格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
第一話 プリンティス見参
「ふぅ……やっぱり駄目かぁ。今日も生配信をやってみたはいいものの全く来やしねえし、チャンネル登録も未だゼロ……」
俺は生配信中にも関わらず、完全にキャラを放棄して嘆いていた。
日本にダンジョンという物が現れてから三年。日本中でダンジョン攻略配信者たる者が多く活動するようになった。その理由は大きく分けて二つ。一つはダンジョン攻略は国の一大プロジェクトとして扱われ、配信者はそれにより補助金などの様々な支援を受けられる様になり、一つの職業として成立する程の成長を見せたからである。
そして二つ目はダンジョン攻略や配信が一種のエンタメ的な扱いになったからである。ダンジョン攻略は命をかける一方でまだ見ぬお宝やモンスターとの闘いによる成長という新たな刺激を生み出した。そのおかげか今やそれは金稼ぎ以外に危険知らずの若者のレジャーとしての需要も増えた。また、命をかけずに謎や攻略状況だけ見たいという者をターゲットとした配信がインターネットに投稿され、配信者と視聴者で紡がれる一大文化となっていた。
そんな状況の中でこの俺もダンジョン攻略配信者として2年前活動を開始した。しかしながら現実はそう甘くはない。新人配信者が昨今急激に増加し、古参が中々離れない状況が続いた結果、既に世間が求める需要は超えて、飽和状態になっていた。また国の財政も年々厳しくなり、一人ひとりに渡される補助金自体も少ない状況が継続し、引退宣言を表明する者も現れ始めている。
大金を手にし有名になるというダンジョンズドリームは限られた者だけの物になり、俺を含めた数多の底辺配信者は生活ギリギリの現実に直面せざるを得なくなった。
「流石に補助金があるとは言っても……これじゃあ今月も毎日卵かけご飯おんりーになっちゃうな。あの時の決断……少しは止めるべきだったか……?いや……もう過ぎた事だ。それに俺を満たしてくれる物がこの先に待っている」
俺は気にするのは辞めだとほっぺたを力いっぱいに叩き、迷いを絶った。あくまでお金はおまけだ。俺はここに来た理由がある!その為ならいくら毎日が卵かけご飯だろうが……、具材が全くない素麺だろうが……果てはもやしだろうが……気にする事などではないィ!
「よし!あとちょっとだけがんばってみるか!試聴数は未だゼロだが……、うっうん……魔法少女プリンティス……再び参上イェイ!さてさて……悪い魔物さんは一体どっこかなぁ♫」
此処はダンジョン三拾六階層。大体少し強いクラスの魔物……。ブラッディゴブリンやグランディアナイトが出現する。このレベルなら視聴している人が来ればあっと驚く大技をヒットできるかもしれない。
獲物を見つける為にスキップしながらダンジョン全体を探索していく。その最中にちらりとライブ配信画面を見るとなんと1人来ているではないか!このチャンスを逃すわけにはいくまい!早速挨拶をし、すげえ技を見せるという予告をして置かなければ!
「初見さん!はろはろこんぷりん!魔法少女系配信者のプリンティスと言います!今魔物を倒そうかなと思ってる最中なんで是非是非見てみて!」
よしよし。なんとか配信内にはいるな。おっ。あそこには……ブラッディゴブリンがいるぞ。悪いが撮れ高になってもらおう。
「魔物さん!こっちだよ!貴方達を倒す正義の魔法少女だよ〜」
挑発にのって襲いかかる獲物。いつものルーティンの如く一撃必殺でこの世から退場させた。
「見てました初見さん!これが私の魔物さんの退治で――、あ」
スマホを見ると僅かな視聴者は既に消えていた。
「うっそーん……」
悲しい事に別配信枠へ行ったのだろう。なんと運が悪い……。まあ流動性が高いのもこの界隈の一つの特徴……。回数を重ねて試行錯誤だ。
まあ今日はここいらでやめにするかな。ダンジョンに入ってもう3時間も経っている。休憩も肝心。
俺は誰もいないライブ配信をオフにしてダンジョン脱出口を探す。その時だった。
「こ、こんな筈じゃなかった……!だ、誰か……助けてぇ!」
近くから悲鳴が聞こえ、俺はどこかと周りを見渡しながら声の主の元へと向かう。助けを無視するなんか言語道断だ。それに正体を隠している今ならば少しの接触で身バレは起きるまい。
えっほえっほとダンジョン全体を駆け巡っていく。
「何処ですか!いたら返事お願いします!」
「た、助け……キャッ……」
応答を確認する度に助けを呼ぶ声は小さくなっていく。早くしなければ命が危ない!
そうして辿り着いたのはダンジョンの隅っこの柱……そこに18前後の黒髪を短く束ねた女性が追い詰められ、満身創痍の状態で座り込んでいた。
「ハァハァ……も……もう……」
「お姉さん!大丈夫!私が守ります!」
「そ、装備も無しで勝てる相手じゃあ……うあ……」
彼女はそう言い残して気を失った。これ以上彼女に身の危険があると危ない。俺はオークに立ち向かう。
グオオオオ……!カ゚アッ――!
真っ直ぐに振り落とされた木の棍棒を俺は巧みに背中を捻らせて避ける。そしてボクシングの構えで身体全体をガードしつつ素早く懐に潜り込み……そして――
ドゴォ……!
ウガァ……。
「鉄・拳・制・裁!ってね♡」
そうして俺は片目ウインクを決め、ピョンとジャンプしポーズを決めた。
因みに俺は男である。断じて素がオレっ娘な男勝り女という訳では無い。変装スキルで魔法少女プリンティスになって活動しているバミ肉系ダンジョン配信者だ。