格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
私の最高の技を突破した。彼女を信用たらしめるのはそれだけで十分だった。ハッキングをする者とはどういう存在か。それは自身の実力に見合わない方法で恩恵にあやかろうとする者だ。彼女には実力がある、自信がある。そんな者が一体何の理由でハッキングをするというのだろうか?
そう考えながらダンジョンの出口へと着実に向かっていた。キラーはまだ伸びている。一体このバカは何時になれば……と愚痴をこぼす。
「帰還しなければ」
出口はダンジョンの中継地点。10の倍数の階層に転移装置が存在する。私は五十一階層にいた。あと一階層行けば辿り着く。
私はダンジョンを歩く。だが突然背後から衝撃が走る。
「……っ。キラー……」
攻撃したのはキラーだった。彼が私の背後から殴ってきたのだ。
「プリンという奴を倒す。それが俺達のミッションだった筈だ!クソアマ!」
「……」
私はキラーを睨み返した。だがそれと同時に違和感を感じる。普段ならばこの時間だと五十一階層は帰還する者が他にもいるはず。しかし、余りにも静かすぎる。聞こえるのはモンスターの声と周りの環境音だけだった。
しかし、これに加え、一つ音が加わる。拍手の音。
「キラー。プリンは規約違反者。それを罰することすら出来ない者など消えればいい。だっけ」
「キラーさんだろうが!後輩!」
見られない人物。朱色を基調としたジャケットにバイクのヘルメットを被った男。指輪を右手の人差し指にはめている。
「……誰?」
「三人目のウルフ。ライ後輩だ」
三人目?私は三人目など採った覚えはない。私に微かに混乱が生じた。だが、キラーが何をするか、それは少し経ち理解した。
私はここで捨て駒として捨てられるそうだ。元々ウルフは私一人だけでできる範囲でダンジョンの治安を守る組織だった。ダンジョンの平和を守るそれが目的だった。しかし、キラーが入ってからは勝手が変わった。彼は平和ではなく自身のイライラを正義として処理するために不確かな情報で犯罪者と断じた者を必要以上に痛めつける。関口と勝手に協力関係を結んだのもキラーだった。
だから私はキラーの目をごまかしつつ、戦いながら相手がどのような人間かということを判断し、その後、単独行動で彼の被害に遭わぬようにダンジョンから一旦追い出し、そしてほとぼりが覚めた後に戻していた。幸いにも関口はランキング上位以外見えておらず、名前をすぐに忘れるので任務完了の通達さえ送れば再依頼は来ない。キラーも一人一人の顔なんぞ記憶していないたちだ。
しかし、キラーが何となく私がひそひそ動いていることへの不信感、不満は以前からあったことは感じられた。だから勝手にライを自分のグループに密かに引き込み、私に謀反を起こす準備を整えていたといったところか。
「……」
「何だ?お前が正義を実行しない。だから消されるんだよ!」
「今後は先輩が主導を握る。安心して逝け!」
体力はプリンとの闘いに浪費している。時間稼ぎをし、ダンジョンの外に出る。それが私のできる唯一だ。
即座に私はその場から離れようとする。だがライは魔法で巨大なスライムを召喚し、私に襲わせる。スライムは様々なバフ魔法を与えられていることは察せられる。
ライは召喚系の魔法使いだ。
スライムは逃げる私に猛スピードで目の前に現れ、突進してくる。
――避けられない。
私は保護魔法で身体を守りつつもスライムに跳ね返され、元の位置へと戻される。
倒れた目の前にライがいた。
「安心して逝け。そう言ったはずだ」
表情や顔の様相はヘルメットが邪魔をしてよく見えない。しかし、どこか不気味な感触を感じることだけは確かだった。
――っ……!
ライとスライムだけには構ってはいられない。背後からはキラーがない体力で私に食らいつき、攻撃しようと襲いかかる。後ろの気配を何とかギリギリ察知し、床に氷属性を付与することでキラーの攻撃を滑らせ、逆にカウンターの杖をお見舞いする。
キラーはまだ体力は満身創痍状態だ。先にキラーの意識を失わせることを目標にした。
吹雪を再度吹かせ、ダンジョンを銀世界に変化させ、キラーの意識を狩る。そしてライを片付ける。私はフィールドを氷魔法で変化させようとした。
だが体力が追いつかない。氷魔法を使うと身体に分かり易い負荷が掛かった。
体調の悪化、手の震え、視界のブレが確実に侵食する。
簡易的な回復魔法しか使えない私には相当応える。
「……」
銀世界にそれでも染める私に対してライは冷静だった。スライムに焔火を発射させようとする。
吹雪や氷に包まれようが、スライムは何も知らぬ顔で突き進み、私に迫る。
私は気づく。このスライムが種族の中でも五本の指に入る程の実力を持つマグマスライムだと。
マグマスライムは半端な氷魔法に対してメタを持つ。今の私にとって天敵だった。
立暗みながら目の前に突進するマグマスライムに集中し、全力の氷のビームを放つ。
彼女の時よりは明らかに威力も範囲も低下していた。
――そして、集中と体力の二つが私に負けを届ける。
後ろから現れたキラーがオーラを全開にして放ったパンチ。それに反応する余地は少ない。
目に見えたのは彼が殴りかかる拳。私とは宙に舞い、氷のビームはズレが生じた。
身体全体に走る衝撃、そして襲いかかる炎。
私は意識を落とした。銀世界とは対称的な血まみれの身体で。