ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

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第11話

 夕刻。雨雲のせいか、外は暗い。

 しとしと雨を降らせていた薄雲が、日没近くなって急に厚みを増してきたように感じられた。

 今夜はどうしよう、そう考えて、小雪が()()()()フォ()()()手を伸ばしかけた時だった。

「スノーホワイトー」

 ファヴが姿を表す。

 小雪は、手にしたスマートフォンはそのままに、ファヴの方を振り返った。

「スノーホワイトにお願いがあって来たぽん」

「お願い?」

 最初はいつものように、どこか、キョトン、としたような表情で訊き返す。

「実はスノーホワイトにマスターになって欲しいんだぽん」

「マスターって、……────」

 そこで、(にわか)に小雪の表情が、徐々にだが険しくなり始める。

「── クラムベリーがそうだった、ってやつでしょ?」

「あれっ? なんで知ってるぽん?」

「秘密」

「あっそ、別にいいぽん」

 小雪の態度に、しかしファヴは気にした様子も見せない。

「マスターって言うのは、魔法少女選抜試験の監督役だぽん」

「選抜……試験?」

「そうそう。ファヴ達魔法の国の電子妖精と一緒に、魔法少女候補生に試練を与える役だぽん。その試練を突破して、1位になったら、晴れて魔法の国へご招待、本物の魔法少女になれるぽん。その後は、魔法少女として活躍するか、マスターとして次以降の選抜試験をスムーズに進める役になるぽん」

 小雪の表情が、ゆっくりと、驚愕の色に変わっていく。

「じゃ、じゃあ、私達が今までしてきた事って……」

「そうだぽん。大抵の場合は、困っている人をたくさん助けたり、適当な敵キャラを送り込んでそれを倒したりして、候補生をつくったり、その中から選抜したりするぽん。それで選ばれなかった候補生は、普通は記憶を消して元に戻るぽん」

「で、でも!」

 小雪は、身を乗り出すようにして、ファヴに問い質す。

「ねむりんやルーラや、ハードゴア・アリスって子は…………!!」

「そうだぽん。マスターのクラムベリーが今までのやり方じゃ面白くないって言うから、ルールを変えたんだぽん。命がかかってるってわかれば、みんなキャンディー集めそっちのけで殺し合いを始めるぽん。今までも何度もそうだったぽん」

「そん……な……」

 今まで自分達がしていたことの正体に気付いて、小雪は青ざめる。

「でも、流石にファヴはそれには付き合いきれなくなってきたぽん。クラムベリーは、殺し合いは楽しんでもマスターの仕事は適当ぽん。それどころか自分で候補生を全員殺しちゃったこともあるぽん。そろそろうんざりしてきてたぽん」

「だから、そうちゃ……ラ・ピュセルにアイテムを売ったりして……」

「? …………ああ、幼馴染だったぽん」

 小雪の言葉に、ファヴは自己解決して納得したような言葉を出した。

「もっとも、()()()()()()()()()使()()()()ラ・ピュセルにあれは宝の持ち腐れぽん。結局クラムベリーに自分から挑んで死んだぽん」

「え? ラ・ピュセルは……」

 言いかけて、小雪は自分の口を押さえた。

「それで、クラムベリーを殺したスイムスイムを暫定マスターにしようとしたぽん」

 悦に入ってるのか、ファヴは、小雪がなにか言いかけたことをあまり気にした様子もなく、続ける。

「でも、あいつもあいつで一緒にクラムベリーと戦ったたまとミナエルを殺しちゃうようなやつだったぽん」

「なんで!? 仲間だったはずなのに……」

 小雪は、目を(まる)く見開き、反射的に訊き返す。

「どーもスイムスイムは頭の配線が2・3本焼き切れてるぽん。戦いには向いてるけどそれ以外、何考えてるのかわからないぽん。あんなやつがマスターになったら苦労するどころの騒ぎじゃないぽん。だから今、リップルをけしかけたぽん」

「え…………」

 ファヴの言葉に、小雪が絶句して身体を凍りつかせる。

「今回の他の候補生を見ても、リップルも喧嘩っ早くて操縦が難しそうぽん。だからと言ってトップスピードは片腕になっちゃった上に、色々世の中を知りすぎててそれはそれで厄介だぽん。だから……────」

 ファヴは、そこでパッ、と、己の像の中から、小さな花火のように光を散らした。

「スノーホワイトにマスターになってもらう事にしたぽん。今回の選抜試験で、1人も殺さずにここまで残るなんて、逆に興味津々ぽん。次から面白くなりそうだぽん」

「で、でも、まだ他に、魔法少女、は……」

 ハイテンションに言うファヴに対して、戦慄の様相の小雪が、震える声で訊く。

「スイムスイムとリップルは相打ちになってくれるように仕込んだぽん。今頃、ダムの近くで戦ってるはずだぽん」

「…………ッ!」

 それに対して、激昂した声が出そうになったが、一旦それを飲み込む。

「でも、トップスピードが、まだ……!」

「それなら大丈夫ぽん。次のランキングで生存者を1人にまで絞るぽん。そうすればトップスピードは自動的に脱落ぽん。キャンディー集めはフェイクとして残してあったけど、こんなかたちで役に立つとは思わなかったぽん。怪我の功名ってやつ?」

「そんな事、絶対にさせないッ!!」

 小雪は立ち上がって、ファヴに対して啖呵を切る。

「じゃあどうするぽん? スノーホワイトがトップスピードの代わりに死ぬぽん? 死ぬのは怖いぽんよ~?」

「…………ッ!!」

 ファヴの言葉に、小雪は言葉を失う。

「結局、誰だって最後は自分が生き残りたいぽん」

 ファヴにそう言われて、小雪ははっと顔を上げた。

 まず、普通のスマートフォンで、メッセージを送る。

 

【挿絵表示】

 

 それから、自分のマジカルフォンを手にした。

「なっ!?」

 小雪が何をしているのか気付いたファヴは、驚愕の声を出した。

「何考えてるぽん!? 自分のキャンディーを全部、()()()()()()虚像(ゴースト)に送るなんて……ほ、本当に死ぬつもりぽん!?」

「そうなっちゃったら仕方ない……かな。でも、『生きたい』って気持ちが、どれだけ強いかは、()()で証明できると思うから」

 

 

『おかけになった電話は、電源が入っていないか、 電波の届かない場所にあるため、かかりません。おかけになった電話は……────』

「くっそ!」

 

 

 小雪はスノーホワイトに変身すると、建物の屋根伝いに大きく跳躍しながら、船賀山の方向へ ──── 項島台ダムのダム湖畔公園へと向かう。

 雨はまだそれほど強くなかったが、日中より厚くなった雲の間から、時折稲光が漏れてくる。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 スイムスイムとの戦闘が始まって、どれくらい経ったか、リップルには解らない。

 最初に、それでも効かないものか、と、クナイや手裏剣を投げつけたが、それらはすべてスイムスイムの身体を突き抜けた。

 一時的に近接戦に持ち込まれたが、これは分が悪い。スイムスイムの槍での一撃はリップルを傷つけるが、リップルの刀での攻撃はすべてスイムスイムをすり抜ける。

 破れかぶれで、カラミティ・メアリの部屋から回収してきた武器のひとつ、手榴弾を投げつけた。

 これは、意外にもスイムスイムを多少退()がらせた。爆発の衝撃波をスイムスイムがすり抜けられなかったからだ。

「それなら ────」

 その隙に間合いを取り直したリップルは、次は、腰に吊っていたZarya-2スタングレネードを、スイムスイムの胴に向かって投げつける。

 狙い通り、スイムスイムの胴体に飲み込まれたところで、それは炸裂した。

 一瞬、スイムスイムの身体全体が弾けた、ように見えた。

 しかし、閃光が収まった後 ────

「うわっ!」

 スイムスイムの槍が、自分の足元から飛び出してきた。

 リップルは、仰け反るようにして躱そうとしたが、槍はリップルの左眼を浅く抉った。

 ── これでも、威力不足……

 リップルは、負傷した左眼を押さえながら、スイムスイムの攻撃に備えつつ、思考を巡らせる。

 その時、一瞬周囲が明るく感じるほどの雷光が、辺りを照らした。

 

『あの時は、罠を使ったんだよね』

『罠!? ラ・ピュセル(おまえ)がか』

『手段を選んでいられなかったっていうか……5本の魔法の音叉で、クラムベリーの音の攻撃を集めて ────』

 

「攻撃を、集める」

 それで閃いたリップルは、公園内にある、1本だけやたら目立つ街灯の頂点に向かって跳躍する。

 スイムスイムが、それを追ってくる。

 リップルは、そこから更に高く跳躍する。

 スイムスイムは、そのリップルの更に上方を占めようと、強く高く飛び上がった。

 リップルはスイムスイムに、カラミティ・メアリの持ち物だったイズマッシュ Saiga-12ライアットガンを向ける。

 撃つ。

 散弾は、当然スイムスイムの身体をすり抜ける。

 だが、それを期待したわけではなかった。

 大口径銃の発射の反動で、リップルの身体は急速に地面に向かっていく。

 スイムスイムは、落下したリップルに突き立てようと、槍を高く構えて ────

 

 バッシャアァァァァァン!!

 

 よろめきながら、リップルは立ち上がる。

 近くには、スイムスイムの変身前の姿、坂凪(さかなぎ)綾名(あやな)が、全身が焦げた状態で倒れていた。

 槍はどういう落ち方をしたのか、綾名の傍らに突き刺さるかたちで、立っている。

 リップルは、ふらつきながら歩み寄ると、────

『スノーホワイトみたいに……トップスピードや、お前みたいに、誰かを助けられる魔法少女に』

『なれるよ。ううん、もうなってるよ』

「うぅぅ……うぅうぅぅぅ……っ」

 泣きながら、もう生きているのかもわからない綾名の身体を、何度も、忍者刀で突き刺した。

 そのリップルも、左眼以外にも、多数の傷を付けられた、その失血のためか、意識が薄らいでいく ────────

 

 トップスピード、幸せになって。

 スノーホワイト、あなたみたいになりたかった。

 

 ──────── もっと、早く会いたかった。ラ・ピュセル。

 

 

「あ、あ……ぁ……」

 スノーホワイトがその場に到着した時、既にスイムスイムだったろう少女の息はなく、リップルも、自身から流れ出た血溜まりの中に倒れていた。

「間に合わなかった……」

 膝が崩れ落ちる。

「結局こうなったぽん。うまうまだぽん」

 姿を表したファヴが、楽しそうな声を出す。

「さて、スノーホワイトはどうするぽん? このままトップスピードに1位を譲って死ぬ? それとも、スノーホワイトならまだ挽回できるぽん。いくらあったか~い家庭のあるトップスピードだって、結局はスノーホワイトにとっては他人ぽん。死んだらそれっきり。それでも他人の代わりに死ぬぽん?」

 言われて、小雪は振り返り、ファヴを強烈に睨みつける。

「いやー、スノーホワイトは意外にマスターの素質がありそうだぽん。みんな、考えなしに殺し合ったり、キャンディーの奪い合いをしたり……特にラ・ピュセルなんてマヌケだったぽん。あのクラムベリーに襲われて一度は助かったのに、自分から挑んで、犬死もいいところだぽん」

 

「ボクが…………どうしたって?」

 

 スノーホワイトが振り返る。

 綾名とリップルが倒れている、更に向こう側から、街灯の明かりの中に、ラ・ピュセルが進んでくる。

「そうちゃん!」

「ラ・ピュセル!? お前生きてたぽん!? あれは……エラーデータの残り滓じゃなかったぽん!?」

「なるほど、ね」

 怒りの形相で、ゆっくりと歩きながら、ファヴの方に向かって進んでくる。

「ボクは()()()()()から、死んだ扱いにしてたんだ……クラムベリーは……マスターを降ろされるのが怖くてウソついたのかな?」

 歩みながら、ファヴを睨みつつ、淡々と言う。

『ゲゲーッ これは困ったことになったぽん。システム総ざらいしないとラ・ピュセルを消せないぽん。で、でもまぁ、ラ・ピュセルの剣じゃマスター端末は壊せないぽん。スイムスイムの槍に気付かれないよう、なんとかやり過ごすぽん』

「そうちゃん」

 スノーホワイトが立ち上がり、ラ・ピュセルが通り過ぎかけた、2人の倒れている方を指差す。

「その槍を使って」

『な、なんてことを!! 魔法の国の武器なら、マスター端末も壊されるぽん!!』

 スノーホワイトに言われた通り、ラ・ピュセルは、スイムスイムの槍を握り、地面から引き抜き、手に握る。その際に、倒れているリップルを一瞥した。

「こんな気持ちは3度目だ……」

 ファヴに向かって前進しながら、ラ・ピュセルは低く、響くような声で言う。

「1度目はクラムベリー、2度目はカラミティ・メアリ。もう、こんな気持ちになるのは、嫌だった、のに……」

「そ、そうだ、ラ・ピュセルがマスターになればいいぽん! 正々堂々、公明正大、これからの選抜試験はそう言うことにするぽん! ファヴだって本当はそっちの方がいいと思ってたぽん。今まではクラムベリーに言われて従うしかなかったんだぽん!!」

 ファヴは説得と言い逃れの言葉を口にする。

 ラ・ピュセルは、ガリッ、と奥歯を噛んだ。

 そのまま、ファヴに向かってゆっくりとした前進を続ける。

 スノーホワイトの前を通り過ぎる時に、

「リップルはまだ生きてる」

 と、スノーホワイトに小声でそう言った。

 リップルの変身が解けていない。自分もそうだった。ひょっとしたらリップルも変身解除できなくなっているかもしれない。でも少なくとも生きている。

 声を聞いたスノーホワイトが、はっとリップルの方を振り返った。

 

【挿絵表示】

 

「か、考えてほしいぽん! 絶対勝てないクラムベリーに勝てるアイテムを売ってあげたぽん! ファヴは最初からラ・ピュセルの事を ────」

「うるさい」

 槍を両手で掴み、構える。

「や、やめてぽん! やめろ!!」

「もう ────」

 

「──────── 遅いんだよ!!」

 

 グシャッ!!

 槍の大きな穂先が、ファヴが出現に使っていた、クラムベリーのマスター端末を破壊する。

「ふギェえぇぇぇGwoVewwwwwwww!!」

 断末魔を上げながら、ファヴは破裂し、光の残滓となって、それすらも飛び散って消えていった。

「遅いんだよ、遅いんだよ、もう……」

 リップルを介抱に向かったスノーホワイトが、振り返る。

 衣装が泥に塗れるのも構わず、ラ・ピュセルはその場に座り込んで、()いていた。

 

【挿絵表示】

 

 





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