格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
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翌日、ダンジョン待機所にいたがこの日も出会うことは出来ず、家へと帰宅した。
その深夜、何となく外を歩きたくなり、家から出た。雨はとっくに止んでいて、地面に水たまりがポツポツと溜まっている。傘は必要なかった。
その道筋のことだった。ただ一つの街頭が暗い住宅街を照らしていた。近辺には古いアパートや一軒家が密集していた。
目の前に。女の子がいた。普通の女の子とは違う。魔法少女風の格好。暗い中微かに右手が白い何かで包まれているように見え、髪に何か付けているかのようだった。
言葉より先に身体が反応した。気がついたら彼女の肩に手を置いて、呼吸が乱れていた。
少女は振り向く。その顔は忘れもしない、記憶に焼き付いていたあの人だった。彼女は目を丸くし、驚きの様子を隠しきれてないようだった。
「あ……?え?」
「やっと会えたあ!」
プリンは幽霊でも見たような顔をしていた。それはそうだ。彼女からすればあきたんとは出会うことはないと思っていてもおかしくはなかったのだから。プリンの発した最初の言葉はいつも通りの少女のそれとは異なっていた。私の知らない彼女を見たような気がする。
「配信もしかして出来ないんじゃない?」
「そうですね……。今ちょっとスマホがあの事件で……ネットもあれ頼りだったので評判が分からず困っています」
プリンが不安の声を上げた。私は思わず口を歪めた。彼女が思っている不安は杞憂に終わるのだから。私の一言と記事で彼女は直ぐ様笑顔になるに違いない。
「評判の話だけど――私知ってるよ。あ、それよりまずは借りを返さないとね」
私が取り出したのはスペアのスマホ。
「これで配信復帰しよ?」
「え、いやそれは……悪い――」
「ほら持った持った!」
プリンは断るだろうと先に予測し、言葉を言い切る前に彼女の手に無理やりスマホを押し込んだ。
「……これは私がやりたいことだからさ」
「……」
押し込んでなお彼女の表情は複雑だった。私の行動に喜んでいないわけではない。何かとせめぎ合いになっているようなそんな顔だった。
だから私は良い機会だと思った。彼女に追い打ちをかける。
「それにあの配信の評判だけど……」
悪戯に言葉をわざと詰まらせ、あのニュース――プリンが正義の魔法少女だと話題になった物をスマホで見せた。きっと喜ぶだろう、配信をしたくなるだろうとそう確信した。
だが、反応は意外な物だった。
「……うーん」
「どうしたの?あ、これも見る?チャンネル登録者も伸びていてさ」
それでもプリンのバツの悪い顔はもとに戻らない。暫くして彼女は声をあげた。
「話すべき……か……。まずは謝罪から……」
彼女は突然私に対し頭を下げた。
「私ウソついてるんです!私コラボしないのは事務所じゃなくて――」
それから彼女の話を聞いた。コラボしなかったのは事務所ではなかったこと。彼女には自分の実力で登りたいという目標があったこと。
彼女の独白には確かな覚悟とプライドがあった。どれほど本気で彼女が取り組んでいるか――それは一瞬で伝わった。
「ごめんなさい!」
「配信者はやりたいことをする人が集まっているからね。私も理解できるよ。だから顔あげて」
とは言ったものの……私は少しだけ寂しかった。確かにパンケーキも楽しかったけれども……。コラボもしたかったなって気持ちもどこかにあった。今は一人のファンとして。でもそれは一生叶わないらしい。
そして何故彼女にとって本来喜ばしいことが素直に喜べないのか。それはすぐに分かった。
「で……プリンはこれを自分の力じゃないと……だから認められないって?」
「はい……そゆことです。すみません気を遣わせて。私の問題ですが、私こんな称号なんて向かない方なんですよ」
それから彼女の瞳は異常な覇気を感じられる程鋭くなった。私は彼女の本質に触れると無意識に感じ取るように。
「私はエンタメを自分の力で広めたいわけで――。他人の影響ではどうしてもというか……。特に今回は卑怯者だと思います。人を助けるならまだしも暴行して話題をとるなんて。試合ならまだしも」
言い方に少し私は引っかかった。まるで試合を行ったことがある前提で話しているような物だから。だが一先ずは放っておいた。
「私こんな形で人気を取るくらいなら……やめようかなと思います」
「え……!?」
いきなりの休止発言。私は彼女が言葉を発した瞬間、驚きを隠せなかった。
「もう一度一から出直そうかなと。変装スキルで姿を変えて。この事実を知った時、そう思いました。……どうしても私には譲れないプライドがあります。ごめんなさいこんなややこしい人で」
事件の反響を嬉しいだろうと決めつけ、伝えた結果、逆効果になった。私は彼女の恩返しをするどころか仇を返しただけだった。一方的な思いは視界を歪ませるのだと実感した。
――だが、私は恩を貰ったままだとどうにも気持ち悪い。彼女のプライドと同じように。だから彼女に少しだけ意地悪な言葉を投げつけた。
「一つ言うね。……このまま活動を終わらせても卑怯者だよ。だって……私たちは配信者だもん」
私はいきなり純次が引退した時、とても悲しかった。プリンのファンとして、同じ人にそんな思いは絶対にさせない。
「エンタメを届けたいんでしょ?だったら自分の目標、プライドを壊してまでも届けなきゃ。ステージを立った以上、もう降りる道は……ない。人の楽しみを奪う権利なんてないって私は思う!」
熱く語ったことを話し終えた時に気がついた。でもその話を聞いて……プリンは逆に爽やかな笑顔を浮かべていた。
「……そうですよね。あきたん。止めてくれてありがとうございます」
「思い出したことがあってね。それを思うとどうしても。唯一あの終わりだけはまだ――」
「最悪の気分……でしたよね」