爆風に煽られ、崩落した屋外回廊の隅で、クライムは肺が焼けつくような熱い息を吐き出しました。胸元には、必死に守り抜いたアニマの結晶が、弱々しく、しかし温かく脈動しています。
「……くそっ、あいつら……バケモノかよ……」
立ち上がろうとしたクライムの視界に、逆光を背負った二つの影が落ちました。
「おいドンパ、また太っただろ。食い過ぎもいい加減にしとけ。ただでさえ俺たちは機密部隊として活動してるんだ。デカいだけで、目立って見つかっちまうじゃねーか」
低く、どこか楽しげなハスキーボイスが響きます。影の一つは、見上げるような巨躯を持つ大柄な男。そしてもう一人は、猫背気味に立ち、慣れた手つきで葉巻をくゆらす小柄な男でした。
「隊長、それ……レミーに『葉巻を吸うな』って言われても、一向に辞めないのと同じですよ。俺にとっての飯は、隊長にとっての
巨漢の男、ドンパが、岩が擦れるような重低音で淡々と切り返しました。
「ハッ、違いない。……だが、俺のこれは『思考の潤滑油』だ。お前の腹の肉とは格が違うぜ」
クライムは「見えない網」を指先に凝縮し、左目の数式を最大まで加速させて身構えました。目の前にいるのは、先ほどマーニャを「三下」と切り捨て、カレルレンを一瞬で無力化した化け物たちの親玉——隊長。
「やあ、少年。そう怖い顔をするな」
隊長は、指に挟んだ葉巻を一度口から離すと、白い煙を細く吐き出しながら、なんとも掴みどころのない、胡散臭い笑顔で手を振ってみせました。
「そのアニマクリスタルを守りたければ、俺の言うことを聞いてくれないかな。……なーに、悪いことは言わないさ。叔父さんは嘘が嫌いでね」
その笑顔は、優しげでありながらも、一歩でも踏み込めば底なしの沼に引きずり込まれるような、圧倒的な「強者の余裕」に満ちていました。
「……あんたたちが、エルフの王女を従えてる『番人』なんだろ。俺たちの味方なわけがない!」
クライムが叫ぶと、隊長は肩をすくめ、ドンパと顔を見合わせました。
「従えてる? ……あんなキンキンうるさい女をか? 勘弁してくれよ。俺たちは、ただ『仕事』をしに来ただけだ。そして今の俺の仕事は、その結晶を壊さずに……君を『神の庭』の追撃から隠し通すことなんだがね」
隊長の一歩が、瓦礫を軽く踏みしめます。
「信じるか信じないかは自由だ。だが、バニラの氷が溶け、レミーが戻ってくれば、俺でも君を『生かしておく』言い訳ができなくなる。……どうする、小僧?」
アニマの結晶が、クライムの胸元でトクトクと激しく脈動し始めました。まるで、この男の言葉の裏にある「何か」を感じ取っているかのように。