監獄の全ロックが解除され、解放された囚人たちの叫び声と混乱が地下深層を埋め尽くしました。クライムとカレルレンは、混乱に乗じて王宮へと続く巨大な昇降機へ滑り込みます。
「さて、新人さん。アニマの器……あの結晶は今頃、最上階の『理(ロゴス)の塔』で解体されようとしている。王族たちは、その純粋なアニマの力を自分たちの不老不死のエネルギーに転用するつもりだ」
カレルレンの言葉に、クライムの左目の数式が激しく明滅しました。
「……案内しろ。……アニマを必ず助け出す」
二人は昇降機を最上階へと向かわせ、王宮の研究区画へと潜入しました。しかし、そこには白銀のパワードスーツに身を包んだ「エルフの精鋭兵」たちが、彼らを待ち受けていました。
「……くそっ、やっぱり簡単にはいかないか……」
クライムは「見えない網」を展開しようとしましたが、精鋭兵たちの攻撃は苛烈でした。絶体絶命の危機に瀕したその時、カレルレンが不敵に笑いました。
「……やれやれ、仕方のない男だ。……新人さん、君の左目の数式を、この研究区画の『グノーシス封印結界』に『上書き』してごらん」
「……結界に……上書き……?」
クライムは困惑しながらも、左目に映る数式をカレルレンの指示通りに結界へ向かって放ちました。
『事象変移:コード・結界解除』
結界が消失すると、研究区画のあちこちから、半透明で不気味な光沢を放つグノーシスの群れが、次々と溢れ出しました。グノーシスたちは、精鋭兵たちを次々と呑み込み、檻を破壊して研究区画を大混乱に陥れました。
「ははは! 素晴らしい! 期待以上の『バグ』だ、君は!」
カレルレンは優雅に立ち上がり、自由になった自分の手首をさすりながら笑いました。二人は、混乱に乗じて研究区画を脱出しました。
しかし、脱出した二人を、グノーシスたちは執拗に追ってきました。それも、精鋭兵たちを襲っていた時とは比べ物にならないほどの、凄まじい執念で。
「……くそっ、なんで俺ばっかり狙ってくるんだ!?」
クライムは「見えない網」で防ごうとしましたが、グノーシスたちは網をすり抜け、彼に牙を剥きました。
「……やれやれ、仕方のない男だ」
カレルレンは呟くと、目の前の精鋭兵から奪い取った、奇妙なリモコンのような装置を、クライムに向かって掲げました。
「……ヒルベルトエフェクト、起動」
カレルレンが装置を操作すると、リモコンから光が照射され、クライムを狙っていたグノーシスたちの半透明の身体が、実体を伴って現れました。
「……えっ!? ……グノーシスが……実体に……!?」
クライムは驚愕しました。今まで掴もうとしても指がすり抜けていたグノーシスたちが、今や物理的な攻撃を受け付ける、確かな実体を持った怪物へと変貌していたのです。
「……驚くことはないよ。これは『ヒルベルトエフェクト』と呼ばれる、グノーシスに物理攻撃をぶつけるように出来る力だ。別に珍しい物でもないし、こんな下っ端兵士にこんな物を持たせてるくらいだからね」
カレルレンは平然と笑うと、実体化したグノーシスたちを、奪い取った精鋭兵の武器で次々と倒していきました。
「……さあ、行くよ、新人さん。アニマの器を助け出すためなら、この街ごとぶっ壊してやるんだろう?」
カレルレンの言葉に、クライムは震えながらも、自分の左目に宿る「数式」の力を、改めて認識しました。