ゼノ・クライシス(Xeno-CRISIS)   作:gp真白

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第二十九話

灰色の精神世界が、突如として不気味なノイズに包まれました。

足元を流れる数式の雪が逆流し、空が血のような赤色に変色していきます。

 

「……ッ、嫌……これはなに……? グノーシスじゃない。まるで存在自体があやふやな、底の見えない……」

 

膝を抱えていた少女が、目に見えるほどガタガタと震え始めました。彼女自身の「拒絶の力(グノーシス)」さえも、その「何か」に怯え、霧散しようとしています。

 

「いきなりどうしたんだよ! 外で何が起きてるんだ?」

クライムの問いに答えたのは、精神世界へダイブしていたアニマの、戦慄に満ちた呟きでした。

 

「今、現実の方では……凄く大きな、グノーシスのようでそうでなくて……分からない。なんなの、これは……まるで、巨大な人工知能(AI)のような、でもそんなに単純なものじゃない……」

 

「……一旦戻るぞ! アニマ、離脱だ!」

 

クライムが叫ぶと同時に、精神世界の座標が崩壊。

視界がホワイトアウトし、次の瞬間、クライムは現実のエルサレム——王宮の回廊で目を開けました。

しかし、そこにあったのは、先ほどまで戦っていた瓦礫の山ではありませんでした。

 

「……なんだよ、これ……空が……」

 

見上げた空一面を、無数の「目玉」が埋め尽くしていました。

それは雲の間から覗く巨大な生物の眼球のようでありながら、その表面には膨大な数字の羅列(バイナリコード)が高速で表記されては消え、バグのように明滅を繰り返しています。

 

空から降ってきたのは、グノーシスの結晶体でも、物理的な生命体でもありませんでした。

 

それは、空間そのものをドット単位で侵食していく、「数式の化け物」

 

「まるで生き物のように見えるけど、これはなんなの!? グノーシスとは違うのに、グノーシスと似たような……いえ、そもそもこれは『生き物』なの!?」

 

アニマが困惑し、混乱した声を上げます。彼女の持つ「事象干渉」の力さえも、目の前の異形に対してはターゲットを絞り込めず、空を掴むように空転していました。

 

「……これは……データ生命体……」

 

クライムの意識の奥底で、少女が絶望に染まった声で囁きました。

「グノーシスとは違う……何かなのは確か。……宇宙の集合的無意識が、私たちという『バグ』を消去するために出力した、物理的な実体を持たない殺戮命令(プログラム)……」

 

赤いオーラを纏ったその「個体」が、地面に降り立った瞬間、周囲の建造物が文字通り「データとして崩壊(ロスト)」し、ノイズとなって消えていきました。

 

それは、グノーシスの「拒絶」とも、人間の「闘争」とも違う。

ただ、そこに在るだけで世界を初期化(リセット)していく、高次元のクリーチャー。

 

「……あいつ、俺たちを消しに来たってのか」

 

クライムは、震える右手を無理やり握りしめました。左目のゾハル・アクセスが、かつてないほどの警告音を脳内に鳴り響かせています。

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