ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
「はーぁ……」
色んな意味で、ため息が出る。
親が普段着やら寝間着やらを買ってきてくれたのはいいのだが ──── 母親が「アンタこういうの好きでしょ?」と言って買ってきたピンクに星柄のパジャマに、普通に袖を通せてしまっている現状に変な疲労感を感じる。それ以前に入浴にも慣れてしまった。
もう今日は寝ようと、自室のベッドに腰を下ろした。
マジカルフォンを確認しようと、手に出現させる。
自分の表示がおかしくなっている事は、ラ・ピュセルももう気付いていた。加えてクラムベリーと再戦した後ぐらいから、他の魔法少女にメッセージを送ることもできなくなっている。
── ボク、どうなっちゃうんだろうな。
少しだけ不安になる。
ラ・ピュセルの姿で生きていくことは、もう受け容れたつもりだ。
でも、それすらも不安定かもしれない。
ぼんやりと不安を感じつつ、マジカルフォンの画面を開くと ────
「あれ?」
それを見て、不思議そうな表情になり、寝ぼけかけてた瞳をパチリと開いて、それを見つめる。
普段の待機画面の上に、こんな表示がされていた。
System Notification
魔法少女クラムベリーは、マスター、魔法少女としての双方の資格を喪失しました。
現在、システム管理者によって、魔法少女スイムスイムが暫定マスターに選出されています。
以降も、魔法少女の皆さんは、選抜試験に励んでください。
「なんだ……これ……」
怪訝に思い、ベッドの枕元に置いてあった普通のスマートフォンの方を手に取る。
こんな時間に迷惑かとも思ったが、まだあちらも起きているだろうと考え、小雪の携帯電話番号をコールした。
『もしもし、そうちゃん?』
発信からさほど待たずに、小雪が応答した。
その声が、不安と言うか ──── 恐怖寄りのそれというより、なにか怪訝に思っている口調に聞こえた。
「こんな時間にごめん。ちょっと確認したくて」
『ファヴからの通知のことだよね?』
「えっ?」
小雪の言葉に、ラ・ピュセルは意外そうな声を出してしまう。
再度、自分のマジカルフォンを確認する。
ファヴは文章メッセージでもいつもの口癖が出る。ラ・ピュセルのマジカルフォンに表示された文面には、それがない。
『違うの?』
「あ、ううん。その事なんだけど」
怪訝そうに聞いてくる小雪に、慌てて返事をする。
「ボクのマジカルフォンには、ファヴじゃなくて、システムなんとかっていうメッセージで来てて……」
『え、やっぱりそうなんだ』
ラ・ピュセルが言うと、小雪は、軽く驚きつつも、同時に納得したような口調と言い回しで返してきた。
「やっぱり、って……」
『カラミティ・メアリの爆弾騒ぎの時、私にはファヴから直接メッセージが来たんだよ』
ラ・ピュセルの言葉に、小雪はそう答えた。
あの時、ラ・ピュセルは、いつものように日中のパトロールをしていた。ここ数日は、父親から譲ってもらった旧いポケットラジオで地元FM局を聞きながら歩いていた。そのニュース速報で爆弾騒ぎを知った。
──── ただ、他の魔法少女と連絡が取れなくなっている以上、ファヴからもメッセージは来ない、そこまでは、ラ・ピュセル自身にも小雪にも、想定の範囲だった。
「そうなんだ」
『うん』
「それで、今回はファヴからは、なんて?」
『スイムスイムが暫定マスターになったから、みんなその子を目指して頑張るように、って……』
「クラムベリーの事は?」
『えっ……? とくに、書いてないけど』
ラ・ピュセルが重ねて問うと、小雪は戸惑ったように返してくる。
『なにか、あったの?』
「ボクの方のメッセージには、クラムベリーは資格を失ったって」
『え、そ、それって……』
小雪は、訊き返すように言ったが、その答えは解っているものだった。
『そうちゃん』
「うん……」
『これから、どうなっちゃうんだろう』
「解らないよ……」
不安そうな声を出す小雪を、少しでも勇気づけたかったが、自分にも何が起きているのか見当がつかない以上、無責任なことは言えなかった。
小雪の事はボクが守る、以前ならそう言っていたが、今は
ただ、
『助けてあげたい』
と、そう言ってきた小雪の言葉は、ラ・ピュセル ──── 颯太にとって、一瞬、意外に感じられるものだった。
『トップスピードと、リップルの事』
「それは……ボクもだよ」
それは本心だった。
──── スマートフォンでの小雪との会話の最中、ラ・ピュセルはマジカルフォンの方を操作していた。
順位表を表示させる。1位にスイムスイムがいる。2位は、多分自分だろうムチャクチャに文字化けしている存在。3位がスノーホワイト、4位、5位がトップスピードとリップルだ。 ──── だが……
「え……」
それを凝視する。
「これだけ……?」
愕然とする。カラミティ・メアリとの戦いの前には確認できたシスターナナも、消えている。
『どうしたの?』
電話が通じたままだということを忘れて、思わず呟いてしまった言葉に、小雪が聞き返してきた。
「い、いやなんでも ────」
反射的に誤魔化しかけて、それを思い直す。
「──……その、順位表にいる魔法少女が……もう……8人なんてものじゃなくて……」
『え……』
小雪も自身のマジカルフォンを確認しているのか、スマートフォン越しにゴソゴソと音がする。
『ホントだ……』
小雪も、息を呑んだような声を発したが、すぐに、
『で、でもそれなら、もう “ゲーム” は終わり、って事なんじゃ……』
と、どこか安堵したような声を出してきた。
ラ・ピュセルも、以前の自分だったら、それに無邪気に同意していただろう。
だが。
「まだ、安心しない方がいいよ」
今のラ・ピュセルは、険しい表情でそう言うしかない。
『え……』
小雪は戸惑った声を出す。
マジカルキャンディーの配分具合からして、恐らくクラムベリーを含む大半の魔法少女を殺したのはスイムスイムだ。
「クラムベリーは、ただ強いやつと戦いたいだけ、ってやつだった。そのクラムベリーを倒したやつも、そういうやつかもしれない」
リップル ──── 細波華乃の自宅。
最初はワンルームを探していたが、他者との軋轢が嫌で一人暮らしを選んだ事もあって、不動産屋でたまたま見つけた、築半世紀を越える2Kの老朽戸建て。
下手なワンルームより安価なそこは、エアコンと、安全対策で交換されたFF式浴室内設置風呂釜の入った浴室、それに華乃自身がリサイクルショップで揃えた最低限の家電類、それだけが平成後半の装いで、後はことごとくが昭和の残滓。
ささくれだっているという程でもないが、日に焼けた畳の上に敷かれた布団。華乃自身も寝間着で、もう寝るだけ、その寝しなの時間に少し、スマートフォンでWebサーフをしていた時。
「何?」
先に、華乃の方が声を出した。
「リップルにお願いがあって来たぽん」
いつの間にか、ファヴが窓際にいた。
「断る」
華乃は、視線をスマートフォンに向けたまま、短くはっきりとそう言った。
「そんな事言っていいぽん? 絶対後悔する事になるぽん?」
「…………」
ファヴは煽る言葉を出すが、華乃はもう言うべきことは言ったという感じで、完全に無視を決め込んでいる。
だが、
「トップスピードの安全にも関わるぽん」
「!」
と、そう言われて、一瞬目を見開く。
「チッ……早く話しなさいよ」
不機嫌そうな表情になって、舌打ちしつつ身を起こしながら視線をファヴに向ける。
「じゃあ簡単に言うぽん。スイムスイムを倒して欲しいんだぽん」
「は……?」
流石に話の脈絡が唐突すぎて、華乃は、怪訝そうな表情をしつつも短く訊き返す言葉を出してしまう。
「クラムベリーを倒したのはよかったんだけど、アイツ頭のネジが何本か吹っ飛んでるぽん。一緒にクラムベリーと戦った仲間も2人、そのまま殺しちゃうようなやつぽん。このままじゃ、 “ゲーム” に関係なく他の魔法少女を殺すかもだぽん」
「そんなの……アンタがなんとかすれば」
頭を掻く仕種をしながら、華乃は煩わしそうに言う。
「それができたら苦労しないぽん。ファヴには直接魔法少女をどうにかする権限はないぽん。あくまで魔法少女同士で決着をつけてもらうしかないぽん」
「だからって、なんで私……」
「スイムスイムと戦えるのがリップルだけだからぽん」
ファヴは言う。
「どういう意味?」
「スイムスイムの魔法は “どんなものにも水みたいに潜れるよ” だぽん。これはスイムスイムがどこにでも潜れるだけじゃなくて、スイムスイムになにかぶつけても素通りするって事ぽん」
「それじゃあ、私にもどうにもならない」
訊き返した華乃に答えるファヴだったが、それを聞いて、華乃は軽くため息を吐きつつも、淡々とした口調で言った。
「勝つ方法ならあるぽん。スイムスイムは音や光の攻撃はすり抜けることができないぽん」
「それを、私にどうやれと?」
「カラミティ・メアリが残した道具の中に、そういう物があるぽん。カラミティ・メアリの家に行けばまだ残ってるかもしれないぽん」
「断る」
そう言って、ファヴから視線を離した華乃だったが、
「なら仕方ないぽん。トップスピードかスノーホワイトに頼むぽん」
「!」
と、その言葉を聞いて、華乃の動きが止まる。
「トップスピードは片腕、スノーホワイトは魔法も性格も戦い向きじゃないけど、仕方ないぽん」
そう言って去ろうとしたファヴに対し、華乃は身体を起こし直して、ファヴに向かって手をのばす。
「待って…………!」
眠りが浅かったのか、雨音で目を覚ました。
既に夜は明けていたが、どんよりとした空から、しとしとと雨が降っている。
ラ・ピュセルが、寝起きで緊張感も何もない表情で、ベッドから抜け出して、朝食に行くか、先に着替えるか、と少し考えた時、
ピロリン
と、スマートフォンに、ショートメッセージが届いた。
「?」
通知表示では未登録の番号。ただその書き出しが気になって、ロックを外して、全文を確認する。
『今から電話する。出てくれると嬉しい。でも本名は言うな。リップル』
「!」
そして、メッセージの通りに、2分ほど経ったところで、
ピリリリリリ……
と、未登録の携帯電話番号からの着信が入った。
すこし緊張して、通話をタップし、耳元にスマートフォンを運ぶ。
「はい、もしもし……」
『……ラ・ピュセル、だよな?』
「う、うん、そうだけど……」
聞き覚えのある声に、少し緊張を
「なんで、番号を知ってるの?」
『どうしても話したいのに、マジカルフォンで連絡がつかないから、スノーホワイトから無理に聞き出した。責めないであげて』
「う、うん、そう言う事なら別に、構わないけど……」
ラ・ピュセルの方は、まだ口調が戸惑う。
『カラミティ・メアリの時のこと、謝りたくて……』
「え」
リップルの言葉に、ラ・ピュセルは短く声を出す。
「あの時は……トップスピードはああ言ってくれたけど、やっぱりボクも邪魔したとは思ってるし……」
『違う。一番悪いのは私だ』
「え?」
『トップスピードは一度逃げようと言ったの。それを、私がどうしてもあそこで倒すんだ、って』
「そう、だったんだ……」
それを聞いて、電話越しながら、ラ・ピュセルは決まり悪そうな苦笑を浮かべる。
「うん、それ……ボクも前にやってるから」
『えっ』
「クラムベリーと最初に戦った時。こいつはボクが止めないとって」
『そう、か……』
「うん……リップルもさ、あいつをほっとけないって思ったんだろ?」
『うん……』
ラ・ピュセルの言葉を聞いて、リップルはそう詰まったような声を出すが、すぐに、
『でも、私は、トップスピードを巻き添えにしかけて……』
と、悔いる言葉を口にする。
『トップスピードの言う通りにすればよかったんだ。あれだけの事で、お前やスノーホワイトが近くにいないはずないんだから、合流してから戦えばよかったんだ』
「それは……うん」
ラ・ピュセルは納得しかけてしまうものの、
「でも、あいつをほっといたらもっと……って考えたら、ほっとけないよ」
と、返した。
『でも、実際にそれで、私は逃げようって言ってたトップスピードを巻き込んで……だから、本当は一番悪いのは私。なのに、私はお前に当たり散らして、トップスピードは自分が悪かったって言って……』
「ボクは気にしてない……かな。トップスピードも怒ってないと思うよ」
リップルは、深刻と言うか、必死な声で言うが、ラ・ピュセルは、照れくさそうに苦笑しつつ穏やかな口調で言った。
『うん、それでも、これは言わなきゃ、って、思って』
「何?」
『あのね…………』
『……………………ごめんなさい』
「…………リップル」
『ねぇ』
「あ……何?」
問いかけるようなリップルの声に、ラ・ピュセルが問い返す。
『私、今からでもなれるかな』
「何に?」
『スノーホワイトみたいに……トップスピードや、お前みたいに、誰かを助けられる魔法少女に』
リップルの問いかけに、ラ・ピュセルは、穏やかに、しかしはっきりと言う。
「なれるよ。ううん、もうなってるよ」
『そっか』
「ボクの言葉だけじゃ納得できないかもしれないけどね」
ラ・ピュセルは、言った言葉に照れくさくなって、頬を掻く仕種をする。
『ありがとう。今、話したいことは、これだけ、かな』
「うん。じゃあ……」
「またね」
ピッ
「…………さよなら」
言い訳!
レビューサイトなんかで「華乃の自宅」(一人暮らししてる方)は、原作小説ではアパート、アニメには出てこないと情報仕入れてます。承知の上で改変しました。理由はゴニョゴニョ……
条件としては「下手なワンルームより安く借りられる経年戸建賃貸」自体は田舎にはあります。っつーか自分の地元そう言う物件がある
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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