ゼノ・クライシス(Xeno-CRISIS)   作:gp真白

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第十六話

制御サーバーをカレルレンにハッキングされた「特殊個体レアリアン」の瞳から、光が消えました。代わりに溢れ出したのは、底なしの泥のような漆黒の虚数エネルギー。

 

「……ア、アガ…………消……去……ス……ベ……キ……」

 

システムによる抑制を失った彼女の肉体は、内なるグノーシスの奔流に呑み込まれ、背中から無数の異形の腕が爆発的に突き出しました。その一撃が理の塔の床を粉砕し、衝撃波がクライムを直撃します。

 

「うわああああっ!」

 

クライムはアニマの結晶をその胸に抱きしめたまま、防壁を突き破って屋外の回廊へと吹き飛ばされました。

 

崩壊する研究区画の瓦礫の中から、埃を払って立ち上がったマーニャは、目の前の凄惨な光景に顔を歪めました。

 

「ええい、出来損ないが! ……貴様ら! 遅いぞ、この私を放ったらかしておいて何をしておったのだ馬鹿者共! それでも四柱の番人か!」

 

彼女が怒鳴りつけた先、虚空から静かに降り立ったのは、圧倒的なプレッシャーを放つ四人の男女。番人組織の最高戦力である彼らを前にしても、マーニャはエルフの特権階級としての傲慢さを崩しません。

しかし、その中の一人、派手な装飾を施した重火器を担ぐ女・レミーが、音もなくマーニャの至近距離に詰め寄りました。

 

「……っ!?」

 

レミーは細く鋭い指で、マーニャの美しい頬を万力のような力で掴み上げました。

 

「うるさいね。私はアンタに仕えてる訳じゃないんだけど。本部から『撤収』なんて命令が降りなきゃ、アンタみたいな女、グノーシスの餌に捨て置くに決まってんじゃない。ねえ、三下」

 

「な……っ、この、無礼な……!」

 

マーニャが震える声で反論しようとした時、背後で他の三人が退屈そうに声を上げました。

 

「じゃ、レミー。撤収よろしく。……俺たちは『こいつら』を貰っていくわ」

軽薄な笑みを浮かべた青年格の番人が、吹き飛ばされたクライムとアニマ、そして倒れているカレルレンを指差します。彼らにとって、エルフの王女の安全など、ゾハルの機密に触れた「特異点」の回収に比べれば些末なことでした。

 

「冗談じゃないわ! なんでこの私が、こんなヒステリックなエルフの介護なんて!」

 

レミーが不満を爆発させて叫ぶと、グループのリーダー格である、達観したような風貌の中年の男が肩をすくめました。

 

「まあそう言うな。俺たちのような男が一緒に居ても絵にならないだろ? それに、この中で一番隠密と警護に向くのは、お前だろうが。なあ、レミー」

 

「隊長はいつもそうやって! 都合のいい時だけ部下に丸投げして! 本当に嫌になっちゃうわよ、もう!!」

 

レミーは地鳴りがするほどの勢いで地団駄を踏み、真っ赤な顔で悔しがります。しかし、隊長の命令は絶対。彼女は忌々しげにマーニャの首根っこを掴むと、無理やり引きずり始めました。

 

「ほら、行くわよ三下! 足をバタつかせないで!」

 

番人たちの三人は、レミーの叫び声を背に、悠然とクライムが墜落した方向へと歩き出しました。

 

「さて……『神の庭』の数式を盗んだ泥棒猫を、どう料理してやろうか」

エルサレムの空には、さらなる上位存在の影が、巨大な日食のように広がり始めていました。

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