ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

19 / 19
【はじめに】
後日談 その04とは、時系列の関係が少し曖昧です。


季節回 春:お花見

 項島台ダム、ダム湖畔公園。

 満車とまではいかないが、そこそこにクルマが止まっている駐車場の、区分のひとつに、初心者マークを着けた黒いセルボが駐車する。

 駐車場にまで桜の花びらが舞い散っている。

 その桜の花びらが風に流されていく駐車場の路面に、ラ・ピュセルは、助手席のドアを開けて降り立つ。その片手にピクニックバスケットを持っている。後ろ手にドアを閉めながら、芝生に覆われた公園敷地の方を見渡す。

 1986年式のSS40型セルボには、キーレスエントリーどころか集中ドアロックすらない。かろうじてエアコンは付いている。とまれ、華乃はセンターコンソールを越えて身を乗り出して助手席のロックをかけてから、旧いMOMOのステアリング、右端の空調吹出口上に48φのBLITZ製ブースト計が付いた運転席から降りる。わざわざキーを使って運転席のドアロックをかけた。

「行こう」

「うん」

 華乃が促すかたちで、2人は公園内の通路を歩く。隣り合って、手をつないで。

 2人にとっては、かつて、スイムスイム、ファヴとの決着をつけた因縁の地だが、夜の降雨の中の出来事だったあのときとは、まるで雰囲気が違う。

 桜開花期の休日では駐車場に余裕がないということで、華乃がシフト制勤務、ラ・ピュセル ── 颯太が通信制高校、それぞれの利点を使って平日のお花見デートにした。

 ただ、それでもお花見シーズン後半の時期だからか、園内はそれなりの人出があった。屋台も出ている。

 ソメイヨシノはすでに葉桜になってしまっていたが、八重桜がより鮮やかな色で咲き誇っている。

「…………こうやって、ここの桜しっかり見るのって、初めてな気がする……」

 芝生に覆われた園内を見回しながら、ラ・ピュセルは呟くように言った。

「……私なんか、そんな余裕もなかった」

 華乃がそう言うと、ラ・ピュセルはその華乃の顔を見る。

「今も余裕はあるとは言えないけど、その、心がいっぱいいっぱいだった。自分以外は全部くだらないと思ってた。 ……後々、それは本当の本心じゃないって解ったけど」

 それを聞きながら、ラ・ピュセルは、少し気恥ずかしそうに頬を掻く仕種をする。

 そこから先は、2人にとって何度も交わした言葉だ。トップスピードとの活動で徐々に解れていって、スノーホワイトを見て自分の理想に気付かされ、そして、自分が認識している中で初めて、掛け値なしに自分の為に怒ってくれる人に出会った。

 軽く風が吹く。桜の花びらが舞う。

「綺麗ね」

「うん」

 華乃の言葉に、ラ・ピュセルは同意の声を出す。

 八重桜の並木に挟まれた公園内の通路を、特に目的地があるわけでもなく歩いていく。

 

【挿絵表示】

 

「うわぁあぁぁぁん!!」

 唐突に、泣き声が聞こえてきた。幼い、自分達よりずっと子どもの声だ。

 2人がその声に振り返ると、1人の、未就学ぐらいの男の子が泣いていた。

「僕の風船ー!!」

「また、また買ってあげるから!」

「やだぁあぁぁぁ!」

 母親と思しき女性が宥めようとするが、男の子は泣き止まない。

「あ、あれ」

 華乃が先に見つけて、そう言いながら指差した。

 高めに伸びた八重桜のその高い枝に、アルミ風船が引っかかっている。屋台で売っていたやつだ。

「ちょっと、行ってくる」

「あっと」

 ラ・ピュセルは、バスケットを華乃に押し付け気味に預けると、風船が引っかかっている八重桜の枝の下まで走っていく。

「はっ」

 その真下で軽く地面を蹴って、引っかかっている風船の高さまで跳び上がる。

 1度目は状況を確認して着地する。

 2度目で、片手で枝に掴まりつつ、もう片手でアルミ風船を軽くつまむようにして、枝に体重がかかりきる前に着地する。

 風船を垂れている糸で持ち直して、男の子の所まで持っていく。

「はい、風船。これでいいんだよね?」

「わぁ!」

 男の子は泣き止み、ラ・ピュセルが差し出した風船の糸に手を伸ばす。

「糸を指に絡めておくと、()くさないよ」

「うん!」

「あ、ありがとうございます」

 母親の方が、ラ・ピュセルに礼を言ってくる。

「ほら英理雄、お前もお礼言いなさい」

「うん、ありがとう、おねーちゃん!」

「どういたしまして」

 ラ・ピュセルは男の子にそう言ってから、手を振りつつ、

「じゃあ、私も連れを待たせているので」

 と、母親の方にそう言って、その場を離れる。

 バスケットを両手で持っている華乃の所まで戻ってくると、

「相変わらず」

 と、華乃が言った。

「ごめん、華乃のこと放り出しちゃって」

「怒ってるわけじゃないし、指摘するなら別の所」

 申し訳無さそうに言うラ・ピュセルに対して、華乃は指差しながらさらにそう言った。

「別の所?」

 ラ・ピュセルは不思議そうに聞き返す。

「今、()()()()()()()()でしょ」

「あ、まぁ、そうだけど。別に今の程度なら、いいかなって」

「颯太がそれでいいなら、私は別にいいけど」

 決まり悪そうに言うラ・ピュセルに対して、華乃は苦笑しながらそう返した。

 

 しばらく、連れ立って歩くことそのものが目的になった散策を続けた後、公園内のベンチに座る。

「飲み物買ってくる。華乃は何がいい?」

「ドクターペッパー」

「了解」

 ラ・ピュセルは、バスケットをベンチの上に下ろした後、華乃に要望を聞いてから、近くにあった赤い自動販売機まで小走りに駆けていく。

 財布から取り出した小銭を投入して、商品を選んで、取り出す。それを2度繰り返す。

「お待たせ」

 華乃がバスケットと並んで座っているところへ、ラ・ピュセルがそう言いながら戻ってくる。

「はい」

「ありがとう」

 ラ・ピュセルが、濃い赤紫の350ml缶を華乃に手渡す。反対側の手に、ペットボトルのリアルゴールドが握られている。

 ラ・ピュセルは立ったままバスケットを開く、と、洋風のバスケットの中から、和風丸出しの重箱が出てきた。

 その重箱を展開すると、俵むすびに、サニーレタスに載せた唐揚げ、厚焼き玉子、お煮しめ、等々、総じて和風の料理が詰められている。

「これ、ひょっとしてお母さんが?」

 軽く唖然としつつ、華乃はラ・ピュセルに訊ねる。

「うん、手伝ってもらったっていうか、教えてもらったっていうか」

 華乃が期待していた答えは「母親に作ってもらった」だったが、ラ・ピュセル ── 颯太が主体で作った、に聞こえる答えが返ってきて、華乃の顔が引き攣る。

 割り箸と、小さな紙の取皿をそれぞれ手に持って、

「いただきます」

 と、2人とも言う。

 箸を進めていくうちに、華乃が取皿に取ったお煮しめを口に運ぶ。

「どう? 美味しい?」

 それを見ていたラ・ピュセルが、華乃に問いかける。

「うん」

 華乃がそう返事をすると、

「良かったぁ、流石にここまで手の込んだものは初めてだったからさ」

 ラ・ピュセルは、胸を撫で下ろすように、息を()きながらそう言った。

「…………」

 華乃は、そんなラ・ピュセルを見つめながら、

 ── トップスピード……のところは迷惑かな。小雪はこういうの得意かな……

 と、自分も手の込んだ料理を作れるようにならないと、と、我ながららしくないことを考えていた。

 

 桜ばかりに飽きてきた後は、ダム湖に住み着いている水鳥のバリケンを観察したり、遊具で遊んでいる児童達を眺めたりしながら過ごしていた。

 そのうち、風が少し涼しくなってくる。

「そろそろ、帰る?」

「そうだね」

 華乃が言い、ラ・ピュセルはそれに同意する。

 駐車場まで戻ってきて ────

 先に乗り込んだ華乃が、助手席のドアロックを外すと、ラ・ピュセルが助手席のドアを開けてから、先にバスケットを後部座席に置いた後、助手席のシートに座った。

「ちょっと早いけど、どこかで晩御飯食べてく?」

「うん!」

 セルボのエンジンを始動しながら言う華乃に、ラ・ピュセル、颯太はそう答えた。

 





セルボの追加パーツ類の件
 中古っつうか廃車から剥がしてきたもの
 トップスピードってレディース(暴走族)出身で、だいたい過去に暴走族関係やってた人って周囲にクルマ関係(上流のディーラーじゃなくて、非チェーンの中古車屋・車検屋・解体屋)方向に進んでいる人多いんでツテあるかなと。そもそもセルボ本体がそうだし。

そうちゃんのコーデはまたあの方カラー(割とマイナーな色かも)

具体的な感想をいただけると、執筆活動が捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

お嬢様がGBNにいるわけないだろう!(作者:プラ板の削りカス)(原作:ガンダム)

名家のガチ令嬢にTS転生した元ガノタの金髪ツーサイドアップ吊り目お嬢様がガンダムビルドダイバーズの世界で暴れ散らかすお話。なんでも許せる人向け。


総合評価:1671/評価:7.89/連載:49話/更新日時:2026年05月27日(水) 19:04 小説情報

TS→後輩(天才女)のヒモ(作者:鰻重特上)(オリジナル現代/恋愛)

「僕を、ヒモにしてください」▼「……はい?」▼ 2053年。ちょっと未来の東京、会社勤めの三十四歳の独身男性(彼女いない暦=年齢)である「英輝夜」はある日、「朝おん」をかました。▼一夜にして戸籍、貯蓄、住所の全てを失った輝夜が選んだのは……。▼ ▼ 後輩の「ヒモ」だった。


総合評価:5087/評価:9.07/完結:16話/更新日時:2026年02月19日(木) 19:00 小説情報

現代怪異社会の博麗霊夢(偽) (作者:拓拓)(原作:東方Project)

「東方Project」オタクの主人公が、「博麗霊夢(偽)」になりきってオカルト退治を行う。


総合評価:4364/評価:8.45/連載:24話/更新日時:2026年02月09日(月) 17:00 小説情報

【完結】私、ジャブローのモグラ志望って言いましたよね???(作者:むにゃ枕)(原作:ガンダム)

お前はひっこんでろ、私は安全に出世したいんだよ。▼出世すりゃあ私の持てる権力も多くなるからな。▼ジオン残党は跳梁跋扈しているが、とりあえず私はそこそこの残党を討伐してジャブローのモグラになるぜ!▼


総合評価:7937/評価:8.37/完結:24話/更新日時:2026年04月17日(金) 17:54 小説情報

破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》(作者:kiakia)(原作:機動戦士ガンダム SEED DESTINY)

「なんでよりによって、アイツなんだよぉぉぉぉ!!」▼ 目覚めると、そこはガンダムSEED DESTINYの世界。よりによって視聴者から「無能・姑息・情けない」と叩かれ、悲惨な最期を遂げた御曹司、ユウナ・ロマ・セイランになっていた。▼ 時は本編開始直前。目前にはユニウスセブン落下、大西洋連邦との泥沼の軍事同盟、そしてキラやシンとの敵対という、回避不能な破滅フラ…


総合評価:23230/評価:8.58/完結:161話/更新日時:2026年06月09日(火) 07:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>