「久しぶりに試合(稽古)でもするか、隊長?」
ソウカクが子供のような無垢な笑顔で問いかけたとたん、周囲の空間がミシミシと音を立てて歪みました。その「誘い」は、常人であれば心臓が止まるほどの殺気に満ちています。
「よしてくれよ。それこそ次の休みまでに実家に帰る予定なんだ。親孝行が
隊長は両手を上げて降参のポーズを取り、苦笑しながら首を振りました。四柱の長といえど、この「武神」と竹刀を交えるのは、死神とダンスを踊るようなものです。
「それよりも、相変わらず書類仕事か。エルフも昔は戦場に明け暮れていたもんだが……今のあんたの姿、昔の連中が見たら考えられないだろうな」
「違いねえ。刀を振るより筆を走らせる方が、この星の
ソウカクは自嘲気味に笑い、手元の書類を無造作に放り投げました。しかし、その直後。ソウカクの瞳から色が消え、鋭い「獣」の光が宿りました。
「……なあ。さっきから向こうの空、何か落ちてきてないか?」
ソウカクが目を細め、遥か彼方の成層圏を指差しました。隊長が視線を追うと、そこには青い空を不気味に汚す、赤い尾を引く巨大な流星がありました。
「……流星? いや、違うな。このプレッシャー、まさか……」
隊長の言葉が終わるより早く、その「物体」はエルサレムの近郊へと激突しました。
ドォォォォォォォォンッ!!
衝撃波が地を駆け、聖域の障子を激しく揺らします。爆煙の中から姿を現したのは、通常のグノーシスとは一線を画す、血のような赤色を帯びた「特級個体」でした。
「赤い……グノーシスだと? 冗談だろ、あんな色、記録にもねえぞ」
隊長が驚愕の声を漏らします。そのグノーシスは、まるで剥き出しの筋肉と結晶が混ざり合ったような禍々しい姿をしており、その手には巨大な「十字架型の鎌」が握られていました。
「……あれは、ただの化け物じゃないな。集合的無意識の『拒絶』が、誰かを殺すためだけに形を成した……『処刑者』だ」
ソウカクはゆっくりと立ち上がり、傍らに置かれた刀を手に取りました。
「隊長、親孝行はまた今度だな。……どうやら、向こうから『試合』の相手がやってきたようだぜ」
エルサレムの空が、不気味な赤色に染まり始めます。クライムの中に宿る「少女」に引き寄せられたのか、あるいは「王」の誕生を阻む宇宙の免疫反応か。
深紅の災厄が、咆哮と共に大地を蹂躙し始めました。