「怖いよ~」
「黙れ、ガキども!」
「ひいっ………」
こちらは『本命』の馬車。さらわれすし詰めにされた子供たちと、犯人の一人は荷台に、女教師を刺殺した男は御者として前に、それぞれ乗っていた。
「僕たちどうなるんだろう?」
「売られちゃうのかな」
「きっと助けがくるよ」
「でも間に合わないかも」
「先生どうなったのかな」
「うぇ~ん……」
「泣いちゃダメだよ」
「ったく! うるせえガキどもだな」
黙らせようとして大きくなるばかりの子供たちの声に、見張りの男は苛立っていた。
「いっそ、適当に何人かばらしちまうか?」
「やめろ、バカ!」
御者の男がたしなめる。
「冗談だよ、冗談。………、ん? なんだ、ありゃ?」
「どうした? 追っ手か?」
「かもな」
「クソ。足止めの連中は何をやってたんだ?」
「そう言ってやるなよ。ちょっと砂埃が見えるだけだし、まだまだ遠い……、ッ!」
「どうした? うぉっ!」
青色の塊がとんでもない勢いで馬車を追い抜き、前を塞いだ。慌てて馬を止めて下りてくる男たち。
砂埃が晴れると、道に立っていたのは一人の若い軍人だった。
「お前らが誘拐犯か」
「だとしたら?」
「大人しくするなら捕まえる。さもなきゃ、」
ウェイブは剣を抜いた。
「ここでたたき斬る!」
「若造が粋がってんじゃねえよ!」
見張りの男が剣を抜いた。
「おい待て!」
「たたき斬るのはこっちだよ!」
腕に自信があったのか、仲間の制止を無視してウェイブに飛びかかる。
真上から体重を乗せて放った一撃をウェイブはいなして後方に流す。男は着地と同時に反転して、再び突っ込む。火花を散らして二本の剣が交錯した。
「結構やるな……。使うか……」
ウェイブは呟くと、剣を払って、足で相手を間合いの外へ蹴り出した。しかし、すぐさま敵は迫る。
「グランシャリオ!!!」
轟っ! っと衝撃波が生じて、男は吹き飛ばされた。そこに鎧に身を包んだウェイブが迫る。
「ハァ!」
「グハッ!」
男は地面に強かと身体を打ちつけ倒れた。
「帝具使い……」
御者の男が息を呑んだ。
「そっちはどうする?」
「やめとくよ。死にたかねえ……」
男は両手を頭の上に上げた。
そして、
「なんちゃって!」
袖口から取り出したナイフをウェイブに投げつけた。
「舐めんなよ!」
軽々とナイフを回避したウェイブは男との間合いを一瞬で詰めて攻撃を放つが、辛くも男はそれをかわした。
「危ない危ない」
「野郎ォ!」
「よっと!」
男は、2度、3度、と続けざまにウェイブの攻撃をかわし続ける。
その後も何度も放つが一向に男を捉えられない。
「冗談だろ……」
「ふぅ。流石は、元『イェガーズ』。先が読めててもかわすのはギリギリだ」
「お前何で……。まさかッ!」
「正解。そのまさかだよ」
男はフードを外して頭部をさらした。額に緑色の目のようなものが付けられていた。
「『五視万能スペクテッド』。これであんたの考えてることは手に取るようにわかるって訳だ。ウェイブ『隊長』。若いのに大したもんだねえ」
(なんでこんな賊が帝具を持ってる?)
ウェイブの疑問は口には出なかったが、相手には筒抜けだった。
「おいおい『こんな賊』とは失礼だな。俺は元軍人なんだぜ?」
「なんだと!」
「まあ、俺のことは今は置いとくとして、まずはあんたのことをもっと教えてくれよ。恋人とかさあ」
「あぁ!?」
「おっと、怖いなぁ。でも今、確かに一人頭に浮かんだね。『クロメちゃん』? 恋人って関係まではいってないみたいだけど。おぉ、でも可哀想に。死んじゃったの……」
「テメェ! それ以上、ごちゃごちゃぬかしやがったらホントに許さねえぞ!!!」
ウェイブの怒りの一撃もかわされ、一面に砂埃が立ちこめる。
「ハァ、ハァ、ハァ………」
気を落ち着けるためか、肩で息をするウェイブ。その時、砂埃の中に人影が浮かび上がった。
「そこか!」
『どうしたの、ウェイブ?』
「ッ!」
ウェイブの拳が影の主に当たる直前で止まった。風圧で砂埃が晴れる。
目の前にいたのは一人の少女だった。黒い髪と黒い瞳にセーラー服。どこか陰の差している笑み。
「クロメ……?」
『そうだよ、ウェイブ』
「嘘だ……、だって、だって、お前は……」
『そんな怖い顔してどうしたの? 私に会えて嬉しくないの?』
クロメはゆっくりとウェイブに歩み寄る。
反対にウェイブはたどたどしい足取りで後退する。
「よせ……、やめろ……」
『逃げることないんだよ』
クロメはウェイブに追い付くと、身体に手を回してウェイブを抱き締めた。
「ッ! クロメ………」
『そうだよ、私だよ。クロメだよ。会えて嬉しいよ、ウェイブ』
「そんな、なんで、お前は……、だって……」
その時、
「グランシャリオを解くなよ、ウェイブ!」
「!」
聞き覚えのある声とともに、クロメに剣が振り下ろされた。ウェイブから離れてかわしたクロメは、瞬きするほどの間に、誘拐犯の男の姿になった。
「誰だ?」
男が突然現れた人物に誰何する。
「お前……」
だが、ウェイブにとっては知っている人物だった。
茶色の髪に緑色の目。少し背丈は伸びているが、それはウェイブも変わらない。
「まぁ、誰でも構わない。『スペクテッド』!」
男が再び帝具を展開した。
「どうだ? 誰になったかは知らんが、お前の最愛の相手だぞ。斬れるものなら……、ッ!」
一切の逡巡もなく振り下ろされた刃が男の頭を割った。
「それを見るのは2度目なんだ。悪いな」
そして、ウェイブに向き直って言った。
「久しぶりだな、ウェイブ」
「タツミ!?」