ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

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第12話

「君だけは、本当の魔法少女として生きて欲しいんだ」

「その為に私はこの剣に誓ったんだ。君を守るってね」

 

 ──── どれだけ、薄っぺらいこと、言ってたんだろう。

 

 クラムベリーとの2度目の戦いの時。

 怖くなった。他人じゃなくて、自分が怖いあまりに、相手を殺さなくちゃと思った。どんな手を使ってでも。

 

 カラミティ・メアリとの戦いに入り込んだ時。

 リップルとトップスピードを助けなきゃと必死だった。でも、同時に、爆破現場を見た後で、「こんなやつ生きてちゃいけない」と思った。

 

 気付いてなかった。

 それとも、気付いてないふりをしてたのかもしれない。

 このルールで、誰かを守るってことは……────

 

 誰かを、殺すことなんだって。

 

「それでも ────」

 青い空の下。電波塔のキャットウォーク。

「守れはした」

 一緒に腰を下ろしているリップルが、ラ・ピュセルの方を向いて、言う。

 その左眼には、縦に深い傷痕が残っている。

「そうじゃない?」

「そうかな……」

 ラ・ピュセルの方は、到底納得がいっていない様子で、生返事をする。

 

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「私とトップスピードの事考えてる?」

 リップルが訊ねる。

「…………」

「スノーホワイトから聞いたでしょ?」

「うん……」

 改変された魔法少女選抜試験。

 最初から、生き残るのはただ1人。

「──── それが、スノーホワイトはほとんど無傷だった。私とトップスピードも死なずには済んだ。その上でラ・ピュセル本人も生き残った。それでいいんじゃない?」

「そうかな……」

「『欲張ると、ろくな事がない』。トップスピードはそう言うかな」

「…………」

 リップルにそこまで言われても、ラ・ピュセルはどこか心ここに在らずといったような目をしている。

「ああ、もう」

 リップルが、自身の前髪をクシャッ、とした。

「私はこういうの苦手なのに、わざわざ優しく言ってればいつまでもグズグズと……」

 直前までから変わって、リップルは一気に苛立ちを顕わにした口調になる。

「これ以上何が不満なんだ! 言え!」

 激しい口調で、ラ・ピュセルに問い質した。

「不満っていうか、怖いんだ」

「怖い?」

 ラ・ピュセルの言葉に、リップルが鸚鵡返しに訊き返す。

「ボクの中にあの気持ちが……あの時の気持ちがまた出てくるんじゃないか、って思うと」

 そう言って、ラ・ピュセルは自分の右手を見た。

「…………でも、それって “よっぽど” じゃない?」

「だといいんだけど……」

 リップルは口調を柔らかくして言うが、ラ・ピュセルは、なおも不安そうと言うか、力のない声で言う。

「もしお前がクラムベリーやスイムスイムのようになりそうだったら、私が殺してでも止めてやる」

 リップルにそう言われて、ようやくラ・ピュセルは視線をリップルの方に向けた。

「リップル……」

 

 

「そうちゃん、そうちゃんってば!」

「はっ!?」

 小雪の声で、我に返る。

 いつかのように、オーバーサイズのシャツにジャージのパンツという姿で、自宅の掃き出しの窓から脚を投げ出すようにして座り、ボケーッとしていたところへ、小雪の声で我に返った。

「もう、最近ずっとこう。また身体の調子が悪いってわけじゃないんでしょ?」

「そんなに!? …………ごめん」

 小雪の言葉に、ラ・ピュセルは、まず、自分でその事に軽く驚いてから、軽く謝る。

 すると小雪は、盛大に、疲れたようなため息を吐いた。

「あのね、そうちゃん」

「うん?」

 憤っているという程でもないが、苦い顔をしている小雪に、ラ・ピュセルが訊き返す。

「今は変身してないけど、スノーホワイトの時はそうちゃんの “声”、聞こえちゃうの解ってるよね?」

「えっ」

 そう言われて、ドキリ、とした。

 ラ・ピュセルには思い当たる節があった。それを思い出して、顔が(にわか)に紅くなる。

「リップルの事、好きでしょ?」

「えっ! えっと、それ、それは……」

 言い訳を考えるが、すぐには言葉が思いつかない。

 

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「すう、はぁ、…………」

 ラ・ピュセルは一度息を整え直す。そして、頬のあたりは紅いままながら、困ったような表情になる。

「でも、ボクは小雪の事……スノーホワイトの事を、守るって、誓うって」

()()()()()()、何言ってるの」

「ゔ……それは……」

 事故……最初のクラムベリーとの戦いの直後の事を持ち出されると、弱い。

「小雪、なんか性格変わってないか!?」

 話題逸らしも兼ねて、ラ・ピュセルは追求するように言う。

「うん」

 小雪はにっこりと笑う。

「変わりたいと思ってるから」

「え……」

「そうちゃんを助ける為にキャンディー集めしてた時。最初はトップスピードに声をかけてもらったけど、だんだん積極的になれてるような気がして。そうしたら、今までのままじゃダメかなって。もっと、いつでも自分からなにかできるようになりたいって」

 小雪は、穏やかながらも朗らかな笑顔でそう言った。

「だから、 ──── うん、あの誓いは、なしって事で」

「え!?」

 小雪からの宣言に、ラ・ピュセルは戸惑う。

「守られるんじゃなくて、支えてあげたいの。そうちゃんも、リップルも」

「…………」

 僅かに、呆然と小雪を見ていたラ・ピュセルは、やがて口元で笑う。

「そっか」

「私は、2人の間に、たまに、入れさせてもらえればいいかな、って」

 小雪は、一見、謙虚そうに苦笑しながらそう言った。

「小雪の方は、まぁ……」

 ラ・ピュセルは、そこまで言って、照れ隠しに苦笑をつくる。

「で、でもほら、リップルの事はまた別っていうか、ボクって今は女だし、その……」

 ラ・ピュセルが言い訳するように言うと、小雪は、わざとらしく盛大にため息を吐いた。

「だから、ね?」

「うん?」

 小雪は、自分の頭に人差し指を当てる。

「リップルの “声” も、聞こえちゃってるの」

「あ…………」

「初めて人を好きになったって。だから、私、応援したいの」

 

 

 System repair complete

 最終ランキング

  1位 ラ・ピュセル  105,101個

  2位 トップスピード  77,798個

  3位 リップル     67,651個

  4位 スノーホワイト    0個

 

 

 その後しばらくして。魔法の国からの使者、という人物が、4人に接触した。

 今回の事件のことを詫びる事。

 特例として、2位から4位の3人にも、魔法少女になるか選択肢を与える事。

 その上で ────────

 

 ラ・ピュセルの変身が解除できない件について。

 ラ・ピュセルとトラックの激突は、変身のほぼ真っ最中に発生した。

 この時、ラ・ピュセルの身体は耐えられたが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 この変身の後は、()()()()()()()()()()は喪失となってしまい ────

 ファヴとクラムベリーが悪意ある改変を加えていたが、もともと魔法少女のシステムは様々な想定の上に組み上げられ、改良されてきたものだ。

 ラ・ピュセルが変身を解こうとしても、その戻り先の情報がないために鎖錠(インターロック)がかかってしまい、ラ・ピュセルの身体のままになってしまっていたわけである。

 両親がラ・ピュセル=岸辺颯太を知っても、資格喪失とならなかったのも、この為だ。

 

「やっぱり、元には戻れない、か」

 さして気にしてもいないように、ラ・ピュセルは言った。

「辛い……ようには見えないのは、気のせいじゃないよね?」

 その時の格好を見て、リップル ──── 華乃は軽く呆れたように言った。

「うん……まぁ、まったくじゃないけど、ほとんど」

「…………むしろ積極的に楽しんでる気がするんだけど?」

 華乃が指摘するのは、女性モノのショートパンツにキャミソールという姿。

 

【挿絵表示】

 

「せっかくだから、開き直っちゃった方が楽しいかなって」

「ああ、そう……」

 華乃がすごく疲れたような声を出した。

「まだスカートには慣れないんだけどね。なんか、履き慣れてないからスースーするのが落ち着かないっていうか」

 ラ・ピュセルは、苦笑しながら、しかしあっけらかんとそう言った。

 

 トップスピードが魔法少女の資格を欲しがったのは、他の3人には意外な事だった。

 子どもの事もあるし、一般人に戻る方を選ぶと思っていた。

「ここにいるメンツなら解ってくれると思ったんだけどなー」

 トップスピードは、逆に意外そうに言いつつ、

「なんのかんの言ってオレもさ、困ってる人間ほっとけない性分だから。花金(ハナキン)魔法少女、ぐらいではいようかなーって」

 と、苦笑しながら頬を掻く仕種をする。

「それと、これから一番大事になるのは自分の子供だけどさ、手の掛かりそうな妹分3人、放っといてこれっきり、にもしたくなかったから」

 

 これも詫びのひとつ、それに兼ねて、上位の報奨、ということで、ラ・ピュセルとトップスピードには特別なアミュレットが与えられた。

 ラ・ピュセルのものは、本来なら変身が解けている状態の時と、変身をかけている状態の時とで、魔法少女と近縁者以外は同一人物と認識できなくなるもの。

 トップスピードのものは、家族にだけは正体が知られても例外となり、同時に、家族はそれを知っても他所で口外する事はできなくなる、というものだった。

 

 

 本当に、辛くなかったか、だって?

 よく解らない。

 確かに説明された時は、少し驚きだった。

 でも、辛いとか悲しいとかというショックとは、違ったと思う。

 岸辺颯太の “姿” はなくなっちゃったけど……

 “岸辺颯太” がいなければ “ラ・ピュセル” だっていなかった。

 だから、ラ・ピュセルとして生きていくのは、辛くない。

 むしろ、嬉しいぐらいかもしれない。

 だって ────

 今のボクは、誰にもはなれない、憧れ(ヒーロー)の姿だから。

 

 

 ────────

 ────

 ──

「たいへんだぽん」

 マスター仕様となったマジカルフォンから、電子妖精ネクが姿を表す。

「リフレッシングブリーズとアプリコット・アプリコットがキャンディーの奪い合いを始めちゃったぽん」

「またかよ」

 ラ・ピュセルは、そう言って顔を手で覆い、盛大に溜息を吐いた。

「そう言う “ゲーム” じゃない、って言ってるのに、なんで始めるかな……」

「あの2人の場合、意地の張り合いしてるトコがあるから……」

 頬を掻く仕種をしつつ、苦笑しながら、スノーホワイトが言う。

 倉庫街の屋上、そこに3人はいた。

 “魔法少女育成計画” で、新たに集められた候補生16人。

 もちろん、今は単純に善行の積み上げ、マジカルキャンディーの数を競う。当然、最下位になっても、ただ記憶が消されて、元の普通の人間に戻るだけだ。

 ──── なのだが、なまじキャンディーを融通するのを認めているせいか、どうしても他者から奪い取ろうと考える者も出てくる。

「ちょっと、止めてくる」

 そう言って、ラ・ピュセルは立ち上がった。

 マスター仕様のマジカルフォンを左手に持ち、飛び上がる。

「1人で大丈夫?」

 リップルが、その背中に問いかける。

「大丈夫ー」

 そう言いつつも、その背中は市街地に向かって離れていく。

「そう言う時は、黙ってついてっちゃえばいいのに」

「……余計なお世話」

 微笑ましそうに言うスノーホワイトに、リップルは視線を逸しながら、そう言った。

 

 ボク、男の子でした。

 今、魔法少女、やってます。

 

 

【挿絵表示】

 





物語の本筋はここまでです。お疲れさまでした。
でも、まだ書き足りてないことがあるから、もうちょっと続けます。


具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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