「報告……、」
天窓から淡い光を、純白に塗られた壁が反射する。
舞踏会を開けるほどの広さのその部屋に、巨大な円卓が一つ。そして、それを囲む24席の椅子には、一つの空席を除いて、23人の男たちが腰掛けている。
唯一の出入り口である、上端を見上げれば首が痛くなりそうな扉の反対側には、壁をくり抜いたような構造があり、そこには何の像もないにも関わらず、銅像用の台座が鎮座し、その奥の壁にはチェス盤をモチーフに描かれたチェック柄が鮮やかな、この国の新しい旗が堂々と掲げられている。
ここは王宮の跡地に建てられた、新政府の議会堂の一室。
通称『円卓の間』。
新国家の首長である最高議長以下、各部門のトップ級が顔をそろえていた。
「……を聴くまでもない、な……」
新政府議会最高議長にして、元革命軍司令官・レニンは苦々しげに呟いた。
彼だけではない。首脳23人が一様に暗鬱としたオーラを醸し出している。
彼らの視線の先にあるのは、11対の“耳”。
「連中を補足。情報漏れを警戒し、精鋭を一個部隊のみ投入。想定を越えた敵の戦闘力により返り討ち。結果、全滅。……、訂正したいことはあるか、クロード?」
「何も……」
クロードと呼ばれた内政官は、膝をついた姿勢を崩すことなく、端的に応答した。
「すべて、自分の責任であります、閣下」
「そうか。処分は追って申し渡す。下がれ」
「はっ!」
反転し、円卓に背を向けながら、扉から出て行った。
「さて、どうしたものか……」
レニンの呟きに首脳たちの反応は早かった。
「軍としては損失が損失だけに、軽い処分にしてもらっちゃ困るんだがなぁ」
政府軍司令官・モウ将軍は円卓に肘をついた上の拳にこめかみを乗せながらレニンの方を見る。
ナジェンダの死により、副司令から格上げになった男である。顔を縦断する刀傷と、両サイドを短く刈り込んだヘアスタイルが、肩書き以上に、彼を武人として印象づけていた。
「いやはや、こちらとしましては優秀な若者というのは得難いものですからしてですね……。えぇ……、今回の件も愛国心ゆえのことですありますからして……」
内政長官・ホーは、眼鏡と平和な笑みを顔に貼り付けながら、歯切れ悪く部下を弁護する。
当然ながら革命軍上がりの人間がほとんどを占めるこの場において、ホーは僅かな例外の一人だった。元々、帝国の高官であった彼だが、当時としては比較的良心的な政務活動、軍人や低層階級で構成された革命軍の人材不足、何よりもその手腕、などの理由からこの地位に就くに至っている。
とはいえ、彼が評価されたのは机の上での仕事であり、軍人相手の交渉においてはお世辞にも有用とは言えなかった。
「内政官が命令書も通さずに、精鋭部隊を動かしたんだ。その上、結果は見ての通りときた。これでお咎めなしなんてのはなぁ」
「えぇ、しかし……」
「違う!」
モウとホーの会話をレニンは断ち切った。
「俺が気にしているのは、そんな些事でなく、『連中』のことだ!」
場の空気が変わる。
「ホワイトファング……」
「もう、ただの犯罪組織として対処できる範疇を越えている。このままでは、それこそ6年前までの我々と同じような存在になりかねん!」
「えぇ……、それにつきましては、閣下、こちらから先日ご報告いたしましたように……」
「それの信用度はどうなんです、閣下?」
言ったのはモウ将軍だ。
「『元帝国高官たちからの資金援助と、新政府中枢までの諜報ネットワーク』なんて書いてありましたけど、過剰じゃありませんかぁ? それに、言いたくはありませんが、スパイがいるってんなら、一番怪しい奴がいるじゃ、ありませんか?」
視線がホーに集中する。
「よせ。こいつは違う」
レニンが割って入った。
「その話は散々してきただろうが。そして、ホーには共に働いてもらうと結論づけた。俺も、ナジェンダも、だ」
「しかし、閣下……」
「くどい。それともなにか、モウ……」
食い下がるモウに、レニンは、
「お前は俺が信用できないのか?」
「……いえ」
千年続いた帝国を終焉に導いた元将軍の気迫に、モウは冷や汗を流した。
「話を戻そう。ホーが最も信頼する部下の報告として上げてきた話だ。今後は『ホワイトファング』を新国家の最大敵対勢力として、これに対処していく。異存のある者はこの場で名乗り出ろ!」
「「「…………」」」
「だったら、今回の『円卓』はこれまでとする」
ぞろぞろと席を立つ高官たち。
「あぁ、そうだ。なぁ、モウ……」
「何です?」
レニンがモウを呼び止めた。
「今回やられたのは、誰の部隊だった?」
「ポッツっていう若い奴です。帰ったその足で、辞表出しちまいましたよ。部下は皆殺しで、その耳だけ持たされて自分だけ帰されちゃあ、ね……」
「そうか……」
「優秀な奴でしたよ。今回は相手が悪かった。あんなこと言いましたが、自分だって『ホワイトファング』を叩き潰すってのには、大賛成なんですよ、閣下。内政長官が信用ならないってのは変わりませんけどね……」
モウは続けて、
「部下の死の落とし前はきっちりつけさせてやらないと気が収まらない。分かるでしょ、あなたなら……」
「あぁ。心配するな」
レニンはモウの肩にポンと手を置いた。
「それに、やっと新しい国がまともに動き始めたところだ。連中をのさばらせておくほど、俺は甘くねぇよ」
「そりゃ、何よりで」
見つめ合う二人の瞳に獣のような鋭い光が宿った。
「おい、ポッツ!」
軍本部の中から出てきた、大荷物を抱えた私服の人物を、軍服の青年が呼び止めた。
「……ウェイブか。久しぶりだな……」
「……ッ」
振り返ったポッツの目を見て、ウェイブは一瞬別人に声をかけたのかと思った。
(覇気とか生気とか、色んなもんが全部消えてんじゃねえかよ……)
「止めるなよ。部下皆殺しにされておいて、しゃあしゃあと軍に残れるほど、俺は精神的に強くない」
「……、らしくねえじゃねえか。お前は『敵討ちだ』とか言って余計に燃えるタイプだっただろ? 一体、何が……」
「『何があったか』ぁ!?」
ウェイブの言葉を遮って、ポッツが吠えた。
「部下が生きたまま耳を削がれるのを見せられたんだよ! 何度も一緒に死線くぐった仲間が泣き喚いて命乞いするのを見せつけられたんだよ!」
「……ッ」
「そして、俺はそれを黙って見てるしかなかったのさ。何があったか、わかったか、ウェイブ?」
そう言って自分を見つめる瞳が、彼の言葉にならない感情をすべて含んでいることにウェイブは気づいた。
かつて仲間の死を幾度となく経験したウェイブだが、今の相手の心中はその時の自分とは比べられないほど乱れているのだろうと思うと、何も言えなかった。
「わかったなら、止めないでくれ」
ポッツはウェイブに背を向けて歩を進めた。
その時、
「ここにいましたか」
建物内からランが姿を現した。
「どうした?」
振り向いたウェイブにランが一枚の紙を見せながら耳打ちした。
「最高議長と軍司令の連名での命令書です。内容はもちろん……」
「ホワイトファングか!」
「声が大きい! この作戦の存在自体、今知っているのは議長や将軍級・長官級の高官だけです。重ねて、参加部隊も少数精鋭で、かつ自分たちの部隊以外のことは知らされないという徹底ぶりです。私もあなたの部隊のこと以外は知りません」
「決行は?」
「今すぐ出発です。周囲に不審がられない程度に急いで支度を」
「わかった」
命令書を懐中にしまったウェイブは、ランと別れて、部隊のメンバーと合流するべく、その場を後に、
「なあ、ウェイブ」
……、しようとしたところで呼び止められた。
「ポッツ……」
「悪いこと言わねえから、その作戦下りろ。連中絡みなんだろ?」
「……。お前、それは……」
「わかってるよ。無理だよな。でも、それならよぉ……」
ポッツは驚くウェイブに更に続けて言った。
「今の俺の姿をよく覚えておけよ」
そのまま歩き去るポッツを見送ったウェイブだったが、彼の言葉が胸中にしこりのように残っていた。
受験があったのでしばらく投稿できませんでした。ごめんなさい。
革命軍のメンツがアニメだと全然出てないので勝手に作っちゃいました。もし原作で出てきてるなら、別のものだと思ってください。
「主人公は?」とか言わないで。次話でも下手するとでないかも……。