ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

10 / 18
今回も言い訳有り! 詳細はあとがきで
あと第8話少し直した
(ラ・ピュセルの口調が変だった)


第10話

「はーぁ……」

 

【挿絵表示】

 

 色んな意味で、ため息が出る。

 颯太(以前の身体)と比べて、ラ・ピュセル(今の身体)はそもそも身長が6cmも高い上に、割と起伏の激しい体つきなものだから、もともとオーバーサイズ、フリーサイズ以外のものは、丈が足りないつんつるてんの上にあちこちぱっつんぱっつんになってしまって、着ていられるものではなくなってしまった。

 親が普段着やら寝間着やらを買ってきてくれたのはいいのだが ──── 母親が「アンタこういうの好きでしょ?」と言って買ってきたピンクに星柄のパジャマに、普通に袖を通せてしまっている現状に変な疲労感を感じる。それ以前に入浴にも慣れてしまった。

 もう今日は寝ようと、自室のベッドに腰を下ろした。

 マジカルフォンを確認しようと、手に出現させる。

 自分の表示がおかしくなっている事は、ラ・ピュセルももう気付いていた。加えてクラムベリーと再戦した後ぐらいから、他の魔法少女にメッセージを送ることもできなくなっている。

 ── ボク、どうなっちゃうんだろうな。

 少しだけ不安になる。

 ラ・ピュセルの姿で生きていくことは、もう受け容れたつもりだ。

 でも、それすらも不安定かもしれない。

 ぼんやりと不安を感じつつ、マジカルフォンの画面を開くと ────

「あれ?」

 それを見て、不思議そうな表情になり、寝ぼけかけてた瞳をパチリと開いて、それを見つめる。

 普段の待機画面の上に、こんな表示がされていた。

 

 System Notification

 魔法少女クラムベリーは、マスター、魔法少女としての双方の資格を喪失しました。

 現在、システム管理者によって、魔法少女スイムスイムが暫定マスターに選出されています。

 以降も、魔法少女の皆さんは、選抜試験に励んでください。

 

「なんだ……これ……」

 怪訝に思い、ベッドの枕元に置いてあった普通のスマートフォンの方を手に取る。

 こんな時間に迷惑かとも思ったが、まだあちらも起きているだろうと考え、小雪の携帯電話番号をコールした。

『もしもし、そうちゃん?』

 発信からさほど待たずに、小雪が応答した。

 その声が、不安と言うか ──── 恐怖寄りのそれというより、なにか怪訝に思っている口調に聞こえた。

「こんな時間にごめん。ちょっと確認したくて」

『ファヴからの通知のことだよね?』

「えっ?」

 小雪の言葉に、ラ・ピュセルは意外そうな声を出してしまう。

 再度、自分のマジカルフォンを確認する。

 ファヴは文章メッセージでもいつもの口癖が出る。ラ・ピュセルのマジカルフォンに表示された文面には、それがない。

『違うの?』

「あ、ううん。その事なんだけど」

 怪訝そうに聞いてくる小雪に、慌てて返事をする。

「ボクのマジカルフォンには、ファヴじゃなくて、システムなんとかっていうメッセージで来てて……」

『え、やっぱりそうなんだ』

 ラ・ピュセルが言うと、小雪は、軽く驚きつつも、同時に納得したような口調と言い回しで返してきた。

「やっぱり、って……」

『カラミティ・メアリの爆弾騒ぎの時、私にはファヴから直接メッセージが来たんだよ』

 ラ・ピュセルの言葉に、小雪はそう答えた。

 あの時、ラ・ピュセルは、いつものように日中のパトロールをしていた。ここ数日は、父親から譲ってもらった旧いポケットラジオで地元FM局を聞きながら歩いていた。そのニュース速報で爆弾騒ぎを知った。

 ──── ただ、他の魔法少女と連絡が取れなくなっている以上、ファヴからもメッセージは来ない、そこまでは、ラ・ピュセル自身にも小雪にも、想定の範囲だった。

「そうなんだ」

『うん』

「それで、今回はファヴからは、なんて?」

『スイムスイムが暫定マスターになったから、みんなその子を目指して頑張るように、って……』

「クラムベリーの事は?」

『えっ……? とくに、書いてないけど』

 ラ・ピュセルが重ねて問うと、小雪は戸惑ったように返してくる。

『なにか、あったの?』

「ボクの方のメッセージには、クラムベリーは資格を失ったって」

『え、そ、それって……』

 小雪は、訊き返すように言ったが、その答えは解っているものだった。

『そうちゃん』

「うん……」

『これから、どうなっちゃうんだろう』

「解らないよ……」

 不安そうな声を出す小雪を、少しでも勇気づけたかったが、自分にも何が起きているのか見当がつかない以上、無責任なことは言えなかった。

 小雪の事はボクが守る、以前ならそう言っていたが、今は()()()()()()断言できるほどの自信がない。

 ただ、

『助けてあげたい』

 と、そう言ってきた小雪の言葉は、ラ・ピュセル ──── 颯太にとって、一瞬、意外に感じられるものだった。

『トップスピードと、リップルの事』

「それは……ボクもだよ」

 それは本心だった。

 ──── スマートフォンでの小雪との会話の最中、ラ・ピュセルはマジカルフォンの方を操作していた。

 順位表を表示させる。1位にスイムスイムがいる。2位は、多分自分だろうムチャクチャに文字化けしている存在。3位がスノーホワイト、4位、5位がトップスピードとリップルだ。 ──── だが……

「え……」

 それを凝視する。

「これだけ……?」

 愕然とする。カラミティ・メアリとの戦いの前には確認できたシスターナナも、消えている。

『どうしたの?』

 電話が通じたままだということを忘れて、思わず呟いてしまった言葉に、小雪が聞き返してきた。

「い、いやなんでも ────」

 反射的に誤魔化しかけて、それを思い直す。

「──……その、順位表にいる魔法少女が……もう……8人なんてものじゃなくて……」

『え……』

 小雪も自身のマジカルフォンを確認しているのか、スマートフォン越しにゴソゴソと音がする。

『ホントだ……』

 小雪も、息を呑んだような声を発したが、すぐに、

『で、でもそれなら、もう “ゲーム” は終わり、って事なんじゃ……』

 と、どこか安堵したような声を出してきた。

 ラ・ピュセルも、以前の自分だったら、それに無邪気に同意していただろう。

 だが。

「まだ、安心しない方がいいよ」

 今のラ・ピュセルは、険しい表情でそう言うしかない。

『え……』

 小雪は戸惑った声を出す。

 マジカルキャンディーの配分具合からして、恐らくクラムベリーを含む大半の魔法少女を殺したのはスイムスイムだ。

「クラムベリーは、ただ強いやつと戦いたいだけ、ってやつだった。そのクラムベリーを倒したやつも、そういうやつかもしれない」

 

 

 リップル ──── 細波華乃の自宅。

 最初はワンルームを探していたが、他者との軋轢が嫌で一人暮らしを選んだ事もあって、不動産屋でたまたま見つけた、築半世紀を越える2Kの老朽戸建て。

 下手なワンルームより安価なそこは、エアコンと、安全対策で交換されたFF式浴室内設置風呂釜の入った浴室、それに華乃自身がリサイクルショップで揃えた最低限の家電類、それだけが平成後半の装いで、後はことごとくが昭和の残滓。

 ささくれだっているという程でもないが、日に焼けた畳の上に敷かれた布団。華乃自身も寝間着で、もう寝るだけ、その寝しなの時間に少し、スマートフォンでWebサーフをしていた時。

「何?」

 先に、華乃の方が声を出した。

「リップルにお願いがあって来たぽん」

 いつの間にか、ファヴが窓際にいた。

「断る」

 華乃は、視線をスマートフォンに向けたまま、短くはっきりとそう言った。

「そんな事言っていいぽん? 絶対後悔する事になるぽん?」

「…………」

 ファヴは煽る言葉を出すが、華乃はもう言うべきことは言ったという感じで、完全に無視を決め込んでいる。

 だが、

「トップスピードの安全にも関わるぽん」

「!」

 と、そう言われて、一瞬目を見開く。

「チッ……早く話しなさいよ」

 不機嫌そうな表情になって、舌打ちしつつ身を起こしながら視線をファヴに向ける。

「じゃあ簡単に言うぽん。スイムスイムを倒して欲しいんだぽん」

「は……?」

 流石に話の脈絡が唐突すぎて、華乃は、怪訝そうな表情をしつつも短く訊き返す言葉を出してしまう。

「クラムベリーを倒したのはよかったんだけど、アイツ頭のネジが何本か吹っ飛んでるぽん。一緒にクラムベリーと戦った仲間も2人、そのまま殺しちゃうようなやつぽん。このままじゃ、 “ゲーム” に関係なく他の魔法少女を殺すかもだぽん」

「そんなの……アンタがなんとかすれば」

 頭を掻く仕種をしながら、華乃は煩わしそうに言う。

「それができたら苦労しないぽん。ファヴには直接魔法少女をどうにかする権限はないぽん。あくまで魔法少女同士で決着をつけてもらうしかないぽん」

「だからって、なんで私……」

「スイムスイムと戦えるのがリップルだけだからぽん」

 ファヴは言う。

「どういう意味?」

「スイムスイムの魔法は “どんなものにも水みたいに潜れるよ” だぽん。これはスイムスイムがどこにでも潜れるだけじゃなくて、スイムスイムになにかぶつけても素通りするって事ぽん」

「それじゃあ、私にもどうにもならない」

 訊き返した華乃に答えるファヴだったが、それを聞いて、華乃は軽くため息を吐きつつも、淡々とした口調で言った。

「勝つ方法ならあるぽん。スイムスイムは音や光の攻撃はすり抜けることができないぽん」

「それを、私にどうやれと?」

「カラミティ・メアリが残した道具の中に、そういう物があるぽん。カラミティ・メアリの家に行けばまだ残ってるかもしれないぽん」

「断る」

 そう言って、ファヴから視線を離した華乃だったが、

「なら仕方ないぽん。トップスピードかスノーホワイトに頼むぽん」

「!」

 と、その言葉を聞いて、華乃の動きが止まる。

「トップスピードは片腕、スノーホワイトは魔法も性格も戦い向きじゃないけど、仕方ないぽん」

 そう言って去ろうとしたファヴに対し、華乃は身体を起こし直して、ファヴに向かって手をのばす。

「待って…………!」

 

 

 眠りが浅かったのか、雨音で目を覚ました。

 既に夜は明けていたが、どんよりとした空から、しとしとと雨が降っている。

 ラ・ピュセルが、寝起きで緊張感も何もない表情で、ベッドから抜け出して、朝食に行くか、先に着替えるか、と少し考えた時、

 ピロリン

 と、スマートフォンに、ショートメッセージが届いた。

「?」

 通知表示では未登録の番号。ただその書き出しが気になって、ロックを外して、全文を確認する。

『今から電話する。出てくれると嬉しい。でも本名は言うな。リップル』

「!」

 そして、メッセージの通りに、2分ほど経ったところで、

 ピリリリリリ……

 と、未登録の携帯電話番号からの着信が入った。

 すこし緊張して、通話をタップし、耳元にスマートフォンを運ぶ。

「はい、もしもし……」

『……ラ・ピュセル、だよな?』

「う、うん、そうだけど……」

 聞き覚えのある声に、少し緊張を(ほど)いて、ラ・ピュセルは答える。

「なんで、番号を知ってるの?」

『どうしても話したいのに、マジカルフォンで連絡がつかないから、スノーホワイトから無理に聞き出した。責めないであげて』

「う、うん、そう言う事なら別に、構わないけど……」

 ラ・ピュセルの方は、まだ口調が戸惑う。

『カラミティ・メアリの時のこと、謝りたくて……』

「え」

 リップルの言葉に、ラ・ピュセルは短く声を出す。

「あの時は……トップスピードはああ言ってくれたけど、やっぱりボクも邪魔したとは思ってるし……」

『違う。一番悪いのは私だ』

「え?」

『トップスピードは一度逃げようと言ったの。それを、私がどうしてもあそこで倒すんだ、って』

「そう、だったんだ……」

 それを聞いて、電話越しながら、ラ・ピュセルは決まり悪そうな苦笑を浮かべる。

「うん、それ……ボクも前にやってるから」

『えっ』

「クラムベリーと最初に戦った時。こいつはボクが止めないとって」

『そう、か……』

「うん……リップルもさ、あいつをほっとけないって思ったんだろ?」

『うん……』

 ラ・ピュセルの言葉を聞いて、リップルはそう詰まったような声を出すが、すぐに、

『でも、私は、トップスピードを巻き添えにしかけて……』

 と、悔いる言葉を口にする。

『トップスピードの言う通りにすればよかったんだ。あれだけの事で、お前やスノーホワイトが近くにいないはずないんだから、合流してから戦えばよかったんだ』

「それは……うん」

 ラ・ピュセルは納得しかけてしまうものの、

「でも、あいつをほっといたらもっと……って考えたら、ほっとけないよ」

 と、返した。

『でも、実際にそれで、私は逃げようって言ってたトップスピードを巻き込んで……だから、本当は一番悪いのは私。なのに、私はお前に当たり散らして、トップスピードは自分が悪かったって言って……』

「ボクは気にしてない……かな。トップスピードも怒ってないと思うよ」

 リップルは、深刻と言うか、必死な声で言うが、ラ・ピュセルは、照れくさそうに苦笑しつつ穏やかな口調で言った。

『うん、それでも、これは言わなきゃ、って、思って』

「何?」

『あのね…………』

 

『……………………ごめんなさい』

 

「…………リップル」

『ねぇ』

「あ……何?」

 問いかけるようなリップルの声に、ラ・ピュセルが問い返す。

『私、今からでもなれるかな』

「何に?」

『スノーホワイトみたいに……トップスピードや、お前みたいに、誰かを助けられる魔法少女に』

 リップルの問いかけに、ラ・ピュセルは、穏やかに、しかしはっきりと言う。

「なれるよ。ううん、もうなってるよ」

『そっか』

「ボクの言葉だけじゃ納得できないかもしれないけどね」

 

【挿絵表示】

 

 ラ・ピュセルは、言った言葉に照れくさくなって、頬を掻く仕種をする。

『ありがとう。今、話したいことは、これだけ、かな』

「うん。じゃあ……」

 

「またね」

 

 ピッ

 

「…………さよなら」

 

【挿絵表示】

 

 





言い訳!
レビューサイトなんかで「華乃の自宅」(一人暮らししてる方)は、原作小説ではアパート、アニメには出てこないと情報仕入れてます。承知の上で改変しました。理由はゴニョゴニョ……
条件としては「下手なワンルームより安く借りられる経年戸建賃貸」自体は田舎にはあります。っつーか自分の地元そう言う物件がある地域(ド田舎)です。東京には近いんですけどね……

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。