ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
「君だけは、本当の魔法少女として生きて欲しいんだ」
「その為に私はこの剣に誓ったんだ。君を守るってね」
──── どれだけ、薄っぺらいこと、言ってたんだろう。
クラムベリーとの2度目の戦いの時。
怖くなった。他人じゃなくて、自分が怖いあまりに、相手を殺さなくちゃと思った。どんな手を使ってでも。
カラミティ・メアリとの戦いに入り込んだ時。
リップルとトップスピードを助けなきゃと必死だった。でも、同時に、爆破現場を見た後で、「こんなやつ生きてちゃいけない」と思った。
気付いてなかった。
それとも、気付いてないふりをしてたのかもしれない。
このルールで、誰かを守るってことは……────
誰かを、殺すことなんだって。
「それでも ────」
青い空の下。電波塔のキャットウォーク。
「守れはした」
一緒に腰を下ろしているリップルが、ラ・ピュセルの方を向いて、言う。
その左眼には、縦に深い傷痕が残っている。
「そうじゃない?」
「そうかな……」
ラ・ピュセルの方は、到底納得がいっていない様子で、生返事をする。
「私とトップスピードの事考えてる?」
リップルが訊ねる。
「…………」
「スノーホワイトから聞いたでしょ?」
「うん……」
改変された魔法少女選抜試験。
最初から、生き残るのはただ1人。
「──── それが、スノーホワイトはほとんど無傷だった。私とトップスピードも死なずには済んだ。その上でラ・ピュセル本人も生き残った。それでいいんじゃない?」
「そうかな……」
「『欲張ると、ろくな事がない』。トップスピードはそう言うかな」
「…………」
リップルにそこまで言われても、ラ・ピュセルはどこか心ここに在らずといったような目をしている。
「ああ、もう」
リップルが、自身の前髪をクシャッ、とした。
「私はこういうの苦手なのに、わざわざ優しく言ってればいつまでもグズグズと……」
直前までから変わって、リップルは一気に苛立ちを顕わにした口調になる。
「これ以上何が不満なんだ! 言え!」
激しい口調で、ラ・ピュセルに問い質した。
「不満っていうか、怖いんだ」
「怖い?」
ラ・ピュセルの言葉に、リップルが鸚鵡返しに訊き返す。
「ボクの中にあの気持ちが……あの時の気持ちがまた出てくるんじゃないか、って思うと」
そう言って、ラ・ピュセルは自分の右手を見た。
「…………でも、それって “よっぽど” じゃない?」
「だといいんだけど……」
リップルは口調を柔らかくして言うが、ラ・ピュセルは、なおも不安そうと言うか、力のない声で言う。
「もしお前がクラムベリーやスイムスイムのようになりそうだったら、私が殺してでも止めてやる」
リップルにそう言われて、ようやくラ・ピュセルは視線をリップルの方に向けた。
「リップル……」
「そうちゃん、そうちゃんってば!」
「はっ!?」
小雪の声で、我に返る。
いつかのように、オーバーサイズのシャツにジャージのパンツという姿で、自宅の掃き出しの窓から脚を投げ出すようにして座り、ボケーッとしていたところへ、小雪の声で我に返った。
「もう、最近ずっとこう。また身体の調子が悪いってわけじゃないんでしょ?」
「そんなに!? …………ごめん」
小雪の言葉に、ラ・ピュセルは、まず、自分でその事に軽く驚いてから、軽く謝る。
すると小雪は、盛大に、疲れたようなため息を吐いた。
「あのね、そうちゃん」
「うん?」
憤っているという程でもないが、苦い顔をしている小雪に、ラ・ピュセルが訊き返す。
「今は変身してないけど、スノーホワイトの時はそうちゃんの “声”、聞こえちゃうの解ってるよね?」
「えっ」
そう言われて、ドキリ、とした。
ラ・ピュセルには思い当たる節があった。それを思い出して、顔が
「リップルの事、好きでしょ?」
「えっ! えっと、それ、それは……」
言い訳を考えるが、すぐには言葉が思いつかない。
「すう、はぁ、…………」
ラ・ピュセルは一度息を整え直す。そして、頬のあたりは紅いままながら、困ったような表情になる。
「でも、ボクは小雪の事……スノーホワイトの事を、守るって、誓うって」
「
「ゔ……それは……」
事故……最初のクラムベリーとの戦いの直後の事を持ち出されると、弱い。
「小雪、なんか性格変わってないか!?」
話題逸らしも兼ねて、ラ・ピュセルは追求するように言う。
「うん」
小雪はにっこりと笑う。
「変わりたいと思ってるから」
「え……」
「そうちゃんを助ける為にキャンディー集めしてた時。最初はトップスピードに声をかけてもらったけど、だんだん積極的になれてるような気がして。そうしたら、今までのままじゃダメかなって。もっと、いつでも自分からなにかできるようになりたいって」
小雪は、穏やかながらも朗らかな笑顔でそう言った。
「だから、 ──── うん、あの誓いは、なしって事で」
「え!?」
小雪からの宣言に、ラ・ピュセルは戸惑う。
「守られるんじゃなくて、支えてあげたいの。そうちゃんも、リップルも」
「…………」
僅かに、呆然と小雪を見ていたラ・ピュセルは、やがて口元で笑う。
「そっか」
「私は、2人の間に、たまに、入れさせてもらえればいいかな、って」
小雪は、一見、謙虚そうに苦笑しながらそう言った。
「小雪の方は、まぁ……」
ラ・ピュセルは、そこまで言って、照れ隠しに苦笑をつくる。
「で、でもほら、リップルの事はまた別っていうか、ボクって今は女だし、その……」
ラ・ピュセルが言い訳するように言うと、小雪は、わざとらしく盛大にため息を吐いた。
「だから、ね?」
「うん?」
小雪は、自分の頭に人差し指を当てる。
「リップルの “声” も、聞こえちゃってるの」
「あ…………」
「初めて人を好きになったって。だから、私、応援したいの」
System repair complete
最終ランキング
1位 ラ・ピュセル 105,101個
2位 トップスピード 77,798個
3位 リップル 67,651個
4位 スノーホワイト 0個
その後しばらくして。魔法の国からの使者、という人物が、4人に接触した。
今回の事件のことを詫びる事。
特例として、2位から4位の3人にも、魔法少女になるか選択肢を与える事。
その上で ────────
ラ・ピュセルの変身が解除できない件について。
ラ・ピュセルとトラックの激突は、変身のほぼ真っ最中に発生した。
この時、ラ・ピュセルの身体は耐えられたが、
この変身の後は、
ファヴとクラムベリーが悪意ある改変を加えていたが、もともと魔法少女のシステムは様々な想定の上に組み上げられ、改良されてきたものだ。
ラ・ピュセルが変身を解こうとしても、その戻り先の情報がないために
両親がラ・ピュセル=岸辺颯太を知っても、資格喪失とならなかったのも、この為だ。
「やっぱり、元には戻れない、か」
さして気にしてもいないように、ラ・ピュセルは言った。
「辛い……ようには見えないのは、気のせいじゃないよね?」
その時の格好を見て、リップル ──── 華乃は軽く呆れたように言った。
「うん……まぁ、まったくじゃないけど、ほとんど」
「…………むしろ積極的に楽しんでる気がするんだけど?」
華乃が指摘するのは、女性モノのショートパンツにキャミソールという姿。
「せっかくだから、開き直っちゃった方が楽しいかなって」
「ああ、そう……」
華乃がすごく疲れたような声を出した。
「まだスカートには慣れないんだけどね。なんか、履き慣れてないからスースーするのが落ち着かないっていうか」
ラ・ピュセルは、苦笑しながら、しかしあっけらかんとそう言った。
トップスピードが魔法少女の資格を欲しがったのは、他の3人には意外な事だった。
子どもの事もあるし、一般人に戻る方を選ぶと思っていた。
「ここにいるメンツなら解ってくれると思ったんだけどなー」
トップスピードは、逆に意外そうに言いつつ、
「なんのかんの言ってオレもさ、困ってる人間ほっとけない性分だから。
と、苦笑しながら頬を掻く仕種をする。
「それと、これから一番大事になるのは自分の子供だけどさ、手の掛かりそうな妹分3人、放っといてこれっきり、にもしたくなかったから」
これも詫びのひとつ、それに兼ねて、上位の報奨、ということで、ラ・ピュセルとトップスピードには特別なアミュレットが与えられた。
ラ・ピュセルのものは、本来なら変身が解けている状態の時と、変身をかけている状態の時とで、魔法少女と近縁者以外は同一人物と認識できなくなるもの。
トップスピードのものは、家族にだけは正体が知られても例外となり、同時に、家族はそれを知っても他所で口外する事はできなくなる、というものだった。
本当に、辛くなかったか、だって?
よく解らない。
確かに説明された時は、少し驚きだった。
でも、辛いとか悲しいとかというショックとは、違ったと思う。
岸辺颯太の “姿” はなくなっちゃったけど……
“岸辺颯太” がいなければ “ラ・ピュセル” だっていなかった。
だから、ラ・ピュセルとして生きていくのは、辛くない。
むしろ、嬉しいぐらいかもしれない。
だって ────
今のボクは、誰にもはなれない、
────────
────
──
「たいへんだぽん」
マスター仕様となったマジカルフォンから、電子妖精ネクが姿を表す。
「リフレッシングブリーズとアプリコット・アプリコットがキャンディーの奪い合いを始めちゃったぽん」
「またかよ」
ラ・ピュセルは、そう言って顔を手で覆い、盛大に溜息を吐いた。
「そう言う “ゲーム” じゃない、って言ってるのに、なんで始めるかな……」
「あの2人の場合、意地の張り合いしてるトコがあるから……」
頬を掻く仕種をしつつ、苦笑しながら、スノーホワイトが言う。
倉庫街の屋上、そこに3人はいた。
“魔法少女育成計画” で、新たに集められた候補生16人。
もちろん、今は単純に善行の積み上げ、マジカルキャンディーの数を競う。当然、最下位になっても、ただ記憶が消されて、元の普通の人間に戻るだけだ。
──── なのだが、なまじキャンディーを融通するのを認めているせいか、どうしても他者から奪い取ろうと考える者も出てくる。
「ちょっと、止めてくる」
そう言って、ラ・ピュセルは立ち上がった。
マスター仕様のマジカルフォンを左手に持ち、飛び上がる。
「1人で大丈夫?」
リップルが、その背中に問いかける。
「大丈夫ー」
そう言いつつも、その背中は市街地に向かって離れていく。
「そう言う時は、黙ってついてっちゃえばいいのに」
「……余計なお世話」
微笑ましそうに言うスノーホワイトに、リップルは視線を逸しながら、そう言った。
ボク、男の子でした。
今、魔法少女、やってます。
物語の本筋はここまでです。お疲れさまでした。
でも、まだ書き足りてないことがあるから、もうちょっと続けます。
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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