墓地。
葬儀は既に終了し、英雄の死を悼もうと押し寄せた人々も皆街へと帰っていった。
そんな中、影が伸びたナジェンダ将軍の墓石の前に一つの人影があった。
「6年か……」
砂漠用かと思われる、全身を覆ったマントから右手を伸ばし墓石を撫でる。その腕には線を引いたような痣が走り、その瞳の色は赤かった。
「よく頑張ったな、ナジェンダ」
その人物の名はアカメ。帝国時代の末期、人々を恐怖に陥れた暗殺者集団『ナイトレイド』の一員にして、知る人ぞ知る革命の立役者である。
「よう、アカメ。やっぱり来たな」
「ウェイブか」
一人の青年が後ろからアカメに声をかけた。
軍服を来た彼の名はウェイブ。政府軍のれっきとした軍人である。
「葬儀は……」
「遠目に見ていた。一応、追われる身だからな」
「……そうか」
ウェイブは沈黙を重く感じた。
革命を成功に導いた鍵──帝国の主要な人物の暗殺という汚れ仕事を担った『ナイトレイド』、 ひいてはその生き残りであるアカメを、革命の英雄ではなく、ただの人殺しとして扱っている現状 と、それを許している自分が嫌になる。
「そんな顔をするな。私がこれでいいと言った」
「でもよォ……」
「いいんだ。私は、……私たちは殺し屋、人殺しだ。正義なんてどこにもない。それでも、多くの人々の幸せな明日のためにと、そんな目的のために戦えて、それだけで十分なんだ。後悔はしていない。きっと、みんなも……」
アカメは視線を脇にずらした。
名前の刻まれていない墓石が並んでいる。
シェーレ、ブラート、チェルシー、ラバック、スサノオ、マイン、レオーネ、そして、タツミ。
かつてナイトレイドとしてアカメとともに戦った彼らは、名前を刻むことこそ許されないが、こうして都を臨むことのできる場所で眠っていた。
「ところで、さっきクロメの墓を見てきた」
「………」
「綺麗に手入れされていた。石に汚れはないし、草も伸びてない。供え物は野良猫に食われていたが……」
「あの野郎、またか……」
「とにかく。大事にしてくれてるんだな、ありがとう。妹もきっと喜んでる」
「………あぁ」
ウェイブはしみじみと頷いた。
「最近の都の様子はどうだ?」
「まあまあ、かな? 6年前より豊かになる奴は増えたけど、やっぱり治安の方はまだまだだ。でも、心配いらねえよ。ちょっとずつ良くなってるし、もしもの時は俺たちが頑張るからよ」
「そうか。なら安心だな」
「こっちのことはともかく、あんたこそ、どうなんだ? この6年、さっぱり噂も聞いてねえぞ?」
「いつもは手配書の回っていない辺境にいるんだ。そこで小さな集落を渡り歩いている」
「一人で、か?」
「ああ……」
「……」
「……そろそろ、私は行くよ」
「な、なあ。今日くらいは都に泊まったらどうだ? 手配書が貼ってあるから普通の宿はダメかも知んねえけど、俺の知り合いがやってる……」
「ありがとう、ウェイブ。でも、いいんだ」
アカメはウェイブの言葉を遮った。
「私の存在は争いの火種になりかねない。実際、何度か襲撃を受けた」
「!」
「覚悟はしていたことだ。ウェイブが気にすることじゃない」
「で、でも……」
「それに、ただ逃げていればいい私より、国を立て直すウェイブたちの方が大変だ」
踵を返し、アカメはウェイブに歩み寄った。
「頑張れよ」
ウェイブに右手を差し出した。
「……。そっちこそな」
力強くアカメの手を握り返す。
「クロメとみんなのことは頼んだ」
「任せとけって、お姉ちゃん」
お互いに笑みを見せ合ったのち、アカメは墓地を後にした。
「ウェイブくん」
今度は、アカメを見送ったウェイブに声がかけられた。
「ラン……」
「『俺たちが頑張るからよ』ですか」
「聞いてたのかよ」
「偶然ですよ。葬儀を取り仕切ったのは私ですから、終わった後もやることがあったのでまだいたのですよ。因みに、その『俺たち』というのは……」
「当然、ランも入ってるぜ」
「ハァ。でしょうね。まったく、あなたという人は……」
「いいんだよ。色々あるけど、今起こってることは俺たちの役目だろ? もう、アカメにも、もちろん他のみんなにも、頼るわけにはいかねえ」
「ですね。さて、それではすぐに戻って、もう一仕事していただきましょうか」
「えぇ! おい、もうそろそろ日も暮れちまうぞ」
「何を言っているんです? まだまだやらなければならないことは山積しているんですよ。これでも6年前のように毎日徹夜なんて事態にはなっていないだけマシです。それに、ナジェンダ将軍亡き今、軍の皆さんにはより一層の……」
「うぅ……。頑張ります……」
「ナジェンダ将軍が死んだか」
「帝具の使用による消耗で明日も知れぬ命と言いながら」
「これほど長らえるとは」
「いやはや流石と言う他ありませんなあ」
「しかし彼女亡き今」
「我々は今までにも増して大きく動くことができる」
フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…………。
この国の闇は、まだまだ晴れることを知らない。