もしもコーイチくんがデクくん達の1個上だったらっていうifにTUEE要素混ぜたかったやつです。
悪夢って、結構外部的な要因が大きいよね?
寝相が悪くてうつ伏せになっていると息苦しい夢を見るし、高熱でうなされていると意味のわからない夢を見る。
ならこれはきっと、ヒーローになりたくて目指した高校に落ちた、そのストレスが見せた悪夢なんだろう。
夢を見ているって自覚はあるのに目を覚ますことはできなくて、映像だけが車窓から見る景色のようにぐんぐん、どんどん進んでいく。
◆
夜だ。
……多分、夜だと思う。
そうとしか思えない暗さのくせに、やけに色んな物が見える。
割れた看板のかけら、湿ったアスファルト、視界の端に映るヒーロースーツを着た手足。
それから、前にいる男。
砂煙の中を逃げる、大柄な男だ。
男が手を向けるたび、その先に破壊が撒き散らされる。
そいつを空から追っかける。
流れる街灯を横目に、狙いをつけさせないようにジグザグと曲がってフェイントをかける。
時折だけど、牽制の攻撃もする。
手から出る衝撃波だ。
……う〜ん、ちょっと夢の中の俺、強すぎない?
相手も当然、応戦してくる。
何かを飛ばしてくるというより、どうやら何かをどこかに吹っ飛ばしてるみたいだ。
えぐれてとてもじゃないけど原型がわからない遊具、削れて自重を支えきれなくなって倒れる家屋、ついでに消される俺の弾。
……いや、待って。相手まで強いのは聞いてないよ!?
あいつの手の先の射線上にならないように動き回る。
避けながらも、撃たれた先が気になってしまって時折振り返ってしまう。
視界の端には、ふっとばされた先のどこか風景が、一瞬だけ映る。
やけに高い木々の中、人気のいないテニスコート、殴り合いをするコートの大男、ビル群を駆け抜ける影、廃墟、廃墟、廃墟、誰かの寝室、爆発する塔、片腕で異形に立ち向かう緑髪の少年――
情報量が多すぎて、段々と頭が痛くなってくる。
戦闘はやたら派手になっていく。
避けているはずなのに、夢の中の俺は余波で少しずつ削れていく。
鋭くなっていく痛み。
そんな悪夢も、後からやってきたまさしくアメリカンなヒーローがあいつを捉えたときにようやく目覚めることができた。
◆
「……っ、は!?」
飛び起きた。
自室。見慣れた天井。安いカーテン。昨日畳んだはずのジャージが椅子の背にかかってる。
違和感があって額をぬぐう。汗でべたついていた。
時計は朝の六時十二分。
二度寝するには怖いけど、起きるには若干だるい時間帯だ。
けど、体は妙に軽かった。なんとなく、試してみたくなる。
ベッドから降りて、両手足を床につけた。
こから個性の"滑走で”少しだけ動いて止まる。
――ぴたり。
「え」
吸いつくように、足が止まった。
いつもなら減速してから個性を解除して止める。そんな動作が必要だったのに自然にその場に止まることができた。
今日のこれは、なんというか。
「……ノリがいい」
個性ってそんな楽器みたいな言い方するものかはさておき、今の率直な感想はそれだった。
頭の中にはまだ、夢の中の光景と体感が残っている。
そんな訳がないのに、動けるという確信だけがただ頭のどこかにあった。
嬉しくてつい何度も試してしまう。
動く、止まる。動く、止まる。動く、止まる。小指をぶつける。動く、止まる。
「……何なんだ、これ」
答えはない。
でも、妙に嫌な感じはしなかった。
「……ま、いっか」
遊んでいたらいつの間にか七時を過ぎている。
遅刻したら母さんに怒られる。
夢の謎より朝飯だ。
俺は顔を洗いに立ち上がった。
その足取りは、昨日までより少しだけ軽かった。
◆
一人で歩いてるとつい色々考えちゃうよね。
だから登校中、今の自分を振り返った。
去年の今頃、進路希望を出していた。
ヒーローを目指してた俺は当然雄英を選んだ。
というより、雄英を合格でもしないと母さんが認めてくれそうにないからだ。
結果的に雄英には、落ちた。
しかも、わりと綺麗に落ちた。
「まあ挑戦は尊いよね」みたいな顔を先生にされたくらいには、綺麗に落ちた。
記念受験?自分ではそんなつもり、なかったんだけどな……。
でも、事実なので仕方ない。
自分への言い訳とか、何すればよかったとか考えながら今日も今日とて地元の普通の高校へと向かっていく。
「おはよ、コーイチくん」
「あ、おはようございます」
商店街の八百屋のおばちゃんに挨拶を返しながらてくてくと歩いて行く。
本当ならちょっと滑ってショートカットしたい。
したいが、朝の人通りでそんなことをしたらただの危ない奴だ。
人気の少ない帰り道でしたところで安全な訳じゃないって?それはそうだ。
だから俺は危ない奴かもしれないが、できれば善良寄りの危ない奴でいたい。
学校に着いて、授業を受けて、昼休みに購買の焼きそばパンを争奪戦の末に確保して、放課後を待ち望む。
なんでもない一日だ。
なんでもない、はずなんだけど……。
未だに夢を引きずっている。
個性の調子が相変わらず良いせいだ。
普通に歩いているだけでも、両足だけで滑ったり止まれる予感がある。
一つ一つの動作に、いつでも個性を使って滑れるように無意識に準備ができている。
なんだか、身体の重心が前よりずっとわかってる気がする。
いいことではある。
いいことなんだけど、余計に理想と現状のギャップに悩まされる。
だいたいの男の子は、小さい頃にヒーローに憧れて目指すものだよね?
俺もそう。そうだっただけのこと。だけどまだ、切り替えられない。
◆
帰り道、駅前を抜ける。
人混みの中、誰かの独り言が妙に耳に入ってきた。
「デビューしたてのMt.レディ――確かに大きくなるだけの個性だけど攻撃力、防御力は今のトップヒーローの中でもオールマイトを除けば上位に食い込めるだけの――特にヴィラン目線大きくなった彼女を無視できないことが被害の拡大の食い止めに――」
緑色の髪。そばかす。でかい目。ノート。
声量だけちょっと行方不明。
思わず足が止まる。
いや、知り合いじゃない。見たこともない。たぶん初対面だ。
なのに、胸の奥がやけにざわついた。
夢の中の映像と僅かに重なる。断片が、ふっと頭をかすめる。
「デジャヴってほんとにあるんだな……」
少年は俺に気づかないまま、ぶつぶつ言いながらノートに何か書き込んでいる。
ヒーローオタクだな、と思った。
かなり本気のやつだ。
記憶には掠るけど別に声をかける理由もない。
ないんだけど、その時だった。
「きゃっ!」
通りの向こうから短い悲鳴が上がる。
見れば、買い物袋を提げた女性が尻もちをついていた。その前を、フードを被った男がバッグを抱えて走り去っていく。ひったくりだ。
しかも、逃げる方向は小学生の下校路。
毎日暇を持て余して放課後すぐ帰る俺にはわかる。
そろそろいつもの子達が返ってくる時間だった。
ヒーローは居ない。今は、俺しか居ない。
そう思った瞬間には、体が動いていた。
鞄を道路脇に放る。パーカーを深く被る。
そして両手を地面につける。一気に加速。
今日ならできる、はずだ。
「ちょ、えっ?」
横で間の抜けた声がした。さっきの緑髪の少年だ。
驚くのはわかる。俺もたまに自分で驚く。
「すみませーん、通りまーす!」
人をかき分けながら、最小限の曲がりでひったくりを追いかける。
斜め後ろにつくと、逃げる男の舌打ちが聞こえた。
「んだよ、ガキ!」
「そのガキに追いつかれるの、ちょっと情けなくないですか」
「うるせえ!」
男は走りながら顔だけこちらを向けて位置を確認すると、鞄を持っていない手を向けてきた。
個性持ちだ。
手のひらから、粘つく糸みたいなのが飛ぶ。瞬間接着剤みたいが俺の進路の先にへばりついて、ひっかけようとしてきたみたいだ。
「うおっ」
あぶない、あぶない。
右手だけ減速。そこを軸にターンして進路を変え、設置物をかわす。
そのまま個性を出すために減速した相手の横につく。
本当に今日はノリがいい。びっくりするくらい体が勝手に最適解を選ぶ。
「何だお前!?」
「さあ……。いや、ただの通りすがりさ!」
ふっ、決まった。
ぐんと重心を倒す。
一瞬だけいままでより加速。
低く潜って、男の脇を抜ける――と見せかけて、くるりと回る。
急な移動に相手の意識がこちらに向いた瞬間、バッグの取っ手を掴んで地面に吸い付いて急停止した。
「うお!?」
「これは返してもらいます!」
ぶちっと音がして、バッグだけが俺の手に残る。
男がバランスを崩して転びかけた。
「くそっ!」
男は一瞬だけ俺を睨み、それから個性の糸をばらまきながらの逃走を選んだ。
助かった。追えなくはないけど、捕縛なんて危ないしあとから色々聞かれちゃうからね。
今の優先はこっちだ。
「大丈夫ですかー!」
バッグを抱えて女性の方へ戻る。
膝をついていた女性は、ぽかんと目を丸くしていた。
「え、えっと……あの、今の……」
「鞄、これで大丈夫ですか?」
取ってがちぎれてしまった鞄を見せる。中身は無事なはずだ。
「あっ、はい!そう、それです!ありがとうございます……!」
よかった。
買い物袋を持ち上げて、女性が立ち上がる助けをする。
卵は、ギリ無事。えらい。
「お怪我は?」
「だ、大丈夫です。少し擦っただけで……。あなた、ヒーローさん?」
「いや、通りすがりです」
「え?」
パーカーを深く被り直す。口元だけ見えるように笑みを作る。
「いや、ただの通りすがりです。」
これは決まってるに違いない。
◆
そうこうしていると、周りには野次馬も集まり始めてきた。
これは長居しない方がいい流れだ。こういう時の後始末は、警察とかのちゃんと資格を持った人たちに任せるべきだろう。
「それじゃあ、気を付けてください!」
放った自分の鞄を拾って建物の間の小道に逃げる。
衣服の乱れを直してそのまま帰ろうとした時、後ろからおずおずと声が入る。
「あ、あの……」
さっきの緑髪の少年だった。
近くで見ると中学生くらいか。ノートを抱えて、緊張したみたいに背筋を伸ばしている。
「その、さっきの、すごかったです」
「どうも」
当然だけど公の場で個性を無許可に使うのはよくないことだ。
緊急事態なら目を瞑るみたな風潮はあるけど、それでも。
見ていてくれたのは嬉しいけど、さっと居なくなるのが流儀なのもある。かっこいいからね。
だからちょっと苦笑い。
「個性の使い方が、すごく合理的で、その、あの糸状の個性に対しての斜め切りかえしが同時に取り返す布石になるのが――」
「すごい分析するね、君」
「はっ、すみません!」
急に謝られた。
「それで、その、あなたって、ヒーロー志望なんですか」
その質問は、ちょっとだけ真ん中に来た。
「……まあ、どうだろ」
正直に言えば、諦めきれてはいない。
でも、胸を張って“そうだ”と言えるほどじゃない。
何より今は、普通の高校生だから。
「雄英、落ちたんだよね」
「えっ」
少年の顔が、わかりやすく固まる。
何だその反応。言ったこっちがちょっと傷つくぞ。
「いや、そんな“あっ”みたいな顔されると結構くるな……」
「ち、違うんです!そういう意味じゃなくて!」
「わかってる、冗談冗談」
本当に半分冗談だ。まだ引きずってるからね。
少年は慌てたあと、少しだけうつむいた。
握ったノートの端がすこし歪む。
ああ、と思う。
たぶん、この子もそっち側なんだ。
一年前の俺と同じ。
ヒーローを見上げる側。
届くかどうかわからない場所を、でも見ずにはいられない側。
「……君、ヒーロー好きなんだね」
「え?」
「ノートのタイトル。あと、たぶん相当書き込んでるでしょ」
図星だったらしい。
少年はぎくりとしてから、観念したように小さく頷いた。
「……好き、です。すごく。」
「そっか」
そこで会話は終わってもよかった。
よかったんだけど、妙に放っておけなかった。
なんとなく自分に重なったのかもしれない。
「さっき」
「は、はい」
「助けに入ろうとしてた?」
少年の肩が跳ねた。
「……え」
「見てたでしょ。逃げた男の先」
「あ……」
「で、足が出てた」
見間違いじゃない。
あの瞬間、この子は固まってた。でも完全には止まってなかった。止まる一歩手前で、踏み出す方にも体重が乗っていた。
できるかどうかは別として。
やるか、やらないかで言えば。
「……たぶん、やろうとはしたんだろ」
正解を待つみたいな顔じゃなかった。
むしろ逆だ。間違いを言い当てられるのを待ってる顔だった。
「僕じゃ無理でした」
絞り出すような声。
「そうかも」
軽く切り出す。
少年が顔を上げる。
たぶん、慰められると思ってたんだろう。
そこはまあ、悪い。
俺、あんまり器用じゃないので。
少年は息を止めたみたいに固まっていた。
風が吹く。
商店街の旗がぱたぱた鳴る。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「でも君は、咄嗟に動こうとした」
言葉を選ぶ。
俺が何かを決めてやる話じゃない。たぶんこれは、そういう場面じゃない。
「たしかに踏み込んで、うまくいくとは限らないよ。むしろ面倒なことの方が多いし」
「……」
「怪我もするし、怒られるし、空回りもする」
だいぶ経験済みでだ。
「でもさ」
少年の目を見る。言葉を待っているその目を。
変に真っ直ぐで、見ててちょっとむずがゆい。
「踏み込まなきゃ、助からない時もある」
それだけ言って、俺は肩をすくめた。
「今日の俺は、そっちだったってだけ」
我ながら、あんまり上手いことは言えてない。
もっとこう、人生の先輩っぽい名言とかあったんじゃないか。知らないけど。
けど、少年はぽかんとしたあと、少しだけ目を見開いた。
何かが、届いた顔だった。
「あの!」
「ん?」
「お名前、聞いても――」
「ただの通りすがりさ」
ちょっとだけポーズ。今度も決まったかな?
「えぇ……」
露骨に困った顔をされた。
……。
「じゃ、俺行くから」
「あ、はい!」
「さっきの女性、怪我してたかもしれないからそれだけちょっと見ててあげて。」
「え、僕が?」
「踏み込むつもりなら、今は次の一歩だろ」
少年は一瞬だけきょとんとして、それから強く頷いた。
「……はい!」
いい返事だった。
俺は手をひらひら振って、その場を離れる。
裏通りへ入って、今度こそ誰にも見られてないのを確認してから、壁を蹴って屋根へ上がる。
夕方の空は少し赤い。
「……次の一歩、ね」
口に出してから、何となく自分に返ってきた気がした。
雄英に落ちた。
正式なヒーローには、なれてない。
勝手に人助けして、たまに感謝されて、たまに怒られて、それで終わり。
――それで、いいのか?
さっきのことを振り返る。
逃げ出す男、感謝の声、そして問われる自分。
屋上の縁に腰をかけて、息を吐く。
少し前の俺なら、この問いから目を逸らしていたかもしれない。
“今のままでも悪くない”って顔で、のらりくらりとやっていたかもしれない。
でも、今日の俺は。
「かっこつけちゃったもんな」
ぽつりとこぼして、自分で苦笑した。
下の通りでは、さっきの緑髪の少年が、転んだ女性にぎこちなく声をかけていた。
慣れてないなりに、一生懸命だった。
男の子はヒーローに憧れる。
それだけじゃない、意地だってあるんだ。
俺はあの子に踏み込めと言った。
じゃあ俺は?
やることはあるはずだ。
今度は胸を張って、やれるように。
立ち上がる。
風が背中を押した。
そのまま俺は、夕暮れの街へ滑り出した。
オリジンでもライジングでもないけど、コーイチくんがちょっとだけ1-A組各々が頑張る理由になってほしかったので誰かもっと書いてください。