彼等は特定の団体を、示している訳ではありません。
しかし、このような考えを持つ輩がいる事をフィクションとは言えないのが残念です。
「戦争=日本」という思考に陥った老人達がいた。
戦争とは日本が起こす物であり、
日本が戦争を起こさなければ、世界は平和になる。
そんなおかしな思考を本気で信じているの人達だった。
彼等は自ら「反基地建設市民の会」と名乗り、日本の南にある島で建設されている米軍基地の工事を日夜邪魔していた。
工事の資材を運ぶトラックを止める為の違法な道路の封鎖。
侵入禁止エリアへの日常的な不法侵入。
工事関係者の自宅に押し掛け、大きな音を立てて騒ぐ迷惑行為。
時には暴力すら厭わない彼等の「平和維持活動」に皆んな辟易していた。
そんな周りの反応を当の老人達も分かってはいたが、それは周りが無知だから仕方がない。
むしろ自分達だけが劣った彼等の未来を守れると、自らの自己犠牲の精神に恍惚としていた。
彼らにとって沖縄のアメリカ軍の基地は最大の脅威だった。
彼らとて、今の平和ボケした日本人が自ら戦争を起こすとまでは考えていない。
しかし、一度よその国から攻め込まれれば、好戦的な日本人は瞬く間に戦争に舵を取る様になる。
だからよその国から攻め込まれた時、日本人は潔く滅ぼされなければならない。
そうじゃ無いと日本がまた侵略戦争を始めてしまう!
そう信じていた。
だから、アメリカの基地なんか一番ダメだなのだと言う。
流石にアメリカ軍を相手にしながら一気に日本を滅ぼせる国は無いだろう。
世界平和のためにも、日本は一度の他国の侵略で抗うことも出来ずに滅ぶ!
これが最良だ!
日本人の命より平和が大事なのだ!
自分達は未来の子供達のために平和な世界を残さなければならない!
その老人達は本気でそう考えていた。
だから日本を守る米軍の為の基地建設は何としてでも止めなければならない。
老人たちは本気でそう信じていた。
そして、着々と進む工事に焦っていた。
いくら自分達が価値があると平和に悪影響だと教えてやっても、野蛮な日本人達は一向に耳を傾けようとしない。
日本人は救い難い世間知らずだ。
このまま、ただ反対を叫ぶだけでは世論は動かない。
特に最近の若い者は全く関心を持たない。
戦争を知らない平和ボケしたガキどもに戦争の恐ろしさを知らしめなければならない。
どうすればいいか。
自分だって戦争を知らない戦後生まれ、もしくは戦争当時は物心つかない幼児だった彼等には戦争を語る事は出来なかった。
今年90歳になる仲間の中で最年長の者でも戦争に行った事はないのだから当然だ。
以前なら多少年齢をサバ読む事も出来たが、流石に100歳越えを騙るのは難しい。
100歳を超えると市の広報に出てしまうから、後でバレてしまう。
老人は考え、そして思いついた。
女子高生だ。
子供には子供だ!
奴らに同世代の女の子をぶつけるのだ!
必ずや興味を持つだろう。
しかも、女子高生というコンテンツはマスコミが大好きな存在。
必ずや食いつくだろう。
そうだ!
“女子高生が犠牲”
になれば、きっと世論は必ず動く。
年寄り達は顔を突きつけ合い、悪巧みの相談をする。
平和の為に。
単純な話だ。
アメリカ軍に女子高生を殺させればいい。
それはすなわち国が国民の命・安全より米軍を優先させた事になる。
そうすれば
「基地は危険だ!」
「アメリカ軍を日本に住まわせるな!」
日本中が怒りに包まれるはずだ。
老人達は早速動いた。
学校に働きかけ、沖縄で行われる修学旅行のスケジュールの中に
「沖縄の反戦体験」
を付け加えさせる。
我々の日頃の奮闘ぶりを若い奴らに見せつける事も出来る!
老人達は色めき立つ。
学校を動かす。
実は難しい事ではない。
学校だって組織だ。
その学校組織を取りまとめていさらに上の組織が元々彼等の仲間なのだ。
むしろ、老人達の資金源と言っても間違いではない。
そこに働きかければ、修学旅行のカリキュラムの一つや二つ、変更する事など造作もなかった。
かくしてとある高校の修学旅行に反戦運動を加える事に成功する。
いや反戦運動では無く、平和運動だったか。
作戦の内容は簡単だ。
海上での抗議活動。
自慢の舟で、我々の大人の財力と人脈を見せつけるのだ!
海で巧みな舟の操縦を見て学生達が簡単と尊敬の眼差しを向けてくる。
そんな想像をして老人はエクスタシーに近い快感を覚える。
その舟で立ち入り禁止区域へ侵入する。
海上保安庁の警備艇が来る。
ギリギリまで煽って、頭に血が上った奴らに我らの舟を合わせる。
手に汗握る海上でのカーならぬシップチェイス。
その時に―女子高生を海へ落とす。
あの辺は潮の流れも早く、波も高い。
ほぼ助からないだろう。
事故だ。
悲劇だ。
そして、それを美談にする。
基地に反対し、世界平和の為に命を落とした少女。
マスコミは彼女を英雄として讃えるだろう。
なに、マスコミにはこちら側の人間が多くいるからその点抜かりはない。
そして、非難の矛先は反対運動をせざるを得なかった原因となった基地へ…。
完璧な筋書きだった。
そこで、老人達の1人が疑問を呈する。
「流石に、子供死なせて、わしらが無傷じゃとわしらも非難されやせんかの?」
老人特有の自己保身。
その言葉に周りの老人達は急に怖気づく。
「平和の為だ!我らへの批判など何するものぞ!」
しかし、言い出しっぺの老人が強硬に作戦の実行を促す。
「ならば我らの中からも被害者を出すというのはどうじゃ?」
老人の1人が仕方がないという風に提案する。
「おお!素晴らしい!平和を愛する少女と歴戦の老兵、2人の犠牲!なるほど世代を超えた感動を世の中にセンセーショナルに届く事だろう!」
老人は同胞の死を受けて、その悲しみと意志を背負い、さらに前に進む姿をマスコミが取材に来る想像をして思わずニヤけてしまう。
他の老人達も同じ様な表情をしている。
ひとしきり想像を楽しんだ後、老人は仲間に問う。
「で、誰が犠牲になる?」
老人達は一斉に下を向く。
誰一人手を上げようとはしない。
老人はしばらく待ってみたが、誰からも声は上がらなかった。
「情けない!平和の為の礎とならんという勇士は一人もいないのか?」
老人は激昂する。
しかし、激昂している等の本人も自分がやろうとは思っていないのだ。
「なんじゃ、あんたもやらないんじゃないか!」
他の老人の一人がバカにするように言う。
「な、何を!わしが臆病風に吹かれたとでも言うのか!」
とバカにしてきた老人に殴りかかる。
それを他の老人達が羽交締めにして止める。
「わしはお前達に歴史に名を残す名誉を譲ってやろうと思っていたと言うのに!」
羽交締めにされながら、怒り冷めやらず怒鳴り散らす老人。
激昂する老人を他所に、他の老人が腰の曲がった老人に、
「あんた、ガンが再発したとか言ってたじゃろ?どうせ死ぬならやったら良いんじゃないか?」
と提案する。
「ば、バカ!ただでさえわしは泳げんのに、こんな寒い時期に海に入るのは嫌じゃ!」
と即座に断る。
「あんたこそ、最近息子一家が転勤で東京に行っちまったから寂しいって言ってたろ?いっその事、死んだ旦那の所に行っちゃあどうだい?」
断った口でそのまま相手に押し付けようとする。
「今年の夏には孫が遊びに帰ってくるのに死ねるかい!このマヌケ!」
と怒鳴ったかと思うと相手をポカリと殴る。
「痛っ!やったなクソババア!」
とポカリポカリと反撃。
「痛たた!2度も殴ったね!」
と今度は腕に噛み付く!
「ギャー!こいつ!会社じゃ万年平社員の無能だったくせに!」
蹴りながら悪口を言う。
「グヘッ!お前なんざ旦那に3回も浮気されたくせにな!」
と反撃しながら罵る。
あっちでポカポカ。
こっちでバキバキ。
あちこちで殴り合い、罵り合いの喧嘩が起きる。
しばらくして、
「うっ…」
と急に倒れ込む老人が一人。
どうやら血圧が上がりすぎて頭に血が上り、脳の血管がプッツンいってしまったらしい。
哀れ、その老人はそのまま動かなくなってしまった。
突然の事で、しばらく皆んな呆然としたが、
「これは丁度良い」
と老人は満足げに呟いた声にハッと我に返る。
我に返ったはいいが、「丁度良い」と言う言葉に戸惑う。
「何を言っておる!医者を呼ばねば!」
と一人の老人が言ったが、誰も動かない。
そう、今回の計画に必要な犠牲者が見つかったのだ。
女子高生を海に投げ入れると同時に彼の遺体も海を投入する。
さも、今、少女と一緒に海に落ちたかのように。
皆、一様に神妙な顔つきをしてはいたが、内心、自分が犠牲にならずに済むと喜んでいた。
その喜びを悟られないように、
「これで子供たちの未来が守られる」
と、誰かが呟いた。
同調するように皆が頷く。
ただ1人動かなくなった老人だけは虚空を見つめていた。