崩壊する「理の塔」の片隅で、カレルレンは血に染まった指を床の隠しパネルに走らせていました。
「……フフ、神の記憶を手にできないのであれば、この都ごと虚数領域の塵にしてやる。それが僕たちへの侮辱に対する、唯一の回答だ!」
彼が自爆シーケンスを起動しようとしたその刹那。背後から、凍てつくような冷気と共に、のんびりとした、しかし抗いがたい圧を持った声が響きました。
「悪いけど、そんなことされたら隊長にどやされるんだよね。悪いことは言わないから、また牢に戻っててよ」
カキィィィンッ!!
四柱の一人、白磁のような肌を持つ少年・バニラが軽く指を振ると、カレルレンの指先から、その全身に至るまでが瞬時に透明な氷塊へと封じ込められました。バニラは凍りついたカレルレンの目の前まで歩み寄り、にっこりと無邪気な笑顔を浮かべて見せます。
「あーあ、ナノマシンまで凍っちゃった。これじゃあ分解も再構築も無理だね。おやすみ、カレルレンさん」
氷像と化したカレルレンを一瞥し、グループのリーダーである中年の男、隊長がため息混じりにバニラを呼び止めました。
「バニラ、悪いが牢にぶち込むついでに、あっちで暴れているグノーシス・レアリアンを止めてくれないか。……正直、幼女をいたぶる趣味は叔父さんには無いんだよね」
隊長が指差した先では、暴走したレアリアンが虚数エネルギーの炎を撒き散らし、周囲を焦熱の地獄へと変えていました。バニラは露骨に嫌そうな顔をして、隊長を振り返ります。
「えぇ……隊長じゃないと、多分あの娘止まらないと思うんだけどな。それに見てよ、ずっと炎属性の攻撃ばっかり。僕、行ったら火傷じゃ済まなさそうなんだけど?」
バニラは苦笑いを浮かべながら、自分の白手袋をはめ直しました。
隊長は懐から古びたライターを取り出し、火を点けるフリをしながら淡々と答えました。
「大丈夫だ。どうせお前が時間稼ぎをしている間に、ネットワークは回復するように部下に伝えてある。……カレルレンのウイルスを
その言葉を聞いた瞬間、バニラは不満げに「ハァ……」と深い溜息をつき、半目になって隊長をじろりと睨みつけました。
「……なーんだ。結局、裏で全部手は回してるんじゃん。相変わらず性格悪いよね、隊長は」
「褒め言葉として受け取っておこう。さあ、行け。氷が溶ける前に終わらせるんだぞ」
バニラは文句を言いながらも、冷気の渦を纏って暴走するレアリアンへと飛び出していきました。背後では、隊長が一人、静かにクライムが消えた瓦礫の先を見つめていました。