ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
ヒュッ
素早い速度で、一気に間合いを詰められ、懐に飛び込んでくる。
徒手空拳の打撃を1、2、と躱し、3撃目で間合いを取り直す。
「!」
素早く間合いを取り直したつもりが、それを許さず、ピッタリとついてこられている。
「くっ」
相手の一撃を仰け反るようにして躱すと、そのままバック転の要領で後ろに飛び跳ねつつ ────
ガツッ
「ぐっ!」
尻尾での一撃が正面に入りかけて、リップルは、それを両腕でガードしてから、自分の方からも間合いを取り直す。
「ご、ごめん」
着地したところで、ラ・ピュセルは慌ててリップルに声をかけた。
「いや、いい」
リップルは、そう言うと、口元で笑んで続ける。
「むしろいいやり方だった。少なくとも最初は相手の意表を突く」
「そうかな」
リップルに褒められて、ラ・ピュセルは、照れたように言い、笑った。
以前、ラ・ピュセルは、クラムベリーを想定して、身体能力としての最速の魔法少女であるリップルに鍛錬を頼んだことがあった。
その時はまだあまり関係が良好ではなく、にべもなく断られていたが、スイムスイム戦、そしてファヴとの決着がついた後、リップルが回復してから、また改めてその鍛錬を始めた。
トップスピードが離脱するまでの間はほとんど毎日。そして今も、週末はほぼ毎週、平日も、リップル、華乃のアルバイトがない日にたまにやっている。
場所は、ダム湖畔の公園。
「もう一戦行く?」
「お願いします」
そう言って、ラ・ピュセルが構えたところへ、リップルが飛び込んでいく。
「…………」
ラ・ピュセルとリップルが組み合っているのを、スノーホワイトはベンチに座って見ていた。
「はーぁ……」
鍛錬が終わった後。
一息つく一方で、マスター仕様のマジカルフォンを確認していたラ・ピュセルが、困ったような表情でため息を吐いた。
「どうかした?」
リップルが問いかける。スノーホワイトも、何かあったのか、という表情と視線をラ・ピュセルに向けていた。
「うん……候補生向けのアイテムなんだけど、武器を多く仕入れ過ぎちゃったな、と」
ラ・ピュセルは、浮かない顔のままでそう答える。
「武器?」
スノーホワイトが訊き返した。
「うん。 …………考えたらファヴとクラムベリーの時と違って、
「確かに」
ラ・ピュセルのボヤくような言葉に、リップルが同意の言葉を発する。
『そんな事ないぽん』
ネクが、姿は出さずにマジカルフォンから声だけで話しかけてきた。
『
「ははは……」
聞いていたスノーホワイトが、どこか乾いた笑いを上げた。
『そういう悪党から善良な人を守るのも魔法少女の役目だぽん』
「それはそうなんだけどね」
やれやれ、と言った口調で、ラ・ピュセルはネクにそう返す。
『それに、武器と言っても結局は道具のひとつに過ぎないぽん。それをどう使うか、どう応用するか、それを考えられるかどうかも魔法少女の立派な資質だぽん。それこそ、ラ・ピュセルなら一番理解していると思ったぽんよ』
「まぁ、そうだけどさ」
剣を大きくして足場に使う、逃走する相手を阻害する障害物として使う、最近ではビルからの落下阻止に、小さい状態でリップルに投げさせてから大きくして支点にする、というような使い方もしている。
『価格も一番安い部類だから、自分の魔法と相談して買う子がいてもいいと思うぽん』
ネクはそう言った。
「ねぇ、そうちゃん」
「ん?」
マジカルフォンを畳みかけたラ・ピュセルに、スノーホワイトが声をかける。
「それって、私も買える?」
「えっと」
もちろん現在は寿命と引き換えに、なんてわけではない。基本の対価はマジカルキャンディーだ。したがって候補生達は、アイテム購入の為にマジカルキャンディーを一時的に減らすことになる。その上で効率化が図れるかどうかの見極めが必要だ。
一方で、 “本物の魔法少女” になっても、感謝を受ければマジカルキャンディーは得られる。したがって ────
『それこそ、スノーホワイトなら仕入れをした直後のフルラインアップ買い占めてもお釣りがくるぽん』
ネクがそう言った。後進の試験官役、と言っても目の前で困っている人間を放っておける3人ではない。いわんやスノーホワイトは “目の前以外” も拾ってしまう。できるだけ候補生に任せろとはわかっているのだが。
「え? 武器欲しいの?」
ラ・ピュセルが、軽く驚いた表情をしてスノーホワイトに訊き返す。
「うん」
スノーホワイトは頷く。
ラ・ピュセルは、意外そうな表情のまま、一度リップルと顔を見合わせる。リップルは、どちらとも言えない、ニュートラルな表情をしてはいた。
「だって、2人はいろいろ武器持ってるし」
スノーホワイトが言った。
ラ・ピュセルは元々のアバターアイテムである剣、ファヴに売りつけられたがクラムベリー以外の相手には今のところ使い所がなく、小さくして格納したままの “魔法の音叉”、それにスイムスイムが使っていた槍を保有している。槍も自分のアバターに組み込んだ今はサイズ調整可能だ。
リップルは忍者の見た目相応に、クナイや手裏剣を取り出して使っている他、忍者刀も持ち歩いている。
「私もいざという時は、今度は傍観者でいないようにしたいの」
「まぁ、そう言う事なら……」
スノーホワイトの前のめり具合に対し、ラ・ピュセルは、持って満足するんなら、という感じで認めた。
スノーホワイトは、自分のマジカルフォンを手に取り出す。
「どれかお勧めある? やっぱり剣とか槍とか?」
「えーっと……」
スノーホワイトの問いかけに、ラ・ピュセルが答えたのは……────
「ふんっ」
なんだか気合を入れつつポーズを取っているようだが、やはりスノーホワイトだとどこか気が抜けたようになってしまう。
その手に持っているのは、割とシンプルなロングメイス。
「選んだ理由は?」
ラ・ピュセルの背後から、どこか疲れた様子のリップルが訊ねる。
「ほら、鈍器って振り回せばなんとかなるから……」
ラ・ピュセルは、引きつった苦笑のまま答える。
「どこで仕入れた知識?」
リップルが重ねて問う。
「一時期TRPGの本とか記事読み漁ってて……」
「魔法少女モノ?」
「本命はそれ。こういう知識はアイデア集とかで知ったやつだけど」
リップルは、顔を手で覆って盛大に溜息を吐いた。
「どう? ちょっとは様になってるかな?」
スノーホワイトが訊いてくる。
「う、うんまぁ……まぁかな?」
ラ・ピュセルは誤魔化すように苦笑しながら言ったのだが、
「なぜだろう、凄く似合いすぎてる気がする……」
リップルが、視線を2人に向けずにそう呟いた。
「え?」
ラ・ピュセルが、思わず振り向いて訊き返す。
「スノーホワイト」
「えっ、何?」
リップルが、スノーホワイトに声をかける。スノーホワイトは、妙に嬉しそうに笑ったまま、訊き返した。
すると、リップルは、なぜか激しく疲れたような様子で言う。
「頼むから補助武装とか言って消火器くくりつけたり、それ持って旅客機タダ乗りとかしないでね」
「し、しないよそんなこと!?」
─☆──☆──☆─
ある日の岸辺家。
「おまたせ」
飲み物とお菓子の載ったお盆を持って、ラ・ピュセルが自室に入ると。
「って、うわ! 何見てるの!?」
と、慌てた声を出す。
華乃は本棚からアルバムを取り出し、眺めていた。
「颯太の……本当の姿ってどんなのかなって、思ってたから」
華乃は、悪びれているのかいないのか、ニュートラルな表情で言う。
「だからって勝手に……」
「許可はもらってるわ。お母さんに」
言いかけたラ・ピュセルに、華乃は言う。
ラ・ピュセルは、もう少しでお盆の上のコップをひっくり返すところだった。
「って、母さんといつの間に!?」
「初めてお邪魔したときに、帰り際に」
そう言って、華乃はスマートフォンを取り出す。
「…………」
激しく頭痛がしてきた気がして、お盆を一旦学習机の上に載せつつ、片手で頭を抱える。
「もしかしてアルバムの事は……」
「ええ、お母さんから提案されたの。時間稼ぎするからって」
「何やってるんだよもう……」
華乃の答えを聞いて、ラ・ピュセルはさらに頭痛が酷くなってきた気がした。
「それにしても……」
華乃は顔を上げて、ラ・ピュセルの顔をまじまじと見つめる。
「な、何?」
見つめられて、頬を少し赤らめてどきまぎしながら、訊ねる。
「イメージがぜんぜん違うなって」
「そりゃまぁ、うん……」
リップルと華乃、スノーホワイトと小雪はまったく想像がつかない程には落差がない。
「でもそれ言ったら、トップスピードなんかどうするのさ」
あの体格、あの顔つき、あの髪型で、元ヤン、既婚、今は一児の母。
「それは……想像つかない」
「でしょ?」
華乃も認めざるを得なかった。
「…………小雪と一緒に写ってるのは、小さい頃の写真ばかりね」
「中学が別になっちゃったからね」
華乃の問いに、ラ・ピュセルは疲れた様子になりつつ、言った。
「…………」
「…………」
華乃が、生来のものなのか、少し険しさを感じさせる目で、アルバムを見ている。
気がつくと、特定のページを繰り返し見ているのが解った。
それに気付いたラ・ピュセルは、自分のスマートフォンを操作し始める。
「い、今はこうだからさ……」
ラ・ピュセルはスマートフォンを華乃に向かって差し出してきた。
「?」
スマートフォンを差し出しつつ、何故か俯いて顔を逸しているラ・ピュセルを見て、華乃は、少し不思議に感じながら、スマートフォンを受け取って画面を見る。
そして、その意図が解って、華乃も少し赤面する。
カメラフォルダが開いた状態にしてあった。
結構な数がある写真は、どれも華乃、あるいはリップルがラ・ピュセルと一緒に写り込んでいる。
小雪、スノーホワイトやトップスピードが写り込んでいることもあるが、2人きりのショットというのは、華乃、リップルとだけだ。
言いたい事は解った、が ────
「別に嫉妬なんかしてない」
ほんのりと頬を紅くしてしまいつつも、呆れたようなジト目を向けてそう言った。
「いや別に嫉妬って言うか……今はこうだって言いたかっただけっていうか……」
ラ・ピュセルの方は、華乃の顔を直視できないままそう言った。
華乃は、ため息を吐きつつ、スマートフォンの中の写真を流し見ていく。
「…………」
何かに気付いたように、アルバムの方をめくり直す。
「…………」
「? どうかした?」
「ううん、なんでも」
ラ・ピュセルが聞いたが、華乃は笑顔でそう答えただけだった。
「?」
── まぁ、スノーホワイトの前でもやらないわけじゃないんだろうけど。
ラ・ピュセル、颯太とともにサッカーボールが写り込んでいる写真には自分しかいない事に気付いていた。
── これぐらいの優越感、こっそり持っててもいいよね?
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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