格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
カイは手を緩めない。俺が檻や茨を破壊する音が聞こえようが関係なく、新たな檻や茨を生やす。彼女は看守だ。どんな脱獄犯の脱走も許さぬ冷酷無慈悲な看守なのだ。
だがどんな刑務所だろうが必ず穴は存在する。そう絶対に。
俺は抵抗を続ける。氷の影響はいつしか首やももにまで到達していた。感覚は消えるばかりだ。俺を突き動かすのは生物としての闘争本能ただ一つ。
そしてついに刑務所に光が訪れる。氷の茨、そして檻を破壊し、脱走までの一筋の道が形成された。俺は走る。氷まみれの身体で。
「くっ……」
カイは氷のシールドを目の前に三枚設置した。だが、杖を持つ腕と支える足は震え、それが今できるやっとの抵抗のようだった。それに俺は正面から迎え撃つ。
――一枚目。
凍結した肘で倒壊。
――二枚目。
右手で粉砕。
――そして三枚目。カイのすぐそばだった。
そのまま、凍りきった右手で右ストレートを決め、カイの顔ごと殴り飛ばした。杖を落とし、地面に倒れそうになるカイ。だが俺は容赦しない。
――決める。
カイの腹をめがけて、俺はデュラハンの時にしたあの技を繰り出す。
「氷像のプリンキック!」
アルカトラズからの脱出。それを祝福するかのように身体やダンジョンから氷が割れる音がした。
★
「うん?……成る程」
ダンジョンにて先に目を覚ましたのはカイだった。起きて即座に自分の置かれた状況を理解していた。
キラーはというとまだ伸びていた。ダークネスエンペラーは戦いに夢中になっている内にどこかに消えていた。流石に途中から寒さに耐えかねて逃走したのだろうか。
にしても目覚めるのが七分程と非常に早い。魔法主軸に戦うほどだから保護魔法で多少ダメージを軽減していたのだろう。
カイは直ぐ様立ち上がる。しかし、臨戦態勢を構える様子ではなく、ただ立ちあがっただけだった。
「……捕まえないんですか?」
俺は疑問を呈したがカイは何食わぬ顔で目を合わせずに答えた。
「必要なし。帰還する」
その言葉にはどこか強い確信めいたものが込められていた。
そして俺は目的だったことに移る。
「……ありがとうございます。私を通報したのは誰なんですか?それだけ聞きたくて……」
「ブログ。そこで分かる」
ブログ?セツナのアレか?俺は全く心当たりのない原因に心中で驚きを隠せなかった。
そんな中でもカイは会話を続ける。
「すまなかった。このバカのスマホ代はいつか返却する。勿論今日の配信も」
そう言った後彼女はダンジョンから姿を消した。
俺は複雑な気持ちを持ちながらダンジョンを後にした。スマホが帰ってくるまでの間、配信はできない。
★
やはり、そうか。
私ダークネスエンペラーは確信していた。プリンティスという者が去ってからというもの、私にはあのプリンティスの破壊の際の狂気のはらんだ瞳だけが見えていた。
あの狂気。そして敵対心が芽生えたら最後全てを粉塵に帰す力。
間違いない。やはり彼女は……
「――闇の魔獣を身体に宿した契約者」
私はニヤッと笑った。
プリンティス。なんて罪深き者。そうだ私たちはただ平穏に過ごしたい。それだけの願い。だが闇に囚われてしまえば平穏とは程遠い位置に来てしまう。そういう生き物なのだろう。
――理解するぞ。
私は唯一の観測者として、理解者として彼女と手を取り合わなければならない。闇の儀式を彼女と行わなければならない。そうだ私たちはこの瞬間、運命共同体となったのだ。
闇から生まれし者は惹かれ合う。それが摂理なのだ。ならば私はプリンティス。いつまでも君を観測し、最大の理解者として一緒にい続けようではないか。配信などもはや関係ない。
「くくっ……あはは……!待っていろ!私はプリンティスとともに孤高を追求する!」