格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
あの配信から彼女、プリンティスと連絡が取れない。私は彼女の身を案じていた。
七十五階層まで攻略雑談配信をする。云わば彼女にとってはファン交流をする為の配信だった。しかし、ダークネスエンペラーなどの乱入、そしてキラーがスマホカメラを破壊したことにより、彼女の配信は消えた。
コメント欄で戦闘を望む声が大きいのに最後まで戦闘しなかったのは彼女が真面目だからだろう。真面目な余り、視聴者全体の目を気にし、トラブルを起こすことは出来なかった。
私は特にキラーと名乗る男に憤りを感じていた。プリンを犯罪者と断定し、無抵抗な彼女に向かって暴虐の限りを尽くし、配信を台無しにした。
もしもその場にいたら代わりに殴っていたと思う。それすら出来ず、再会して励ますことすら出来ない今の自分が情けない。
彼女はあの後どうなっているだろう。悪い想像が頭にずっと駆け巡っている。
……でも私だけは知っている。プリンはハッキング犯なんかではないと。拳だけで語る純次のファンなのだから。
そう考えた時に私は思い出した。
――私も純次のファンなんだ。
ならば行動しなければならない。もし彼女に出会って何か役に立てるならば、オークの時の借りを返せるならば、ここで動かず何がファンか。
とにかく彼女に会おう。あの日と同じように。
★
配信の翌日、私はあの日出会った場所、ダンジョン待機所にて彼女を一日待っていた。朝10時から昼、そして夕方、空の色が変わるまで待ち続けた。
されどもこの日は彼女は姿を見せなかった。ダンジョンの出入り口から人影が現れては注視するということを繰り返したが私の望みに反して彼女は来なかった。
「もうこんな時間……。でもまだ一日目だから!大丈夫」
翌日、この日は雨の日だった。午前中はゲーム配信があったので、午後からの待ち構えだ。ポツポツと外から雫が落ちる音が聞こえる中、私は編集作業をしながら待ち続ける。パソコンのキーボードを叩く音が響く。
だがこの日も彼女は姿を見せなかった。
帰り道、私は軽食を買うためにコンビニに立ち寄る。窓には水滴が付き、屋根からポタポタと雨が垂れている。
「うーん。何しよう……」
何か無性に甘い物を食べたい気持ちだった。プリンとか、ティラミスだとか。スイーツ類が並んでいる棚に向かおうとしていた。
が、足が止まる。その棚の反対側に陳列していた商品。それがどうしても何となく食べたくなった。プリンやティラミスより手間はかかるけれども、その手間が楽しかったから。他の必要なモノは幸いにも自宅にある。
そうして素だけ購入し、コンビニを跡にした。
雨宿りを暫くしたというのにまだ、いや入った時よりこころなしか強く降っていた。
★
翌日、快晴。朝ベッドから起き、今日もダンジョン待機所へ行こうとしていた。スマホを寝ぼけた頭で触って、朝の支度をしながら情報収集に勤しむ。検索するのはプリン、そしてキラーという男に関してだ。
だがクークルを開き、検索しようとした瞬間、衝撃的なニュースがあった。
「え……?これって」
ニューストピックは迷惑なダンジョン冒険者の男、正義の魔法少女に成敗され、話題にというもの。
迷惑、ダンジョン冒険者、魔法少女、これらから連想できるのはプリンのあの配信以外なかった。
ニュース詳細を急いで確認する。どうやらあの男、キラーは以前からダンジョン配信者に勝手に犯罪者の烙印を押し、襲っていた問題のある者だったらしい。当然、引退に追い込まれた配信者からは不満が溜まっており、小さな範囲でありながら話題になっていた。
ライブ配信中、確かにあの男が来た時、一部の視聴者が彼に対し怒りのコメントを打っていたことを覚えている。プリンはもしかしたら対応中だから見ることはできてなかった可能性が高いが。
ニュースに貼られていた元動画を確認するとそれはプリンが投稿主ではなかった。動画も雑音まみれのブレッブレだが確かにプリンがあの男を倒していたということは分かる。動画のコメントのとおりにスローで見れば分かった。
「はあ――良かったあ――!」
あの男に処刑されることなく、どうやらプリンは無事だったことに安堵し、胸をなで下ろした。そして運良く誰かがこの動画を流出したことでプリンの評判も良くなっている。
チャンネルを確認しても登録者が以前よりやや増加しており、話題性もある。流出した者は誰かは不明だが、とにかくその人に感謝だ。
そして――私は改めて思った。プリンに会う必要があると。
彼女は恐らくスマホを破壊されたこと、そして更新が一切ないことを考えると配信ができない状況なのだろう。この勢いに載ったタイミングで配信できないのは痛い。情報も彼女が確保できているかすら微妙だ。
ならば私がスペアのスマホを彼女に貸して、配信できるように背中を押す。それがあの日の借りを返せる方法だ。それに事件が起こり、どうしようか彼女は悩んでいるに違いない。この話題を伝え、元気づけることも可能だ。
「うん!頑張ろう!」
私は宝物を撫でて改めて決心した。