王宮の喧騒から遠く離れた、次元の隙間に位置する静謐な和室。
四柱のリーダーである隊長は、慣れた手つきで重い障子を開け、涼やかな風が吹き抜ける縁側へと足を踏み入れました。
そこには、古びた簾(すだれ)が揺れ、その向こう側に濃密な「死」の気配が静止した湖のように湛えられていました。
「よう、ソウカク。息災か? かつての総務隊長仲間として、面白い土産話を持ってきたぜ」
隊長は懐から葉巻を取り出そうとして、ふと思い出したように手を止めました。この場所で火を灯すのは、あまりに無粋だと直感が告げたからです。
「そうかい、そうかい……。良かったじゃないか。俺とは違って、外で楽しい思い出が作れてよ」
簾が静かに左右に分かれ、そこから姿を現したのは、拍子抜けするほど小さな少年のような見た目のエルフでした。しかし、その一歩が畳を踏みしめた瞬間、周囲の空間がミリ単位で軋みを上げます。
この少年こそ、かつてオルムスの武力の頂点に君臨し、伝説の剣豪ムサシですら「勝つのは不可能」と断じた生ける伝説、武神ソウカク。
その華奢な体躯から漏れ出しているのは、鍛え抜かれた技が純粋な殺意へと昇華された、暴力的なまでの「闘気」でした。
「相変わらず、その闘気を剥き出しにする癖は辞めてくれよ、ソウカク。俺は慣れてるから問題ねーが、外で警護をしてる他の連中の邪魔になっちまうだろ? 蛇に睨まれた蛙みたいに動けなくなってるぜ」
隊長は余裕の笑みを浮かべて肩をすくめますが、その額には薄っすらと冷や汗が滲んでいました。本気を出されたら、四柱の長である自分ですら、一太刀浴びせる前に塵にされる——それが「怪物」ソウカクの実力でした。
「ははっ、違いねえ」
ソウカクは子供のような無邪気な笑みを浮かべ、ドサリと座り込みました。しかし、その瞳の奥には、すべてを切り捨て、事象そのものを両断するような、底知れない闇が宿っています。
「それで? その『面白い話』ってのは、あのムサシが守っている小僧のことかい? それとも、虚数領域から這い出てきた、あの出来損ないのレアリアンのことかな」
ソウカクの手が、傍らに置かれた銘もない抜き身の刀の柄を、愛おしそうになぞりました。
「……両方さ。今、あの二人は一つに混ざり合って、この宇宙の理(ルール)を書き換えようとしてやがる。集合的無意識の王……なんて、大層な二つ名が付きそうな勢いだぜ」
隊長の言葉に、ソウカクの口角が吊り上がりました。
「いい。……実にいい。型にハマった剣筋じゃ、もう退屈してたところだ。その『王』とやらは、俺の刃を網で受けてくれるのかい?」