ゼノ・クライシス(Xeno-CRISIS)   作:gp真白

31 / 32
第三十話

赤く染まった空。無数の瞳から放たれた幾何学的な光が、歪んだ大気の中に一つのホログラムを形成しました。

そこに浮かび上がったのは、顔も定かではない、白い影を纏った人間のようなシルエット。周囲の「データ生命体」たちがその影を守護するように、空中でバイナリコードの輪を幾重にも描いています。

 

(……ご機嫌様。私はこの世界の管理者から権限を与えられている者だ)

 

直接、脳髄に響く声。それは音ではなく、情報の塊が意識に強制ロードされるような感覚でした。

 

(この地に降り立ったのは、他でもない。例外的な力を持つ君だよ。……グノーシスの力を纏う少年。あらかじめ言っておくが、この声は君と、君の中にある「物」にしか聞こえない設定にしている。……そこにいる「グノーシス擬き」の少女にも、伝わっていることを承知してほしい。……理解していると思うが、この映像を映しているのは、君の考えている通りデータ生命体。……そう、ウイルスのようなものだ。まあ、「生きて」はいないんだけどね)

 

白い影は、まるで世間話でもするかのような軽薄な調子で語りかけます。その傲慢なまでの余裕に、クライムは背筋に冷たいものが走るのを感じました。

 

「一体……あんたは何者なんだよ。『世界の管理者』だの『権限』だの……。まるでゾハルの向こう側にでもいるような言い方じゃねーか!」

 

クライムが叫ぶと、白いシルエットの肩がわずかに揺れました。笑っているのです。

 

(そのまさかだよ。……想像力が足りないね。私は君に一度「見られている」ので、あまり姿を隠す必要はないのだが)

 

その言葉を聞いた瞬間、クライムの脳裏に、精神世界で見たあの光景——霧の向こうで語り合っていた二人の男女の姿がフラッシュバックしました。

 

「……ッ!? 思い出した……! たしか、レメゲトンを使いすぎたとか……『集合的無意識に帰らない意識』の理由を探せば対処できる、とか話してた奴か! お前、あの時の……!?」

 

(おや。本当に見られていたのか。しかも……今回の私たちの作戦は、そちらに筒抜けのようだね)

 

白い影はくすくすと笑い声を上げました。その笑いは、計画が露見した焦りではなく、チェスの盤面で予想外の指し手を指された子供を面白がるような、残酷な愉悦に満ちていました。

 

(「理由」を知れば対処できる……。確かにそう言った。だが少年、理由を知ることと、その「重圧」に耐えられることは別問題だ。……君の中の少女が怯えているのは、私が誰かを知っているからではなく、私が運んできた「消去コード」の正体を理解しているからだよ)

 

データ生命体の瞳が一斉に、クライムの左目——ゾハルの瞳を凝視しました。

 

(さあ、始めようか。システムにとっての「バグ」を、物理的に排除する作業を。……君のその「意志」が、宇宙の免疫システムをどこまで押し返せるか、見せてもらうよ)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。