら私に復讐するがいい。今ここで」

 

 ファウストは腕を広げる。いつでも攻撃してきていいと言わんばかりの態度だった。ハルトは怒りで支配されそうになっていた。しかし、ジオライザーは祖父に預けていた。拳を固く握りしめ、今にも殴りかかるその時、ハルトの後方から真空波がファウストに命中する。続けてもう一発真空波が撃ち込まれるが腕で振り落とされる。ハルトが振り向くとそこにはハンドガン型の銃のようなもの『ブラストショット』を手に持った弧門が立っていた。弧門はポンプアクションを行い、リロードする。再び、ブラストショットを撃ち込むがファウストは全て避ける。

 

「またここで会おう。その時が楽しみだ。お前が闇に飲まれるその様を」

 

 ファウストはそう言い残し、飛び去っていった。弧門はそれを目で追い続け、ハルトの方へ目を向ける。そこには力が抜け、膝をつくハルトがいた。

 

「大丈夫か?」

 

 孤門が声をかける。だがハルトは答えることができなかった。孤門はハルトが落ち着くのを待ち、近くの石の階段に腰をかけた。ハルトは依然として暗い表情のままであった。孤門が沈黙した状況を変えるために話し始める。

 

「七年ぶりだね」

 

「七年ぶり?」

 

「あの時はお互い、自己紹介をしてる場合じゃなかったし。改めまして俺は孤門一輝」

 

 孤門一輝という名前を聞き、ハルトは思い出す。あの地獄のような状況から自身を助け出し、共に街から逃げたガナードの隊員のことを。確かに自分には名前を名乗っていなかった。だがあの銀色の戦士にノクスナイトに名乗っていたことを記憶の片隅に残していたのだ。

 

「孤門さん。生きてたんですね」

 

「生きてはいたよ。ただそこからが生き地獄だったけどね」

 

「え?」

 

「君と本部に戻って別れた後、俺はすぐに自分の部隊が全滅したことを知ったよ。君にまた嘘をついてしまったと」

 

「嘘ですか。でもまたってどういうことです?」

 

「君の両親は既に死んでいた。それなのに君に苦しい思いをさせないためにまだ助かるような言い回しをしてしまった」

 

「そうだったんですね。実は自分自身でもあの時点で死んでいたことに薄々感じてはいたんです。両親から最後の言葉を聞いて、その後動かなくなって。そんな時に孤門さんたちが来て、無我夢中で」

 

「そうだったのか。両親が君に残した言葉、聞いても良いかな?」

 

「いつか、夢が叶った姿を見せてくれて。ヒーローになった俺の姿をって」

 

「今の君はヒーローになれたかい?」

 

「全然ダメですよ。スペースビースト相手に敵わないし、あの闇の戦士にすら…それにアイツは俺の幼馴染の姿に化けて」

 

「そうだったのか。俺から一ついいかな?」

 

「一つ?」

 

「そう一つ、君はもう既にヒーローだよ」

 

「そんな、お世辞なんて」

 

「お世辞じゃない。ヒーローっていうのは誰かを倒す存在じゃない。誰かを守る人のことをいうんだ。その点、君は一生懸命人を助けようとしてる。それで助かった人だっている。だから俺は君と一緒に戦いたいと思った」

 

「一緒に戦う?」

 

「そう一緒に。俺は上層部から切られ、この先どうすればいいか迷っていた。君に会う顔が立たずに。そんな時、不思議な夢を見たんだ。どこの神殿に俺はいて、目の前には不思議な形をした石像が置いてあったんだ。それに触れた時、目の前に君があった光の戦士、ネクサスが現れたんだ」

 

「ネクサス?」

 

「そう、ネクサス。それが彼の名前だった。ネクサスから俺は光を受け取った。光に触れた瞬間、こう言われたような気がしたよ。人々の光を守れって、だから俺はネクサスとして戦う道を選んだ。戦っていく中でパワードスーツに身を包んだ君と出会った。あの時から成長していたが一瞬で分かったんだ。君だって」

 

 ハルトは心の中で驚いていた。ジオライザーを身にまとった自身を見抜き、七年の時を超えたとしても自分だと気づけた孤門に。そして知らず知らずのうちに共に戦っていたことに。

 

「ネクサスって凄いですよね。ジオライザーじゃ勝てない相手でも勝っちゃうんですから」

 

「それは違うよ。ネクサスは光だ。人々の心の光がネクサスを強くする。君の心の光がネクサスを強くしてくれてたんだ」

 

「俺の心の光?」

 

「そう。光は目に見えず、気づきにくい。でもそこに確かにあるんだ。だからネクサスは戦える。君には人々の心の光を守ってほしいんだ。俺と一緒に」

 

「人々の光を守る…」

 

 ハルトは思い返す。人に親切にしたことを両親に伝えた時の二人の顔を。助けた人々の安堵と笑顔を。自身の中の親切を受け止めた時のゼインの表情を。

 

「俺、目の前でサムさんが俺を庇ってやられたことをずっと引きずっていたんだ。ようやく守れると思ってたのになんで今、守られているんだって。でも違ったんだ。互いに守りあって戦っていく。勝つんじゃなくて守ることが大切なんだって」

 

「そうだ。俺たちは一人じゃ限界がある。だから一緒に戦うんだ。戦えない人々を守るために」

 

「ありがとう、孤門さん。俺、自分を見失いかけてたよ」

 

「良いんだ。俺も君と話せて良かった。これからよろしく」

 

 孤門は手を差し出す。ハルトはそれに答え、握手を交わす。そこには先ほどまでの暗い表情はない。自分の道を自分自身を見つけ出した明るい表情を取るハルトがいた。握手をし終えると孤門が持つ短剣のような道具『エボルトラスター』の中央部分が光輝いていた。それはスペースビーストが出現していることを知らせる光だったのだ。

 

「ハルト君。どうやらスペースビーストが現れたみたいだ」

 

「ごめん孤門さん。今、ジオライザーの方はメンテ中で」

 

「分かった。このスペースビーストは俺に任せて。きっと、彼らも気づいてるはずだから」

 

 孤門は少しハルトから距離を取るとエボルトラスターの鞘の部分を引き抜き、本体を空へ掲げる。本体から光が溢れ出し、孤門を包み込む。光が止むとそこにはネクサスが立っていた。ネクサスはハルトの方を振り向く。ハルトは笑顔で頷き、それを見たネクサスは向き直ると上空へと飛び立っていった。ハルトは見送る。彼から照らされた光はハルトの中の怒りや絶望を祓っていったのだ。

 とある大通りをガナードの小部隊が闊歩していた。アサルトライフルを解体した隊員の他に三メートルはあるであろうロボット兵が四体、ガナード上層部の一人、『ヘルマン・エルス』の後ろを付いていた。ヘルマンは歩みをやめ、それに続いてロボット兵とガナード隊員も歩みを止める。そこには一体のロボットが立っていた。それはコードゼロイダーが人型に変形した姿であった。

 

「どこへ向かうつもりかな、ヘルマン司令」

 

「貴様に関係ないだろ。そこを退け、でなければスクラップにするぞ」

 

 ヘルマンの高圧的な命令に微動にしないコードゼロイダー。ヘルマンはそんな姿に苛立ちを見せていた。

 

「君たちがどこに向かっているのか。見当はついている」

 

「なら何故どかない?ガナードが向かわなければ大勢の人々が犠牲になるのだぞ?」

 

「大勢の犠牲?なんのジョークだ。君たちがやろうとしているのは二人の人間の抹殺だ」

 

 コードゼロイダーの言葉にガナード隊員が困惑する。隊員同士で確認するものもいれば、ヘルマンに疑いの視線を送るものもいた。ヘルマンはますます苛立ちを高める。それは表情からも読み取れるほどのものであった。

 

「黙れ!何を根拠に言っている!」

 

「この先に、神代という名の老人と少年が住む家がある。だが用があるのはこの二人じゃない。そこで匿われているであろうサムに用があるのだろ?」

 

「…だったらなんだというのだ?」

 

「君たちガナードと共に人々を守ってきたサムに礼がしたいのであれば、君一人で十分なはずだ。だが君は武装した兵隊と戦闘用ロボットまで引き連れている。とても礼を伝える様子には見えない」

 

「礼だと?誰か共に戦ってくれと頼んだ?奴などガナードにとって邪魔でしかない。もう良い、この不愉快な奴を撃て!」

 

 ヘルマンは射撃命令を下す。ガナード隊員は躊躇するがロボット兵はすぐさま行動に移す。手の代わりに装備されているクローの隙間からエネルギー弾が発射されるその時、ガナード隊員の中から一人の青年が飛び出し、ストリームカプセムを回転させる。回転と同時に突風が巻き起こり、ガナード隊員とロボット兵が少し飛び、ヘルマンも体制を崩す。

 

「だっ誰だ貴様!上官の指示を無視するばかりか妨害するだと!」

 

「悪いけど俺の上司はたった一人でね」

 

 ガナード隊員に扮していたコードナンバーVIIがコードゼロイダーの肩を軽く叩く。

 

「VII、ナイスタイミングだ」

 

「あんたの読みどおりだっただけだよ。ゼロ」

 

「ぐっ貴様らぁ!取り押さえろ!」

 

 ヘルマンが二人に指を刺し、次なる命令を下す。ロボット兵はすぐさま起き上がり、戦闘体制を整える。

 

「機械には機械の力を使うか」

 

 コードナンバーVIIはゼッツドライバーを胸に装着し、水色のカプセム『マシーナリーカプセム』をドライバーにセットする。ボタンを押し、カプセムを回転させ、変身する。青黒い煙が晴れ、おおよそテクノロムストリームに似た姿をしているが右腕、両脚は銀色となり、代わりに左腕には四本のロボットアームを装備した『テクノロムマシーナリー』へと変身したのだ。

 ゼッツは右手のブレイカムゼッツァー・ガンモードで二体のロボット兵に牽制射撃を行い、接近する。ゼッツが近づいた瞬間にロボット兵が一斉にクローアームで襲いかかる。ゼッツはロボット兵の間を前転で潜り抜け、再びブレイカムゼッツァーで攻撃する。二体のロボット兵のメインカメラに命中し、活動を停止させることに成功するが、残りのロボット兵がエネルギー弾を一斉掃射する。

 ゼッツは胸のカプセムを回転させ、左腕のクローをクレーンアームへ変化させ、建物の外壁に突き立てる。固定されたクレーンのワイヤーを使い、上空へ逃げる。上空に浮遊している合間に一体のロボット兵のカメラアイを的確に撃ち抜き、機動不能にする。ロボット兵から距離を経た場所に着地し、ブレイカムゼッツァーを構え、突撃する。ロボット兵も掃射で応戦するがゼッツは最小限の動きでそれらを回避する。ロボット兵の懐に飛び込み、クローアームをドリルのように回転させ、カメラアイに突き刺す。金属と金属がこすれ合う甲高い音を放ちながら、ロボット兵は徐々に機能を停止する。

 ゼッツは全てのロボット兵を倒し、少し息をつくがガナード隊員から攻撃を受ける。並の兵器であればゼッツにダメージはない。ゼッツは攻撃を受け続けるだけで反撃をしようとしない。ロボット兵もゼッツの力があれば破壊することも容易であったが動きを止める程度に抑えていた。ゼロとゼッツはしばらく様子を伺う。ヘルマンはゼッツ討滅のために更なる増援を要請しようとする。しかし、ヘルマンの通信機からは自身の要請より先に総司令からの指示が入る。

 

「ヘルマン司令、直ちに本部に戻ってくるんだ」

 

「何故です総司令!今私は我々の邪魔をするものの排除をしようとしているのですよ!」

 

「では君の目の前の彼らは何の邪魔をしたのだ?」

 

「ぐっ」

 

 ヘルマンは言葉に詰まる。下手に嘘をつけばそこを詰められるの目に見えていた。しかし、自身がロボット兵まで持ち出し、S.A.M.の生き残りとそれを匿った人物を殺そうとしていたのだ。仮に前者の嘘を通せたとしても現状ゼッツと対峙している理由が説明できない。

 

「…これより本部に戻ります」

 

 ヘルマンは苦虫を噛み潰したような表情を取る。周囲のガナード隊員に攻撃を停止するよう指示をし、来た道を戻っていった。ゼッツはカプセムを取り出し、変身を解除する。

 

「いいタイミングだったな。何があったんだ?」

 

「さぁ?それよりVII、念のため神代家の様子を見てきてくれ」

 

「分かった。後で連絡する」

 

 コードナンバーVIIは神代家へと走って行く。ゼロはその様子を見届けるとどこかへと連絡を取る。

 

「これで良かったかな?今はゼロと呼ぶべきかな?」

 

「あぁ今はそれで頼むよ。コードゼロイダーの記録は役に立ったか?」

 

「役立てるさ。ありがとうゼロ」

 

「こちらこそ、『ロン』」

 

 ゼロは通信を終える。しばらく考え込むように制止しているとコードナンバーVIIの後を追うように神代家へと向かった。

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