地下監獄の騒乱が、エルサレムの最上層に位置する「理の塔」にまで響き渡っていました。
そこは、近代的な電子機器と古代の祭壇が混ざり合う、異様な空間。中心部の円筒形カプセルには、奪われたアニマの結晶が、無数のコードに繋がれた状態で宙に浮いています。カプセルの前で、冷徹な美しさを湛えたエルフの王女が、端末を操作しながら忌々しげに舌打ちをしました。
「……計算が合わないわ。アニマの深層意識(神の記憶)にアクセスしようとするたび、この結晶が激しく拒絶反応を示す。……まるで、誰かの呼びかけに応答しているかのように」
その時、一人の部下が血相を変えて部屋に飛び込んできました。
「王女! 地下監獄から報告です! 不法侵入者の少年が、あの『追放者』カレルレンを連れ出し、脱獄しました! 現在、研究区画にグノーシスを出現させ、甚大な被害が出ております!」
「カレルレン……。あの古臭い人道主義者と、あの泥臭い小僧が?」
王女の瞳に、鋭い殺意が宿ります。彼女にとって、アニマの結晶から引き出せる「神のエネルギー」は、エルフ一族が永遠の統治を続けるための絶対的なリソース。それを邪魔する者は、誰であろうと排除すべき「塵」に過ぎません。
「邪魔はさせない。神の記憶を我が物とするまで、あと一歩なのよ……。……全軍に告ぐ。地下の反乱分子を即刻抹殺せよ。……それから、待機している『番人の精鋭』たちを差し向けなさい」
王女の指示と共に、王宮の各所に配置されていた「秩序の番人」たちが一斉に動き出しました。彼らは通常の兵士とは異なり、ゾハルの波動を直接戦闘力に変換できる超常の戦士たちです。
王女は再び結晶に向き直り、出力を最大まで引き上げました。
「カレルレン、あなたが何を企んでいるかは知らないけれど、ここへ辿り着く前にすべてを終わらせてあげる。……このアニマの力でね」
カプセルの中の結晶が、悲鳴を上げるように激しく明滅します。結晶体のアニマは、遠く離れた場所で戦うクライムの「左目」の波動を感じ取り、必死に抵抗を続けていました。
一方、昇降機で上層を目指すクライムたちの前には、王女の命を受けた「番人」たちが立ちふさがります。
「新人さん、ここからは本当の地獄だ。相手はグノーシス以上に話が通じない、『秩序』という名の狂信者たちだよ」
カレルレンは、奪ったヒルベルト・エミッターを弄りながら、不敵に笑います。クライムの左目は、壁の向こう側から迫る、巨大な「アニマの波動」を捉えていました。