ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―   作:神谷萌

5 / 18
アンケート御協力お願いします


第05話

「困ってる、だけじゃない、かなり怖がってる声が聞こえる」

 スノーホワイトが聞きつけた “声” のする方へ、4人は移動する。

「…………」

 行き当たったそこは、ラ・ピュセルがトラックに撥ねられた道路、それもその現場が見えるような場所だった。

「あっ!」

 スノーホワイトが声を上げる。

「多分、今事故になった!」

「急がないと!」

 ラ・ピュセルが反応し、4人はそちらへ向かう。

 ラ・ピュセルとスノーホワイトが道路を疾走し、トップスピードは自前の箒で、リップルを後ろに乗せたタンデムで飛行している。

「!」

 疾走しながら、スノーホワイトがハッと顔を上げた。

「嫌な感じの声が……前から、来る!」

 スノーホワイトが聞こえるのは「困っている人の心の声」。だが、その “困っていること” は、その善悪の性質を問わない。

 スノーホワイトがそう言ってすぐ、正面からショートボディのCUVが、猛スピードですれ違っていく。

「あの野郎、当て逃げだな!!」

 トップスピードが激昂した声を出した。

「オレ達が追う! 2人は事故車を」

「解った!」

 Uターンしかけながら言うトップスピードに言われ、ラ・ピュセルとスノーホワイトはそのまま道路の先に向かった。

 ラ・ピュセルとスノーホワイトが走っていくと、いくらもしないうちに、コンパクトカーが、対向車線側に急ハンドルを切り、そのまま擁壁(ようへき)に車体を擦り付けるようにぶつかり、停まっていた。左車線から突然大きく逸れたタイヤ痕が残っている。

 子どもの泣き声が聞こえる。

 2人が車内を覗き込むと、運転席に座っている母親と思しき女性が、助手席の幼児用チャイルドシートを外そうとしているのが見えた。

 コンコン、と、ラ・ピュセルが助手席の窓をノックしたことで、女性は2人に気づいた。

 クルマの電気系は生きていたのか、運転席のパワーウィンドウ操作で助手席の窓が開いた。

「すみません、ちょっと揺れます、気をつけていてください」

「は、はい」

 ラ・ピュセルは、そう言い、女性が答えるのを待ってから、屈んでクルマのボディの裾を掴んだ。

「ふんっ……!」

 流石に歯を食いしばって力を入れる。タイヤに対して横方向に車体を引っ張り、擁壁から車体を少し離した。

「スノーホワイトは子どもの方を」

「う、うん」

 ラ・ピュセルは助手席の子どもをスノーホワイトに任せ、自分は車体の反対側に回る。

 スノーホワイトは助手席のドアを開ける。こちらは、簡単に開けることができた。子どもは泣きじゃくっている。

「その、真ん中のボタンで外れますから」

 運転席の女性が、スノーホワイトに言う。一瞬、どうすればいいのか戸惑ったが、女性の言葉に従って、4点式ベルトのリリースボタンを押し、ベルトを外す。子どもを抱えて、車外に出させた。

 運転席の方は、凹んだ車体が歪んでしまっているのか、女性が必死に脱出しようとするものの、車内側のノブを何度操作してもドアが開かない。

 窓は粉砕されてしまっており、女性は強化ガラスの粒にまみれていた。

 ラ・ピュセルは、ガラスのなくなった扉を掴み、

 バキィッ、ギギギィッ……

 最初にロック部分を破壊した衝撃音があり、それでもまだヒンジにつかまっているドアを、今度はその端に手をかけ直して力任せに開けた。

 女性は降りかけて、自分のシートベルトがまだかかったままだった事に気づき、それを外してから、降りてきた。

「大丈夫ですか?」

「はい」

 ラ・ピュセルの問いに、女性は強化ガラスの粒を払いながら答える。

「ドア、壊してしまってすみません」

 ラ・ピュセルは謝罪する。もとより事故で損傷してしまっていたが、力任せに無理やり開けたのは事実だ。

「いいえ、助かりました。ありがとうございます」

 女性は、苦笑したような表情でそう言った。

 そこへ、スノーホワイトが、助手席から救出した子どもを連れてきた。

「ママー!!」

「怖かったね、ごめんね」

 泣きじゃくりながら女性に向かってくる子どもに対して、女性は屈んで子どもを包み込むように抱き、落ち着かせるように声をかける。

 

 ──── 一方

「止まれ!! 止まれっつってんだよこの野郎!!」

 猛スピードで逃げるCUVと並走しながら、ドライバーに向かってトップスピードが怒鳴りつけるものの、停車する気配がない。

「まずいな、このままだとこいつ自身も事故るぞ」

 トップスピードはそう判断した。

「巻き添えが出る前に止める! リップル、タイヤやるぞ!」

「……チッ、仕方ない」

 憤りと焦りで声を張り上げているトップスピードに対し、リップルは、口調では煩わしそうに言うものの、手際よくクナイを構える。

 トップスピードは、CUVの右側を並走したまま、少し離れて隙間を開ける。

後輪(ケツ)を狙え。サスまで吹っ飛ばさないよう手加減しろよ」

「注文が多い」

 トップスピードの言葉に対して、リップルは、そう返しつつも、一瞬だけ狙いをつけるようにしたかと思うと、小さいモーションでクナイを放った。

 バシュッ!

 狙い過たずにクナイは後輪に当たり、そのタイヤがバーストする。

 ギャギャギャギャギャギャ……ギィィィィ

 CUVはふらつきつつ、走行抵抗が一気に上がって速度が急激に落ちた。路肩に寄せて停車する。

 降りてきたドライバーは、憤った様子を見せている。

「お前ら! ま、魔法少女がこんな事していいのかよ!」

「あ゙ぁ!?」

 どちらかと言うとオタクにありそうな外見の男性ドライバーに対して、トップスピードは()()の効いた唸るような声を出す。

「お前が何をしてたのか、後ろ走ってたクルマのドラレコ見たら一発で解るだろ。それとも何やってこんな状況になったのか、その上で誤魔化せるか?」

 少し離れたところで、パトカーのサイレンが聞こえてきた。被害者が呼んだのだろう。

 トップスピードの「ドラレコ」の下りは一種のカマかけだったが、今は2台に1台は装着している時代だ。

 ドライバーの男性はがっくり、とその場でうなだれた。

 

 

 クラムベリーとの再戦の後 ────

 小雪、スノーホワイトとともに、ラ・ピュセルも、トップスピードとリップルの2人と行動をともにしていた。

 トップスピードは、とっつきやすく面倒見のいい性格だったから、

「他の魔法少女もグループ作ってるからねー。信用していい相手が増えるって事はいい事さ」

 と、そう言って受け容れてくれたのだが。

 問題はリップルの方だった。スノーホワイトとの行動は、口では否定的に言いつつも受け容れていたリップルだが、ラ・ピュセルに対しては、

「コイツは信用できない。ウソをつくとか、そう言う意味じゃない。むしろ逆に、コイツは()()()()()()()()()信用できない」

 と、こう言って拒絶していた。

 リーダー格としてトップスピードが仲を取り持っているからリップルは渋々従っている、そう言う関係が現状だった。

「今日はここまで、お疲れさんって感じだな」

 駅前通りの雑居ビルの屋上。まだ都市は完全には休んではいないが、それでも人目の届きにくいところで、活動後に一息入れたところだった。

 

【挿絵表示】

 

「そう言えば自動車事故だって聞いてたけど、もう大丈夫なのか?」

 トップスピードが聞いてくる。

「あ、はい、今はすっかり元通りです」

 ラ・ピュセルは苦笑交じりに答えた。流石に、小雪以外の魔法少女に、変身が解除できない事は言えない。

「スノーホワイトもそうだけど、お前さんも根を詰めるタイプに見えるからね、自分が潰れないようにしなよ」

「ははは……気をつけます」

 軽く苦笑で返事をしたつもりのラ・ピュセルだったが、トップスピードはその顔を一瞬、凝視した。ほんの一瞬のことだったが。

「それで、この後なんですが」

 ラ・ピュセルの方から切り出した。

「ボク、ちょっとリップルさんと2人きりで話がしたいんですけど……」

「えっ?」

 驚いたような表情を見せたのは、スノーホワイトだった。

 リップルも一瞬だけ意外そうな表情をラ・ピュセルに向けたが、すぐに不快そうな表情で視線を斜め下に逸らした。

「オレ達に内緒にしたい内容かい?」

 トップスピードは、口元だけで笑いながら、そう訊き返す。

「はい、できれば」

 ラ・ピュセルは、先程の談笑の様子を完全に消して、真剣な表情で言った。

「ふぅん……」

 トップスピードは短く言った後、箒を持ち直し、跨る前の仕種に入る。

「じゃあスノーホワイト、オレが近くまで送ってやるよ」

「えっ」

 スノーホワイトは、トップスピードの言葉に、戸惑いの声を出し、彼女とラ・ピュセルの顔を交互に見る。

「いいからさ、今日のところは野暮抜きってことで」

「えと、あの、あの……」

 まだ戸惑うスノーホワイトを、トップスピードは、その手を掴んで近くに来させ、箒の後ろに乗るように促す。

「ごめん、スノーホワイト。でもどうしても話したい事があるんだ」

「う、うん、よくわからないけど、無茶しないでね! リップルも……」

 スノーホワイトが後ろ髪引かれるような様子で、そう告げる。彼女には、リップルがラ・ピュセルの事を迷惑に思っている声が聞こえていた。

 トップスピードはスノーホワイトを箒の後ろに乗せて、その場から去っていく。

 

【挿絵表示】

 

「…………何のつもり」

 リップルは、ジロリ、と、不快感を隠さずにラ・ピュセルを睨みながら、低い声で問いかける。

「その……いや、はっきり言いますね。ボクを鍛えて欲しいんです」

「は?」

 ラ・ピュセルの言葉に、流石に意外すぎて、リップルの表情が一瞬固まる。

「トップスピードさんにも聞きましたけど、リップルさんは魔法少女の中で、一番素早い動きができるんですよね?」

 ラ・ピュセルは真摯な表情で言うが、リップルは表情をさらに歪めるばかりだった。

「敬語なんか使うな、気持ち悪い」

「そうです……そうか、じゃあ、普通に話すけど」

 リップルが不快そうに言ったのを聞いて、ラ・ピュセルも言葉を崩す。

「リップルの速度に追いつけないまでも、対処できるようにしたい、なりたいんだ」

「断る」

 ラ・ピュセルが懇願するように言うが、リップルは即座にそっけなく拒否した。

「お前にそんな事をしてやる義理がない。そもそも、お前はスノーホワイトのついでに付き合ってるようなもの。トップスピードが受け容れていなければ一緒にもいたくない」

「それは……解ってる。でも、そんな事言ってる余裕がないんだ」

 すると、リップルは、表情はますます不快そうにするものの、

「チッ……誰を相手にする気だ」

 と、舌打ち混じりに、問い返した。

「…………」

「黙るな。答えろ」

 ラ・ピュセルが一瞬逡巡すると、リップルは苛立った様子で答えを急く。

「まだ、決めてるわけじゃない」

「嘘つけ」

 ラ・ピュセルの答えに、リップルは即座にそれを否定した。

「…………名前はまだ言えない。でも、ボクを殺したいと思ってるやつがいる。スノーホワイトやトップスピードに知られたくないのは、知れば自分達から動きそうだったから。それに……────」

 そこまで言って、僅かに言い澱む。視線が険しくなる。

「ボクも、そいつを殺したいと思ってる」

「!」

 リップルの目が、一瞬鋭く細まる。

『アイツ、前とは少し違ってるよ。眼の中に(かげ)がある。それが悪いこととは、限らないけどな』

 ラ・ピュセルが合流した初日、その事に不満をもっていたリップルに対して、解散して2人きりになった時にトップスピードがそう告げていた。

 ただ、その反応も、時間にしてみれば一瞬のこと。

 リップルは、すっ、と小さく息を吸い込んだ後、突き放すように告げる。

「それでも断る。トップスピードとスノーホワイトは私が守る。お前は自分でなんとかしろ」

「そう、……か…………」

 





アンケートの件
 まだ誰とは言えないんですけど、そんな事を考えてます。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。

ラ・ピュセル以外に追加で助かる魔法少女がいてもいい?

  • いいと思う
  • よくないと思う
  • むしろ助けろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。