「……くっ、あははは! 素晴らしい、実に見事な反応だ!」
カレルレンは、番人たちの包囲網の中で哄笑しました。彼の身体が青白い光の粒子へと霧散し、放たれた高出力エネルギー弾が空虚にその身を透過します。「ナノマシン化」——自身の細胞を微細な機械群へと置換し、物理的な干渉を無効化する禁忌の技術。
「さあ、マーニャ。その玉座から降りる時間だ」
粒子状の腕がマーニャの喉元へ伸びようとしたその刹那、空気が凍りついたように静まり返りました。
ドォォォォンッ!!
不可視の領域から現れた「謎の少女」の脚が、実体を持たないはずのカレルレンの腹部を、逃れようのない質量を持って捉えました。
「が……はっ……!? なぜ……実体化……した……っ!?」
ナノマシンの結合を強制的に固定され、カレルレンは無様に床を転がりました。倒れ伏す彼の前に、無機質な瞳をした少女が、重力を感じさせない足取りで着地します。その肌には、番人の紋章と、グノーシス特有の禍々しい光の文様が混ざり合って浮かび上がっていました。
「……ふふ、あはははは! 傑作ね、カレルレン!」
マーニャは狂ったように笑い、カプセルの横で勝ち誇ったように胸を張りました。
「驚いたかしら? 彼女は、私たちが作り上げた最高傑作……グノーシスの『不確定性』と、番人の『秩序』を掛け合わせた特殊個体のレアリアンよ。虚数領域に逃げ込もうとするあなたのナノマシンさえ、彼女の『観測』からは逃れられない!」
カレルレンは口元の血を拭い、眼鏡の片方を失った顔で、冷徹な怒りを孕んだ目をマーニャに向けました。
「……やはり、君たちエルフは救いようのない愚か者だよ、マーニャ。……グノーシスという宇宙の拒絶反応と、人間を掛け合わせるなんて。……僕たち『アベルの方舟』を、いや、この宇宙の進化そのものをどれだけ侮辱すれば気が済むのかな?」
彼の声には、先ほどまでの余裕はなく、底知れない嫌悪感が滲んでいました。
「奴らは『無』だ。混ざり合うことのない、ただの消去プログラムに過ぎない。……それに魂を売ってまで、神の領域を汚したいのかい?」
「——アニマに、触るなッ!!」
その時、理の塔の分厚い天井が、巨大な衝撃波と共に爆散しました。
瓦礫の雨の中を突き抜け、左目から蒼い炎のような数式を溢れさせたクライムが、カプセル目がけて一直線に飛び込んできます。
「クライム!?」
カプセルの中で、アニマの結晶が歓喜と恐怖に震えました。
しかし、マーニャの傍らに立つ「謎の少女」が、今度はその冷たい視線をクライムへと向けました。彼女の背後には、虚数領域の歪みから巨大なグノーシスの腕が何本も生え出し、クライムを迎え撃とうと蠢き始めます。