ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

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注意
今回は、第12話に挿入される話になります。


第12話・幕間

「ぼ、ボクはリップルのことが好きみた……好きなんだ!」

「スノーホワイトか?」

 盛大なため息とともに、出端を挫かれた。

 

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 夜。お互い魔法少女の姿。雑居ビルの屋上。

「えっと、あの、それは……」

「肝心な時に肝心な事が言えないっていうのはこの前でよく解ってる」

 言葉に詰まりながら腕を無軌道に振り回すラ・ピュセルに対して、リップルは呆れた口調でそう言った。

「誰かに唆されたんだろうし、その相手と言ったら2人しか思い浮かばない。その上で心を読んでお節介してくるのはスノーホワイトでしょ」

「それは……そうなんだけど……」

 あまりに決まりが悪すぎて、頬を掻く仕種をしつつ一旦は視線を逸してしまうが、すぐに、

「でも、気持ちは本当なんだ! ボクはリップルの事が好きだ!」

 それを聞いて、リップルは腕を抱くようにしつつ、再度軽くため息を吐く。

「お前、スノーホワイトの事が好きだったんじゃないの?」

「えっと、それは!」

 リップルに言われて、ラ・ピュセルは、最初、ビクッとしたように言葉に詰まりかけるものの、その後すぐに、どこか寂しそうな表情になる。

「好きかどうかって言われれば好きだよ……でも、なんか違ってきちゃっててさ」

「違う?」

 さっきまでの、図星を突かれて慌てる様子からの変化に、リップルは視線を向け直しながら訊き返す。

 それに対して、ラ・ピュセルは、視線を伏せがちにし、寂しそうに苦笑しながら、言う。

「うまく言えないんだけど……ボクは小ゆ……スノーホワイトの事を “守らなくちゃ” って思っちゃう。でも、それってスノーホワイトの為になるかって言ったら……」

「独り立ちはしにくくなる」

 ラ・ピュセルが濁した言葉尻を、リップルが引き継いで声に出した。

「だから……向こうからフラれた、って言っていいのかな。はっきりとそう言われたわけじゃないんだけど、自分も変わりたいから、誓いの事はなし、だって……」

「それで、言われて私、か」

「あ…………」

 リップルに言われて、ラ・ピュセルは、視線をリップルに向け直す。

「その、それは、リップルの事がほっ ────」

 言いかけて、慌てて口を押さえた。

『いい? リップルの事が可哀想だとか、ほっとけないとか、そういう言い方絶対しちゃダメだからね? リップルは、自分に同情されるの、嫌うから』

 小雪からそう言われていたことを、すんでのところで思い出した。

 僅かに逡巡した後、口元を押さえた手で、そのまま、自分の顔半分を覆う。

「そうだよね。すごくリップルに失礼なことやってるよね。何やってんだろ、ボク…………ごめん」

 すると、

「チッ……」

 リップルが舌打ちをして、面倒くさそうに苦い顔をする。

「私は、『断る』とは言ってない」

「え……?」

 リップルに言われて、ラ・ピュセルは顔を上げつつ、キョトン、としてリップルを見つめる。

「初めて人を好きになった。トップスピードに対するそれとは違う。私がこんな気持ち止められなくなるとは思ってなかった。『その気持ちは大切にしろ』って言われるし、それに……」

 リップルは、恥ずかしさと照れくささを誤魔化すように歪めた表情で、言った。

「それに?」

「言われたの! 『アイツに今必要なのは、守られるお姫様じゃなくて共犯者だ』って」

「え?」

 リップルが声に出した、多分誰かが言った言葉を聞いて、ラ・ピュセルは反射的に訊き返す。

「だから! さっき言ったじゃない! お節介焼きはもう1人いるって!」

「あ…………」

 リップルが少しぶっきらぼうに言ったことで、ラ・ピュセルにも誰の事か合点がいった。

 

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「だ、だから、その……」

 今度は、リップルの方が赤面して、言葉を詰まらせがちになる。

 すると、ラ・ピュセルは、表情を明るくしつつも、穏やかさを感じさせる笑顔になった。

「ボクは、リップルのことが好きだよ」

 

「そうちゃんは素直すぎるし、リップルは素直じゃないし、ホントに……」

「足して2で割れば丁度いいかもな」

 ビルの合間の裏路地、そこにいた魔法少女2人は、ソフトクリームを食べながら、そんな事を言っていた。

 

 ─☆──☆──☆─

 

 

「明日からは、ボクも昼間は今までみたいに時間取れなくなるかな」

 また別の日、違うビルの屋上。

 4人で晩の活動をした後、解散前の軽い雑談の最中に、ラ・ピュセルがそう言った。

「なんか……あったのか?」

 トップスピードが訊ねた。

「うん、通信制のフリースクールに入れてもらうことになって、昼間は課題、やらないと」

「フリースクール、そりゃまたどうして?」

 事情をそこまで深く知らないトップスピードは、小首を傾げるようにして重ねて問う。

「ほら……今の姿で今までの学校には通えないから」

「ああ……そうか。それで」

 トップスピードが、ようやく納得したような声を出す。

「親が学校とも相談してくれて……テストだけは受けに行くことになりそうなんだけど、それで修了した事になるって……」

「そりゃ、親御さんからしてみたら心配だろうからなー」

 ラ・ピュセルの説明を聞いて、トップスピードは、今までのつもりで腕組みしようとして、左の下腕を胸に当てる。

「うん。父さんにも『それだけ強い力を振るえるなら、なおさら最低限の知識は身につけとけ』って言われたし……少なくとも義務教育は終わらせないと」

「ん? 義務教育?」

 ラ・ピュセルの言葉に、トップスピードが僅かにだけ怪訝そうな反応をする。

「それじゃお前さん、まだ中学生? それとも小学生か?」

 見た目が当てにならない、という点ではこの中では自分が一番顕著なトップスピードが、ラ・ピュセルに訊く。

「えーっと……一応中2です」

 ラ・ピュセルは苦笑しながら答える。

 すると、

「えぇえぇぇぇっ!?」

 と、素っ頓狂な声を上げたのは、リップルだった。

「ラ・ピュセルって中学生だったの!? てっきり私と同じか少し上かと……」

 ラ・ピュセルを指差してしまいながら、言う。

「リップルっていくつ?」

「…………17。高2」

 ラ・ピュセルが訊き返すと、リップルは、すごく気まずそうにしながら答えた。

「あ、そうなんだ」

 ラ・ピュセルの方の反応はそんなものだった。と言うか、一度、細波華乃の姿で会っていて、その時の身長がかなり高い事を知っていたから、不自然さを感じなかった。

「スノーホワイトと幼馴染だって言ってあったはずだから、ボクも同じくらいの歳だって解ってるかと……」

 ラ・ピュセルが苦笑しながら言った。

 すると、トップスピードが軽くため息を吐いたようにしながら言う。

「それ意外とアテになんねーから。オレと旦那も幼馴染だけど、7離れてるし」

 一瞬にして、他の3人の視線がトップスピードに集まる。

「えっ!?」

 

 ─☆──☆──☆─

 

 

 とある週末。

 ジュウゥゥゥ……

 カセットコンロの上、浅く黒い鍋の中で、薄切りの牛肉が焼けている。

「くぅぅぅ……いいねぇ、肉の焼ける匂いってのは」

「トップスピード、その言い方、オヤジ臭い」

 うら若き女性らしからぬ笑顔と口調で言うトップスピードに、華乃が端的にツッコミを入れた。

 リップル ──── 細波華乃の自宅。

 (お忘れの方もおられるかも知れないので一応説明しておきますとこの世界線では華乃の自宅は集合住宅ではなく2Kの経年戸建賃貸です)

「ご飯炊けたよー」

 大きな鍋を持ったラ・ピュセルが、小雪と一緒に、台所から部屋に入ってきた。

 この家に電気炊飯器はあるが、華乃のひとり暮らしに合わせたサイズで、4人前には小さすぎるという事で、トップスピードが家から持ってきた本来はスープやパスタ用の寸胴鍋で追加に炊いたのである。

 ──── この場でトップスピードだけが魔法少女に変身した姿でいた。華乃、小雪は変身を解いた姿。ラ・ピュセルも本来であれば変身を解除した状態で、尻尾がなくオーバーサイズのシャツを着ている。

「そうちゃん、ご飯よそってくれる?」

「うん」

 小雪に言われて、ラ・ピュセルが、それぞれが持ち寄ってきたご飯茶碗に炊きあがったばかりの白飯をよそっていく。

 その間に、小雪がピッチャーに入った割り下を鍋に注ぎ、華乃と2人で野菜を鍋に入れていく ────

 プシッ

 片手で器用にビールの500ml缶のタブを開けたかと思うと、トップスピードがすき焼き鍋にそれを注ぎ始めた。

「ちょっと! 私達未成年!」

 華乃が言うが、

「大丈夫大丈夫、アルコールなんてすぐに飛んじゃうから」

 トップスピードはヘラヘラ笑いながら言う。

「こうした方が、コクが出るんだよ」

 鍋の中が、グツグツと煮立つ音に変わる。

「えっと、ご飯、行き渡った?」

 小雪が訊ねる。

「えっと……大丈夫だよ」

 各々手元を確認して、トップスピードがそう言った。

「じゃあ ────」

 

「いただきまーす」

 

 

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「あ」

 ラ・ピュセルと華乃、2人が同時に鍋の中から箸を上げると、同一の肉の端をつまんでいた。

 反射的にラ・ピュセルの方が肉を離す。華乃はそれを自分の茶碗の方まで運ぶものの、微妙な表情でそれを凝視してしまう。

「ああ、もうまだ追加の肉はあるからみみっちい真似しなさんな」

 トップスピードが苦笑しながら言う。

「…………!?」

 華乃がそれに気付いて、凝視する。

「小雪……意外と大胆」

「え!?」

 小雪は自分の茶碗の上に3枚もの肉を確保しながら、更に鍋の中に箸を伸ばしていた。

「えーいネギ食えネギ! 日本人でしょーが」

 トップスピードがツッコんだ。

 

 

「じゃ、おやすみなさーい」

「2人とも、ゆっくりなー」

 夕食も終えた、入浴も終えたところで、小雪とトップスピードは、そう言って2Kの片方、洋間の方に入っていってしまおうとする

「ちょ、ちょっと待って」

 華乃が慌てた声を出し、2人に向かって手を伸ばす。

「既婚女性が()()()()()男と一緒の寝室一緒の布団ってわけにはいかんし、小雪ちゃん見てる保護者も要るんだからそこんとこよろしく」

 トップスピードはそう言って、小雪とともに部屋に入って、扉を閉めてしまった。

「あー……えっと……」

 ラ・ピュセルが困ったように苦笑している。

 普段から居間兼寝室に使っている和室には、レンタルの四幅(よの)布団が一組。

「あの2人、絶対面白がってる。特にトップスピード」

 華乃は憤ったような表情でそう言った。

「あの、ボク、起きてようか……?」

 ラ・ピュセルは問いかけるように言うが、

「一緒に寝る」

 と、華乃は、憤ったような声でそう返した。

「え……」

「早く!」

 一瞬唖然とするラ・ピュセルに、華乃は、さっさと来いとばかりに言いながら、和室の方に入っていった。

 普段使っている煎餅布団もあるにはあったが、別れて寝たら寝たでなんだか負けたような気がしてならなかった。特に小雪に。

 華乃が照明を消し、2人は同じ布団の中に入った。

「情けないと思ってる?」

 お互い背中を向ける形で横になっていたが、やがて華乃がそう言った。

「え……?」

 ラ・ピュセルは短く訊き返す。華乃、リップルが言いそうで言わない言葉を意外に感じた。プライドが高いように見えて、誰にどう見られているかを気にしないところがあるからだ。

「高校生が、中学生相手にこんな…………して」

「別に。ボクにとっては中学生だとか高校生だとか関係なく、リップルは ──── あ、今は華乃か、だからえっと、あくまで華乃だし……」

「…………」

「それにさー……今回は小雪も遊びすぎだよ」

 ラ・ピュセルは、雰囲気を和らげるかのように、呆れた風を繕って言った。

「小雪……スノーホワイトには、人助けのひとつのつもりなのかも」

 華乃は、小雪に対しては逆に、フォローする言葉を出すものの、

「そうだとしても、ボクと華乃には、ちょっと最近やりすぎ」

「……うん、そう思う」

 と、ラ・ピュセルがさらに言うと、それには同意の言葉を返した。

「…………」

「…………」

 緊張しているんだか、その逆なのか、奇妙な感覚の時間が過ぎていく。

「ねぇ……」

「うん?」

 華乃の声に、ラ・ピュセルが反応する。

「身体、少しくっつけてもいい?」

「え、 ……ボクはいいけど…………」

 ラ・ピュセルが、少し戸惑いつつもそう返すと、華乃は少し動いて、背中同士をくっつけた。

「布団の中で、こうして誰かの体温を感じながら寝るって…………私、記憶にないな」

「ボクだって……親と寝てた記憶なんてはっきり覚えてないよ」

 華乃の言葉に、ラ・ピュセルは苦笑してしまう。

「そんなものかな……私、ちゃんとした家族がいた事自体ないから、よくわからない」

 華乃がさらに言うと、

「そっか……」

 と、ラ・ピュセルは笑みを消して、短く言った。

「お前の背中、あったかいな……」

「ん……」

 お互いの体温を感じ合いながら、夜の時間は過ぎていく。

 

「ほらほら、小雪、今のうち、今のうちに」

「う、うん」

 パシャッ、パシャッ

 小雪がスマートフォンのカメラを向けた先には、寝る前の緊張が(ほど)けて仰向けで寝ているラ・ピュセルと、それに抱き枕よろしく抱きついてしまっている華乃の姿があった。

 

 




オマケ:12話までのイースターエッグ集(反転)
第02話
 市職員「鹿目」:鹿目まどか(『魔法少女まどか☆マギカ』)
 迷子「菜乃花(なのは)」:高町なのは(『魔法少女リリカルなのは』)

第04話
 宇水(うみ)(なり)町の廃工場:海鳴市(『魔法少女リリカルなのは』)
第06話
 照洲田(てすた)マネージャー:フェイト・テスタロッサ(『魔法少女リリカルなのは』)
第12話
 リフレッシングブリーズ
 ↳“爽やかな風(refreshing breeze)”:美樹さやか(『魔法少女まどか☆マギカ』)
 アプリコット・アプリコット:佐倉杏子(『魔法少女まどか☆マギカ』)
 ネク:
日本電気株式会社


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