ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers― 作:神谷萌
「困ってる、だけじゃない、かなり怖がってる声が聞こえる」
スノーホワイトが聞きつけた “声” のする方へ、4人は移動する。
「…………」
行き当たったそこは、ラ・ピュセルがトラックに撥ねられた道路、それもその現場が見えるような場所だった。
「あっ!」
スノーホワイトが声を上げる。
「多分、今事故になった!」
「急がないと!」
ラ・ピュセルが反応し、4人はそちらへ向かう。
ラ・ピュセルとスノーホワイトが道路を疾走し、トップスピードは自前の箒で、リップルを後ろに乗せたタンデムで飛行している。
「!」
疾走しながら、スノーホワイトがハッと顔を上げた。
「嫌な感じの声が……前から、来る!」
スノーホワイトが聞こえるのは「困っている人の心の声」。だが、その “困っていること” は、その善悪の性質を問わない。
スノーホワイトがそう言ってすぐ、正面からショートボディのCUVが、猛スピードですれ違っていく。
「あの野郎、当て逃げだな!!」
トップスピードが激昂した声を出した。
「オレ達が追う! 2人は事故車を」
「解った!」
Uターンしかけながら言うトップスピードに言われ、ラ・ピュセルとスノーホワイトはそのまま道路の先に向かった。
ラ・ピュセルとスノーホワイトが走っていくと、いくらもしないうちに、コンパクトカーが、対向車線側に急ハンドルを切り、そのまま
子どもの泣き声が聞こえる。
2人が車内を覗き込むと、運転席に座っている母親と思しき女性が、助手席の幼児用チャイルドシートを外そうとしているのが見えた。
コンコン、と、ラ・ピュセルが助手席の窓をノックしたことで、女性は2人に気づいた。
クルマの電気系は生きていたのか、運転席のパワーウィンドウ操作で助手席の窓が開いた。
「すみません、ちょっと揺れます、気をつけていてください」
「は、はい」
ラ・ピュセルは、そう言い、女性が答えるのを待ってから、屈んでクルマのボディの裾を掴んだ。
「ふんっ……!」
流石に歯を食いしばって力を入れる。タイヤに対して横方向に車体を引っ張り、擁壁から車体を少し離した。
「スノーホワイトは子どもの方を」
「う、うん」
ラ・ピュセルは助手席の子どもをスノーホワイトに任せ、自分は車体の反対側に回る。
スノーホワイトは助手席のドアを開ける。こちらは、簡単に開けることができた。子どもは泣きじゃくっている。
「その、真ん中のボタンで外れますから」
運転席の女性が、スノーホワイトに言う。一瞬、どうすればいいのか戸惑ったが、女性の言葉に従って、4点式ベルトのリリースボタンを押し、ベルトを外す。子どもを抱えて、車外に出させた。
運転席の方は、凹んだ車体が歪んでしまっているのか、女性が必死に脱出しようとするものの、車内側のノブを何度操作してもドアが開かない。
窓は粉砕されてしまっており、女性は強化ガラスの粒にまみれていた。
ラ・ピュセルは、ガラスのなくなった扉を掴み、
バキィッ、ギギギィッ……
最初にロック部分を破壊した衝撃音があり、それでもまだヒンジにつかまっているドアを、今度はその端に手をかけ直して力任せに開けた。
女性は降りかけて、自分のシートベルトがまだかかったままだった事に気づき、それを外してから、降りてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい」
ラ・ピュセルの問いに、女性は強化ガラスの粒を払いながら答える。
「ドア、壊してしまってすみません」
ラ・ピュセルは謝罪する。もとより事故で損傷してしまっていたが、力任せに無理やり開けたのは事実だ。
「いいえ、助かりました。ありがとうございます」
女性は、苦笑したような表情でそう言った。
そこへ、スノーホワイトが、助手席から救出した子どもを連れてきた。
「ママー!!」
「怖かったね、ごめんね」
泣きじゃくりながら女性に向かってくる子どもに対して、女性は屈んで子どもを包み込むように抱き、落ち着かせるように声をかける。
──── 一方
「止まれ!! 止まれっつってんだよこの野郎!!」
猛スピードで逃げるCUVと並走しながら、ドライバーに向かってトップスピードが怒鳴りつけるものの、停車する気配がない。
「まずいな、このままだとこいつ自身も事故るぞ」
トップスピードはそう判断した。
「巻き添えが出る前に止める! リップル、タイヤやるぞ!」
「……チッ、仕方ない」
憤りと焦りで声を張り上げているトップスピードに対し、リップルは、口調では煩わしそうに言うものの、手際よくクナイを構える。
トップスピードは、CUVの右側を並走したまま、少し離れて隙間を開ける。
「
「注文が多い」
トップスピードの言葉に対して、リップルは、そう返しつつも、一瞬だけ狙いをつけるようにしたかと思うと、小さいモーションでクナイを放った。
バシュッ!
狙い過たずにクナイは後輪に当たり、そのタイヤがバーストする。
ギャギャギャギャギャギャ……ギィィィィ
CUVはふらつきつつ、走行抵抗が一気に上がって速度が急激に落ちた。路肩に寄せて停車する。
降りてきたドライバーは、憤った様子を見せている。
「お前ら! ま、魔法少女がこんな事していいのかよ!」
「あ゙ぁ!?」
どちらかと言うとオタクにありそうな外見の男性ドライバーに対して、トップスピードは
「お前が何をしてたのか、後ろ走ってたクルマのドラレコ見たら一発で解るだろ。それとも何やってこんな状況になったのか、その上で誤魔化せるか?」
少し離れたところで、パトカーのサイレンが聞こえてきた。被害者が呼んだのだろう。
トップスピードの「ドラレコ」の下りは一種のカマかけだったが、今は2台に1台は装着している時代だ。
ドライバーの男性はがっくり、とその場でうなだれた。
クラムベリーとの再戦の後 ────
小雪、スノーホワイトとともに、ラ・ピュセルも、トップスピードとリップルの2人と行動をともにしていた。
トップスピードは、とっつきやすく面倒見のいい性格だったから、
「他の魔法少女もグループ作ってるからねー。信用していい相手が増えるって事はいい事さ」
と、そう言って受け容れてくれたのだが。
問題はリップルの方だった。スノーホワイトとの行動は、口では否定的に言いつつも受け容れていたリップルだが、ラ・ピュセルに対しては、
「コイツは信用できない。ウソをつくとか、そう言う意味じゃない。むしろ逆に、コイツは
と、こう言って拒絶していた。
リーダー格としてトップスピードが仲を取り持っているからリップルは渋々従っている、そう言う関係が現状だった。
「今日はここまで、お疲れさんって感じだな」
駅前通りの雑居ビルの屋上。まだ都市は完全には休んではいないが、それでも人目の届きにくいところで、活動後に一息入れたところだった。
「そう言えば自動車事故だって聞いてたけど、もう大丈夫なのか?」
トップスピードが聞いてくる。
「あ、はい、今はすっかり元通りです」
ラ・ピュセルは苦笑交じりに答えた。流石に、小雪以外の魔法少女に、変身が解除できない事は言えない。
「スノーホワイトもそうだけど、お前さんも根を詰めるタイプに見えるからね、自分が潰れないようにしなよ」
「ははは……気をつけます」
軽く苦笑で返事をしたつもりのラ・ピュセルだったが、トップスピードはその顔を一瞬、凝視した。ほんの一瞬のことだったが。
「それで、この後なんですが」
ラ・ピュセルの方から切り出した。
「ボク、ちょっとリップルさんと2人きりで話がしたいんですけど……」
「えっ?」
驚いたような表情を見せたのは、スノーホワイトだった。
リップルも一瞬だけ意外そうな表情をラ・ピュセルに向けたが、すぐに不快そうな表情で視線を斜め下に逸らした。
「オレ達に内緒にしたい内容かい?」
トップスピードは、口元だけで笑いながら、そう訊き返す。
「はい、できれば」
ラ・ピュセルは、先程の談笑の様子を完全に消して、真剣な表情で言った。
「ふぅん……」
トップスピードは短く言った後、箒を持ち直し、跨る前の仕種に入る。
「じゃあスノーホワイト、オレが近くまで送ってやるよ」
「えっ」
スノーホワイトは、トップスピードの言葉に、戸惑いの声を出し、彼女とラ・ピュセルの顔を交互に見る。
「いいからさ、今日のところは野暮抜きってことで」
「えと、あの、あの……」
まだ戸惑うスノーホワイトを、トップスピードは、その手を掴んで近くに来させ、箒の後ろに乗るように促す。
「ごめん、スノーホワイト。でもどうしても話したい事があるんだ」
「う、うん、よくわからないけど、無茶しないでね! リップルも……」
スノーホワイトが後ろ髪引かれるような様子で、そう告げる。彼女には、リップルがラ・ピュセルの事を迷惑に思っている声が聞こえていた。
トップスピードはスノーホワイトを箒の後ろに乗せて、その場から去っていく。
「…………何のつもり」
リップルは、ジロリ、と、不快感を隠さずにラ・ピュセルを睨みながら、低い声で問いかける。
「その……いや、はっきり言いますね。ボクを鍛えて欲しいんです」
「は?」
ラ・ピュセルの言葉に、流石に意外すぎて、リップルの表情が一瞬固まる。
「トップスピードさんにも聞きましたけど、リップルさんは魔法少女の中で、一番素早い動きができるんですよね?」
ラ・ピュセルは真摯な表情で言うが、リップルは表情をさらに歪めるばかりだった。
「敬語なんか使うな、気持ち悪い」
「そうです……そうか、じゃあ、普通に話すけど」
リップルが不快そうに言ったのを聞いて、ラ・ピュセルも言葉を崩す。
「リップルの速度に追いつけないまでも、対処できるようにしたい、なりたいんだ」
「断る」
ラ・ピュセルが懇願するように言うが、リップルは即座にそっけなく拒否した。
「お前にそんな事をしてやる義理がない。そもそも、お前はスノーホワイトのついでに付き合ってるようなもの。トップスピードが受け容れていなければ一緒にもいたくない」
「それは……解ってる。でも、そんな事言ってる余裕がないんだ」
すると、リップルは、表情はますます不快そうにするものの、
「チッ……誰を相手にする気だ」
と、舌打ち混じりに、問い返した。
「…………」
「黙るな。答えろ」
ラ・ピュセルが一瞬逡巡すると、リップルは苛立った様子で答えを急く。
「まだ、決めてるわけじゃない」
「嘘つけ」
ラ・ピュセルの答えに、リップルは即座にそれを否定した。
「…………名前はまだ言えない。でも、ボクを殺したいと思ってるやつがいる。スノーホワイトやトップスピードに知られたくないのは、知れば自分達から動きそうだったから。それに……────」
そこまで言って、僅かに言い澱む。視線が険しくなる。
「ボクも、そいつを殺したいと思ってる」
「!」
リップルの目が、一瞬鋭く細まる。
『アイツ、前とは少し違ってるよ。眼の中に
ラ・ピュセルが合流した初日、その事に不満をもっていたリップルに対して、解散して2人きりになった時にトップスピードがそう告げていた。
ただ、その反応も、時間にしてみれば一瞬のこと。
リップルは、すっ、と小さく息を吸い込んだ後、突き放すように告げる。
「それでも断る。トップスピードとスノーホワイトは私が守る。お前は自分でなんとかしろ」
「そう、……か…………」
アンケートの件。
まだ誰とは言えないんですけど、そんな事を考えてます。
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ラ・ピュセル以外に追加で助かる魔法少女がいてもいい?
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いいと思う
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よくないと思う
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むしろ助けろ