格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜   作:tetois

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第二十一話 反撃、そして

 

 

 

 

「……」

 

 カイはキラーの戦いを見て、ただ沈黙するしかなかった。以前のように一方的で卑劣な戦い方に異議を唱えるわけでもなく、沈黙を貫いた。

 

「オラァ!」

 

 地面に俺を引きずったキラーはその後自身の前に俺を置き、髪を離す。そして膝蹴りをし、俺を後ろへと飛ばした。

 

 体感では前の骨馬よりは余裕で強い。

 

「……いたぁ!」

 

 解放されたと同時に俺はわざとらしく可愛げに叫んだ。演出も込みで。だがキラーは演出だと気づかない。

 

「いい悲鳴じゃねえか……。へへ……」

 

 キラーは愉悦に溺れた。溺れるがあまりに自身の力をこれでもかというくらいに過信した。カイはキラーがどういう末路を迎えるかとっくに分かっているというのに。

 

 俺は元々ヒール役だ。ヒールという者は希望を持たせて一気に奈落に引きずり落とし、絶望感を与えなければならない。相当性格は悪いかもしれない。だがいつまでも我慢できる程、出来ている人間では俺は決してない。

 

 ――もう少し遊んでやるか。

 

「うわーん!髪がぐちゃぐちゃ……」

 

 地面に女の子座りをしてさらにわざとらしく泣き演技をする。目は笑っているが。

 

 だがキラーは分からない。自分の力が通用できているのだと、周りに誇示できているのだと、カイより自身は上なのだとそう思っている。

 

 だからキラーはまだ痛めつける道を選んだ。キラーは自身にさらにバフ魔法をかけ、黄色いオーラを爆発させた後、座り込んで泣いている俺をまだこれからだと言わんばかりにサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 

「ひぃん!」

 

「ふはは……」

 

 少女の悲鳴と粗暴な男の笑い声のマリアージュ。ダンジョンに何度も何度も響く。

 

 だがキラーは何度もそれを繰り返すにつれて表情がどんどん変化する。

 

 キラーが蹴り飛ばす。

 ――泣きながら起きる。

 

 蹴り飛ばす。

 ――起き上がる。

 

 蹴り飛ばす。

 ――起き上がり続ける。

 

 キラーの表情は愉悦から懐疑へと変化した。明らかに一方的だというのに不思議な程に目の前の魔法少女は諦めが悪いのだから。

 まるでこの先勝利できると確信しているかのように。正義は何があっても勝つのだと確信しているかのように。

 

 やがてキラーは自身の格闘センスに疑いを持つようになった。カイの元に近づく。

 

「貸せっ!」

 

「何を――」

 

 無理矢理杖を奪って自身の慣れていない氷魔法に手を出した。

 

 

「く、くたばれえええ!!!」

 

 キラーから放たれる巨大な氷の結晶。

 

 ――ここらでおしまいだ。

 

 笑みを浮かべ、俺は拳を氷の結晶へ突きだした。氷の結晶が砕け、破片がキラーの右の手の甲に突き刺さる。

 

「がっ……」

 

 氷の結晶はキラーの右手を凍らせた。キラーはそれを見つめ叫ぶ。

 

「おい!カイ!こいつどう――。ごふっ!」

 

 凍った手の甲を気にする間に俺は懐に潜り込み、脇腹にアッパーをかましていた。キラーの姿勢が下に行くのを確認した後、ヘッドロックで頭を固定。そして、キラーを抱えたまま、宙に三回転し、地面へ叩き付けた。

 

「か……かは……」

 

 キラーは白目を剥き出しにし、意識不明へと陥った。

 

 ――こんなものか。

 

 スッキリはした。

 だが依然としてどこか満たされない気持ちが続く。

 

「カイとかいう人――!」

 

「……はい」

 

 カイを俺は呼ぶ。カイは冷静な顔で返事をした。

 

「すみません。これって治ります?」

 

 魔法専門外の俺はキラーの手の甲を指した。あくまで人殺しまでにはなりたくはない。格闘は俺は制御できるが魔法はカイにしか分からないのだ。

 

「ああ……治りますよ。それはそれとして……」

 

 カイは杖を俺の方に向ける。

 

「貴方は私の敵だとお忘れではないですか?……キラーを倒せたとしても私は退く気はありませんよ」

 

 いつも通りの冷たい声と表情だった。

 ――まだ諦めないか。

 

 しかし、それが嬉しかった。

 

 ――続きができる。しかも今度は正々堂々と。

 

 ……満たされない感情はそれだった。

 

 俺はいつの間にか笑みを浮かべ、戦闘態勢に入った。

 

「……一瞬で終わらせる」

 

 その瞬間、カイは杖の頂点に蒼色の強大なオーラを溜めた。そのオーラはキラーの比ではなく明らかに二回り大きく、感じられた。

 

 この攻撃を受けずして俺とは名乗れない。正面から受け止める。

 

「……………………!」

 

 呪文のような言葉を唱えた後、杖からカイの奥義が繰り出される。

 

 俺の前に立ちはだかるのは半径三メートル状に取り囲んだ氷の檻と全てが茨でできた氷の樹木だった。

 

 次々と襲いかかる氷の茨、そして縮小し、俺を氷の押し花にしようとする檻。

 

 ――殴る。

 

 ――殴る。

 

 ――ひたすら殴る。

 

 まるで難攻不落の刑務所を攻略する脱獄犯の如く。

 

 氷の茨が突き刺さり、腕が次々と凍る。それだけではない。凍結の侵食は足にも肩にも進行する。だが恐れという文字はない。退却という文字もない。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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