ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
項島台ダム、ダム湖畔公園。
満車とまではいかないが、そこそこにクルマが止まっている駐車場の、区分のひとつに、初心者マークを着けた黒いセルボが駐車する。
駐車場にまで桜の花びらが舞い散っている。
その桜の花びらが風に流されていく駐車場の路面に、ラ・ピュセルは、助手席のドアを開けて降り立つ。その片手にピクニックバスケットを持っている。後ろ手にドアを閉めながら、芝生に覆われた公園敷地の方を見渡す。
1986年式のSS40型セルボには、キーレスエントリーどころか集中ドアロックすらない。かろうじてエアコンは付いている。とまれ、華乃はセンターコンソールを越えて身を乗り出して助手席のロックをかけてから、旧いMOMOのステアリング、右端の空調吹出口上に48φのBLITZ製ブースト計が付いた運転席から降りる。わざわざキーを使って運転席のドアロックをかけた。
「行こう」
「うん」
華乃が促すかたちで、2人は公園内の通路を歩く。隣り合って、手をつないで。
2人にとっては、かつて、スイムスイム、ファヴとの決着をつけた因縁の地だが、夜の降雨の中の出来事だったあのときとは、まるで雰囲気が違う。
桜開花期の休日では駐車場に余裕がないということで、華乃がシフト制勤務、ラ・ピュセル ── 颯太が通信制高校、それぞれの利点を使って平日のお花見デートにした。
ただ、それでもお花見シーズン後半の時期だからか、園内はそれなりの人出があった。屋台も出ている。
ソメイヨシノはすでに葉桜になってしまっていたが、八重桜がより鮮やかな色で咲き誇っている。
「…………こうやって、ここの桜しっかり見るのって、初めてな気がする……」
芝生に覆われた園内を見回しながら、ラ・ピュセルは呟くように言った。
「……私なんか、そんな余裕もなかった」
華乃がそう言うと、ラ・ピュセルはその華乃の顔を見る。
「今も余裕はあるとは言えないけど、その、心がいっぱいいっぱいだった。自分以外は全部くだらないと思ってた。 ……後々、それは本当の本心じゃないって解ったけど」
それを聞きながら、ラ・ピュセルは、少し気恥ずかしそうに頬を掻く仕種をする。
そこから先は、2人にとって何度も交わした言葉だ。トップスピードとの活動で徐々に解れていって、スノーホワイトを見て自分の理想に気付かされ、そして、自分が認識している中で初めて、掛け値なしに自分の為に怒ってくれる人に出会った。
軽く風が吹く。桜の花びらが舞う。
「綺麗ね」
「うん」
華乃の言葉に、ラ・ピュセルは同意の声を出す。
八重桜の並木に挟まれた公園内の通路を、特に目的地があるわけでもなく歩いていく。
「うわぁあぁぁぁん!!」
唐突に、泣き声が聞こえてきた。幼い、自分達よりずっと子どもの声だ。
2人がその声に振り返ると、1人の、未就学ぐらいの男の子が泣いていた。
「僕の風船ー!!」
「また、また買ってあげるから!」
「やだぁあぁぁぁ!」
母親と思しき女性が宥めようとするが、男の子は泣き止まない。
「あ、あれ」
華乃が先に見つけて、そう言いながら指差した。
高めに伸びた八重桜のその高い枝に、アルミ風船が引っかかっている。屋台で売っていたやつだ。
「ちょっと、行ってくる」
「あっと」
ラ・ピュセルは、バスケットを華乃に押し付け気味に預けると、風船が引っかかっている八重桜の枝の下まで走っていく。
「はっ」
その真下で軽く地面を蹴って、引っかかっている風船の高さまで跳び上がる。
1度目は状況を確認して着地する。
2度目で、片手で枝に掴まりつつ、もう片手でアルミ風船を軽くつまむようにして、枝に体重がかかりきる前に着地する。
風船を垂れている糸で持ち直して、男の子の所まで持っていく。
「はい、風船。これでいいんだよね?」
「わぁ!」
男の子は泣き止み、ラ・ピュセルが差し出した風船の糸に手を伸ばす。
「糸を指に絡めておくと、
「うん!」
「あ、ありがとうございます」
母親の方が、ラ・ピュセルに礼を言ってくる。
「ほら英理雄、お前もお礼言いなさい」
「うん、ありがとう、おねーちゃん!」
「どういたしまして」
ラ・ピュセルは男の子にそう言ってから、手を振りつつ、
「じゃあ、私も連れを待たせているので」
と、母親の方にそう言って、その場を離れる。
バスケットを両手で持っている華乃の所まで戻ってくると、
「相変わらず」
と、華乃が言った。
「ごめん、華乃のこと放り出しちゃって」
「怒ってるわけじゃないし、指摘するなら別の所」
申し訳無さそうに言うラ・ピュセルに対して、華乃は指差しながらさらにそう言った。
「別の所?」
ラ・ピュセルは不思議そうに聞き返す。
「今、
「あ、まぁ、そうだけど。別に今の程度なら、いいかなって」
「颯太がそれでいいなら、私は別にいいけど」
決まり悪そうに言うラ・ピュセルに対して、華乃は苦笑しながらそう返した。
しばらく、連れ立って歩くことそのものが目的になった散策を続けた後、公園内のベンチに座る。
「飲み物買ってくる。華乃は何がいい?」
「ドクターペッパー」
「了解」
ラ・ピュセルは、バスケットをベンチの上に下ろした後、華乃に要望を聞いてから、近くにあった赤い自動販売機まで小走りに駆けていく。
財布から取り出した小銭を投入して、商品を選んで、取り出す。それを2度繰り返す。
「お待たせ」
華乃がバスケットと並んで座っているところへ、ラ・ピュセルがそう言いながら戻ってくる。
「はい」
「ありがとう」
ラ・ピュセルが、濃い赤紫の350ml缶を華乃に手渡す。反対側の手に、ペットボトルのリアルゴールドが握られている。
ラ・ピュセルは立ったままバスケットを開く、と、洋風のバスケットの中から、和風丸出しの重箱が出てきた。
その重箱を展開すると、俵むすびに、サニーレタスに載せた唐揚げ、厚焼き玉子、お煮しめ、等々、総じて和風の料理が詰められている。
「これ、ひょっとしてお母さんが?」
軽く唖然としつつ、華乃はラ・ピュセルに訊ねる。
「うん、手伝ってもらったっていうか、教えてもらったっていうか」
華乃が期待していた答えは「母親に作ってもらった」だったが、ラ・ピュセル ── 颯太が主体で作った、に聞こえる答えが返ってきて、華乃の顔が引き攣る。
割り箸と、小さな紙の取皿をそれぞれ手に持って、
「いただきます」
と、2人とも言う。
箸を進めていくうちに、華乃が取皿に取ったお煮しめを口に運ぶ。
「どう? 美味しい?」
それを見ていたラ・ピュセルが、華乃に問いかける。
「うん」
華乃がそう返事をすると、
「良かったぁ、流石にここまで手の込んだものは初めてだったからさ」
ラ・ピュセルは、胸を撫で下ろすように、息を
「…………」
華乃は、そんなラ・ピュセルを見つめながら、
── トップスピード……のところは迷惑かな。小雪はこういうの得意かな……
と、自分も手の込んだ料理を作れるようにならないと、と、我ながららしくないことを考えていた。
桜ばかりに飽きてきた後は、ダム湖に住み着いている水鳥のバリケンを観察したり、遊具で遊んでいる児童達を眺めたりしながら過ごしていた。
そのうち、風が少し涼しくなってくる。
「そろそろ、帰る?」
「そうだね」
華乃が言い、ラ・ピュセルはそれに同意する。
駐車場まで戻ってきて ────
先に乗り込んだ華乃が、助手席のドアロックを外すと、ラ・ピュセルが助手席のドアを開けてから、先にバスケットを後部座席に置いた後、助手席のシートに座った。
「ちょっと早いけど、どこかで晩御飯食べてく?」
「うん!」
セルボのエンジンを始動しながら言う華乃に、ラ・ピュセル、颯太はそう答えた。
セルボの追加パーツ類の件
中古っつうか廃車から剥がしてきたもの。
トップスピードってレディース(暴走族)出身で、だいたい過去に暴走族関係やってた人って周囲にクルマ関係(上流のディーラーじゃなくて、非チェーンの中古車屋・車検屋・解体屋)方向に進んでいる人多いんでツテあるかなと。そもそもセルボ本体がそうだし。
そうちゃんのコーデはまたあの方カラー(割とマイナーな色かも)
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