格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜   作:tetois

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第十七話 毒

 

 ダンジョン治安特殊部隊。そう名乗ったカイという女性はウルフカットの髪をし、身体を如何にも頑丈な防具服を纏っていた。片手に氷を思わせる装飾をつけた杖を備えている。

 

 「そこの二人まずは名前を」

 

 ダンジョン内では本名ではなく、別の名前を使っても構わない。本名を使う人もいれば、俺のようにペンネームを作成する者もいる。

 

「まずは貴方だ」 

 

 俺の方に目を合わせ、近づく。

 

「プリンティスです」

 

「何?」

 

 俺が言葉を発した瞬間、カイの目が鋭くなり、顔が歪む。何かのスイッチを押したかのように。

 

「実力行使だ。ダンジョンから追放する」

 

 カイは臨戦態勢へと直ぐ様移行し、激しい敵対心を剥き出しにする。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

 

「プリンティス。ハッキングの容疑で通報されている。貴方はダンジョンの治安を乱した。ランキングにも悪影響だ」

 

 "ハッキング!?"

 "どゆこと?"

 "いきなりすぎないか?"

 "そもそも誰なんだよ偉そうに"

 

 俺は言われのないハッキング容疑をかけられ、心中では驚きと困惑しか無かった。

 

「くくく……流石闇の使徒……。数多もの罪を無自覚に背負うとは……。いや違うな私達は生まれたことそのものが罪だったな」

 

 ――お前は黙ってろ!こんなややこしい時に!

 

 にしても何だこれは。今日は厨二に構われるし、謎の組織から冤罪をかけられるし……。配信が全部無茶苦茶になっている。

 

「そもそも貴方誰ですか?」

 

「私たちは管理局公認でないがダンジョンに挑む冒険者として独自で治安維持に努めている。プリンティス、貴方がハッキングしたとの通報を受けた。情報源も信頼に値する者からだ」

 

「冤罪です!通報をしたのは?」

 

「それは貴方が知る必要はない。ただちにダンジョンから出ていってもらう」

 

 俺はハッキングなどはしない。となると黒幕がいるのは必然だ。しかし、何の目的で俺を狙う?そもそもこのウルフという組織自体、管理局に関係のない組織。冤罪で勝手に追い出されるなどまっぴらごめんだ。とは言えども配信内でこれ以上のトラブルには巻き込まれたくはない。

 

 公式に取り上げられることへの悪影響をひしひしと感じながら、碌な配信が出来ないことに徐々に苛立ちを覚えた。とは言えども配信内で交戦は避けなければならない。イメージとしても。

 

 "プリンに勝てんのか?"

 "変な奴ばっかと出会う主さんお疲れ"

 "今日色々起こりすぎやろ"

 

 カイが杖を構え、今にも俺を襲撃しようとする。しかし、カイに異を唱える者がいた。

 

「くくく……そこの赤子にも等しいもの……いや私から言わせるとミジンコか?今から闇に惹かれ合う忌み子同士の密戦を行う最中乱入とは………」

 

 その時のダークネスエンペラーはあいも変わらず意味不明なことを言ってはいたが瞳だけは鋭さを増し、明確な意思をはらんでいた。

 

「ペナルティだ。闇の炎に抱かれて消えな……くくっ……」

 

 

 ダークネスエンペラーは両手を前に構える。そして俺の方向に顔を向けて囁くような声を発する。

 

「闇の儀式には生贄が必要……くくっ……次はお前だがな……」

 

 俺は決断した。この二人が交戦中に配信を立て直す。その為に一旦逃走し、交戦状態を避けなければならない。

 

 俺は二人が今にも交戦する姿を見送りながらその場を後にし、走りながらカメラに向かって発言した。

 

「すみません……!これから本来の階層攻略に――」

 

 しかし、立て直すことはできなかった。次の瞬間、俺はすぐ近くの柱に打ち付けられたダークネスエンペラーの姿を捕らえた。

 

「きゃん!」

 

 今まで低い声でキャラを演じていたダークネスエンペラーからは考えられない程の高い女性を思わせる悲鳴が上がった。

 

 ……ダークネスエンペラーはワンパンで沈められたのである。背後を向くとカイがいた。しかし、カイが浮かべた懐疑的な表情と次に発した言葉で何故ワンパンかは容易に判断できた。

 

「これで……終わり?杖で反撃しただけ……」

 

 カイが強すぎるのではない。ダークネスエンペラーが余りにも弱すぎたのである。ダークネスエンペラーは柱に横たわり頬を押さえながら、少しだけ泣きそうな顔を浮かべ言った。

 

「………………邪眼解放前の私にここまでやるとは……。くくっ……では見せてやる邪眼解放――」

 

 俺は思わずダークネスエンペラーの正面に立った。これ以上彼女に発言されると非常にむず痒い気分になる。後少しだけダークネスエンペラーの黒歴史になることが可哀想に思えた。

 

「…………成る程つまり邪眼状態の私に恐怖を抱いているからこれ以上戦うなと……。あのミジンコに同情するか……。だが優しさは我らには毒……。くくっ……」

 

 ――もう喋るな!俺の中学時代をこれ以上想起させないでくれ! 

 

「プリンティス今度こそ実力行使で処置する……」

 

 俺の方を見て、カイが杖を向けた。

 この時俺はやっと気付いた。ダークネスエンペラーの前に立つ行為。それは自殺行為であると。

 

 皮肉にも優しさはどうやら俺には毒だったらしい。

 

 

 

 

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