ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
────満身創痍。
その状態で、道路に放り投げられた。
意識は、一応はあった。震える腕で身体を起こしかけて────
そこに迫ってきていた光。
意識はあったが、とっさの判断をする余裕はなかった。それに、身体もそれに反応できる状態ではなかった。
だから、無意識にそうしたのか、それとも、なにかの物の弾みだったのか、それは解らない。
ただ、その身体は光に包まれた。
ガチャン、キキキキキィイィィィィィ!!
所謂2トン車、具体名を上げるならトヨタ ダイナ、いすゞ エルフ、三菱 キャンターが所属するトラックの、ヘッドライトの直下、バンパーに、その身体は激突する。
ドライバーにとっては突然の出来事過ぎたのだろう。急ブレーキにタイヤが上げるスキール音は、衝撃音より後に聞こえてきた。
トラックは数メートル走って停止し、ドライバーが慌てて降りてきた。
「っ!!」
路肩に転がった血
「事故です!
─☆──☆──☆──☆─
目を覚ますと、白い天井が目に入った。
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
断続的な電子音が聞こえてくる。
身体中が痛む。ぴくりと動かすのも今は苦しかった。
僅かに視線をずらすと、見たことはある機械や、点滴の台が視界に捉えられた。
── 病院、か。
思考もボーッとする中で、ようやくその判断はついた。
身体中が痛いのに、それを上回って酷く眠かった。
思考は回らない。今は眠気に従うままに、意識を手放した。
次に目を覚ました時は、身体の痛みはだいぶひいていた。
点滴の針が腕に入っているが、それ以外は、特に拘束されている様子でもなかった。
上半身を起こしてみる。
「えっ?」
思わず声が出た。慣れない ──── いや、そうでもなかったが、その重みの感覚があった。
手を伸ばしてそれに触れてみる。確かに、それは存在した。
それなりに豊かと言っていい、乳房。
── どうして? こんな時に……
戸惑いつつ、自身の身体の様子を、自分で見られる範囲で確認する。
白い病衣を着せられている。ベッドに仰向けに寝かされている状態だが、尻に異物感はなかった。
「あの……あの! 誰かいませんか!?」
最初に声を出してしまったが、それには反応がない。
見ると、白い無機質なベッドのフェンスに、『呼出』と書かれている、コードの繋がったボタンがかけられていた。
使ったことはなかったが、それが何かは知っている。
押していいものか、それを悩んで一瞬躊躇ってから、震える指で押した。
僅かに経って、
「意識がお戻りになられたのですね。今、
相手を安心させるかのような笑顔で、看護師はそう告げてきた。
「あの、僕……えっと……」
「大丈夫、必ず良くなりますから」
戸惑った声を出すと、看護師は相手が不安だと思ったのか、元気づけるようにそう言ってくる。
「そうじゃなくて……その……」
どう言っていいやら、そもそも自分で自分がどんな状況なのかも自分では完全に認識できず、戸惑ったように声を出す。
「はい?」
看護師は、不思議そうに聞き返してきた。
「あ……そうだ、鏡、鏡ありませんか……?」
思いついて、そう訊ねる。
「鏡、ですか?」
看護師がそう聞き返してきた時に、診療服を身に着けた、男性の医師がやってきた。
「ちょっと待ってくださいね」
看護師はそう言うと、医師と言葉を交わした後、一旦その場から離れていった。
「意識が戻ったのは良かったが……とにかく奇跡的な回復力だよ。キミ」
医師は、驚いたような喜んだような様子で、まずそう言ってくる。
「は、はぁ……」
状況が把握できていないので、生返事を返すことしかできない。
「まず、キミの名前を教えてくれるかな?」
「はい。僕は、
医師の質問に答えると、医師は、一瞬、意外そうな顔をした。
「あ、ああ、失礼」
それから、医師は問診をしてきたが、とりあえず答えてはいたものの、意識を別の事に取られていて、ぼうっとした様子になっていた。
その問診が終わると、先程の看護師が戻ってきていて、
「はい、鏡です」
と、シンプルな手鏡を差し出してきた。
「あ、……あ、あぁ…………!!」
表情が、一気に驚愕と困惑に染まる。
岸辺颯太が覗き込んだ鏡の中には、魔法少女のラ・ピュセルがいた。
半日ほど経った頃。
「面会の希望がありますが、お会いになれそうですか?」
看護師がやってきて、そう訊ねてきた。
「えっと、何処の、誰?」
そう聞き返す。
両親がやってきたとして、今の姿をどう説明していいのか。いや、そもそも親は自分を颯太だと認識してくれるだろうか。それを考えると、怖くすらあった。
「姫河さんと仰られる方です。親族の方だと言われておりましたが」
「!」
── 小雪が、来たんだ。
妙な緊張を感じるが、看護師に対しては、
「会います。会わせてください」
と、答えた。
「解りました」
看護師がそう答えて、一旦病室から出ていく。
数分経って、
「そうちゃん!」
と、聞き慣れた声が聞こえてきた。
視線をそちらに向けると、看護師に付き添われて、少女が入ってきた。マスクをしているが、見間違えない顔だ。幼馴染の
「小雪、来てくれたんだ」
嬉しい部分もかなりあったが、自分の置かれている境遇のせいで、顔は正面を向いたまま、どこか無気力な態度と声になってしまっている。
「うん。そうちゃんのおじさんとおばさんから、帰ってきてないって聞いて……探してたの。そうしたら、ここで、そうちゃんの困ってる声が聞こえたから……」
「じゃあ、僕がどうなっちゃってるかも解ってるんだ」
「…………うん」
それについて問われて、小雪は少し言い澱んだ後、肯定の返事をした。
「どうしても、戻れないの?」
「うん」
小雪の方から問いかけてきて、それに答える。
「何度も試したけど、駄目だった」
そう言ってから、顔の向きを変えて視線を小雪に向け直す。
「僕の親戚って言ったんだって?」
「うん。そうしないと、入れそうになかったから」
「そっか」
どうやってそう判断したのか、病院職員の困っている声を聞いたのか、魔法は変身中じゃないと使えないはずだったが…………ただ、そんな事はどうでも良かった。
「これからどうしようって……この格好で僕だって言っても、父さんも母さんも信じてくれないだろうし…………」
そこで、表情が崩れた。泣き出しそうにくしゃくしゃにしている。
小雪が、慌てた様子で身を乗り出し、
「わ、私が説明するよ、ちゃんと、解ってもらうから……」
と、言った。
「大丈夫、大丈夫、助かったんだから、大丈夫……」
小雪も、どう声をかけていいのか解らず、ただ、思いついた単語で慰める。
「うぅうぅぅぅ……」
慰めの言葉を聞いても、惨めで、怖くて、悲しくて、涙も声も止められずにいた。
30分ほどして、小雪は面会終了を告げられ、一旦は帰っていった。
「小雪……僕が守るって、言ったのに……」
呟く。
「うぅ……うぁ……」
その後も、時折涙が止まらなくなり、嗚咽を漏らした。
翌日、午前中から、両親は病院にやってきた。
小雪もいる。面会ルール違反だったが、両親が頼み込んで、なんとか入れてもらったらしい。
「…………颯太、なのか?」
父親が、まず、まだ信じられない、という様子で、訊ねてきた。
「うん」
ただ、期待できない、という感情で、短く返す。
「なら、颯太なら答えられる事を訊いていくぞ」
そう言って、父親が質問をしてくる。
まず、自分の生年月日、父親の名前と生年月日、母親の名前と生年月日。続いて、家の間取り、家具や家電製品の配置。
それらは、問題なく答えることができた。
「それなら……」
父親が、そう言ってより個人的な質問をする。
「父さんが一度だけ、お前の部屋で見つけて、見なかったことにした
「『キューティーヒーラー』のDVD。押入れの棚の裏側に隠してた」
次に、母親が訊いてくる。
「小さい頃、熱を出した日に、あんたがどうしても着るって聞かなかったパジャマの柄は?」
「ピンクの、星がいっぱいついてるやつ。『魔法少女っぽい』って言って困らせた」
再び、父親の質問。
「お前がサッカーを辞めるって言いかけた日、最後に何て言い直した?」
「『やっぱりやる。強くならないと、守れるものも守れないから』」
──────── 両親は目の前の少女が自分達の息子だと信じられない一方、数日来帰ってきていない息子が生きていて欲しいという願いから、幾つも質問した。
その内容は、普段なら自身にとって恥ずかしいものもあったが、今は淡々と、答える。
全てがスムーズに答えられた訳ではなかったが、答えられたものの内容は、自分でなければ知らないはずのものだった。
「うーん……」
「お父さん」
父親は腕組みをして唸り声を出す。母親が、それに縋るような声を出した。
やがて、父親は母親に促しつつ、立ち会っていた男性看護師の方を向く。
「ご迷惑おかけしています。どうやら、うちの子のようです」
父親がそう言って、母親と揃って深々と頭を下げた。
「それなら、良かったんですが……」
あまりに荒唐無稽な出来事で、看護師も手放しでは喜べず、困惑した様子で言う。
「それでは、入院の正式な手続きをお願いします。それと、自動車事故なので、相手ドライバーとの連絡も」
「はい」
看護師に促されて、父親は、そう言って手続きに向かった。
「颯太、なんだね?」
母親が、再度近づいてきて、訊ねてくる。
「うん。信じられないよね」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ」
つっけんどんとした口調になって言い返してしまったが、母親は手と首を振りそれを否定する。
「お前が、帰ってこないから、私もお父さんも、ずっと、心配で、心配で……」
母親は、感情が極まりすぎた様子で、泣き出してしまった。
── 何やってるんだろう、僕は。
僅かに安心した気持ちがある一方、酷い惨めさは拭われないままだった。
魔法少女の身体のままだからか、さほど経たずに、通常の医療的には、入院継続が必要な状態ではないと判断されて、自宅療養に切り替えるということで、退院した。
ただ、まだ身体は重い。家での生活に支障がない程度に立って歩いてができる程度だ。
そして、それ以上に、
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