灰色の精神世界が、突如として不気味なノイズに包まれました。
足元を流れる数式の雪が逆流し、空が血のような赤色に変色していきます。
「……ッ、嫌……これはなに……? グノーシスじゃない。まるで存在自体があやふやな、底の見えない……」
膝を抱えていた少女が、目に見えるほどガタガタと震え始めました。彼女自身の「
「いきなりどうしたんだよ! 外で何が起きてるんだ?」
クライムの問いに答えたのは、精神世界へダイブしていたアニマの、戦慄に満ちた呟きでした。
「今、現実の方では……凄く大きな、グノーシスのようでそうでなくて……分からない。なんなの、これは……まるで、巨大な人工知能(AI)のような、でもそんなに単純なものじゃない……」
「……一旦戻るぞ! アニマ、離脱だ!」
クライムが叫ぶと同時に、精神世界の座標が崩壊。
視界がホワイトアウトし、次の瞬間、クライムは現実のエルサレム——王宮の回廊で目を開けました。
しかし、そこにあったのは、先ほどまで戦っていた瓦礫の山ではありませんでした。
「……なんだよ、これ……空が……」
見上げた空一面を、無数の「目玉」が埋め尽くしていました。
それは雲の間から覗く巨大な生物の眼球のようでありながら、その表面には膨大な
空から降ってきたのは、グノーシスの結晶体でも、物理的な生命体でもありませんでした。
それは、空間そのものをドット単位で侵食していく、「数式の化け物」
「まるで生き物のように見えるけど、これはなんなの!? グノーシスとは違うのに、グノーシスと似たような……いえ、そもそもこれは『生き物』なの!?」
アニマが困惑し、混乱した声を上げます。彼女の持つ「事象干渉」の力さえも、目の前の異形に対してはターゲットを絞り込めず、空を掴むように空転していました。
「……これは……データ生命体……」
クライムの意識の奥底で、少女が絶望に染まった声で囁きました。
「グノーシスとは違う……何かなのは確か。……宇宙の集合的無意識が、私たちという『バグ』を消去するために出力した、物理的な実体を持たない
赤いオーラを纏ったその「個体」が、地面に降り立った瞬間、周囲の建造物が文字通り「データとして
それは、グノーシスの「拒絶」とも、人間の「闘争」とも違う。
ただ、そこに在るだけで世界を
「……あいつ、俺たちを消しに来たってのか」
クライムは、震える右手を無理やり握りしめました。左目のゾハル・アクセスが、かつてないほどの警告音を脳内に鳴り響かせています。