格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
"おいなんだこのコメント欄!?"
"ラブラブしすぎやろ"
"あれ?こんなの書いた覚えないぞこわ!?"
"ライブ見てたら寝落ちしてたいまどこや"
"てかプリン肩出血してんだけど"
"エヴォラド時より傷ついてね?"
"誰と戦ってた?"
"分からん記憶にない"
霧が晴れたと同時に正気を取り戻す視聴者たち。魅了され操られていた時の記憶はどうやらないらしい。
「えっと……記憶にないと思いますが……魅了効果を持つサキュバスと戦闘をしてました」
"マジ?えちち見たかった"
"これあれか俺ら正気じゃなかったと"
"どんな戦闘すればこうなるんだよ"
"さっきゅんもう一戦!"
"魅了こわ"
"てかこっちまで魅了飛ぶとかそのサキュバス絶対やばいやつで草"
「いや――皆さん随分お楽しみでしたね!私のことを放ったらかしにしてね!うんうん」
冗談交じりに重い女プリンを演じてみる。目に棘々しさを込めつつ、影を重くした満面の笑みを浮かべ。
"おいおいやばいやばいやばい"
"お怒りだあ!"
"エヴォラドオーク行き確定"
"胸が小さいとか言いません"
「うーん……私もこうしたら夢中になるのかな?」
下唇に人差し指と中指を近づけ、そっと優しく添える。カメラに向かって届けと言わんばかりの視線を向けそして。
「好き好きになあれ。んっ。ちゅっ」
投げキッスをした。
「これでどっちが好きになったかな?サキュバスさん?それともわ・た・し?」
"ごめんなさい"
"私です"
"好き言っとけ殺される"
"これからは魅了されないように耐えます"
「うん!また上書きしてあげるね!」
"ヤンデレこわい"
"調教される"
"上書き(暴力)"
"DV彼女やめてね"
ヤンデレを休止中に学んでいた成果が出た。コメント欄の反応を見て思わず笑みが溢れた。
まあその純粋な嬉しさの笑みですら視聴者は恐怖する反応を見せるわけなのだが。
サキュバス戦、オーク戦でそこそこ体力は消耗したがまだ配信はできる。むしろチャレンジしよう。自分が何処まで行けそうなのか。
その過程で男が言っていた正体不明のモンスターにも出会えたら万々歳だろう。
★
百二十五階層から少し離れた階層に登った時。新種のモンスターも出くわしはしたが俺にとってはそこまで苦戦しうる強敵というわけではなく、捌くことが出来ていた。レア種もおらず、ある程度平和を維持されていた。
良い機会だと、俺は視聴者に聞いてみた。
「そういえば私少し耳に挟んだんですが………正体不明のモンスターがいるらしいですね今。知ってますか?」
"あれやばい"
"何かドラゴンぽい?スレでみたが"
"逃げてきた人のスレにある"
"知らない"
"近づくなとは知り合いから聞いたな"
どうやら正体不明のモンスターの詳細はスレにあるらしい。まだ何も起きていない今。見ておこう。そう決心した。
「少し見てみますね――」
スレを開く。こういうちゃんねる系は開くことは経験上殆どないが操作は覚束なくは無かった。
「ふむふむ……」
情報によると正体不明のモンスターは火のブレスを吐くドラゴン。身体は硝子やダイヤモンドのように銀色に光り輝いているらしい。
交戦して逃げたダンジョン攻略者もいるらしく、一時そのドラゴンにパーティーを壊滅されかける程の被害を出したらしい。
中々の問題児だ。しかもドラゴン。今まで戦ったことがない。しかもスレから見るに出没階層は百三十五階層あたりらしい。
"あのう……"
"なんかにやついてません?"
"ま、まさか"
"いやいやいやいや流石に"
"肩やられてるしな"
近いし、強い。なおかつ初ドラゴンにして正体不明。
「――よし!私行ってこようと思います!」
"やっぱり――"
"知ってた"
"傷関係なし"
"さっきのコメントのやつら思いっきりフリで笑う"
"ドラゴンきったああああ"
"人外魔境ダンジョン決戦定期"
行くしか選択肢はない。如何なる傷を負おうとも目の前に強敵がいれば出陣する。それが俺の今までやってきたやり方だ。
……ところで百五十階層のボスはどんなやつなんだろうか?流石にドラゴンよりは……弱いのか?
★
百三十三階層。そこで雰囲気が一変した。最初に反応したのは嗅覚だった。階層に登った瞬間、それまでとは明らかに強い血生臭い匂いが鼻を突いた。
ダンジョンにも異変が起きている。柱はいくつも倒壊し、松明の火はどこもかしこも消えている。野生のボムスライムの横を通り過ぎても襲う気配はまるでなく、ただ縮こまって震えているだけであった。
「静かですね……」
静寂の中、俺はドラゴンを探す為に歩く。暗がりの道を進めど進めど何もない。モンスターは一体何処に陣取っているのか?
「ちょっとこれ使います」
ダンジョンに落ちていた折れた松明にマッチで火を灯す。多少は視界はマシになりつつあるが分かる範囲は目の前くらいだった。
「たっ……」
その為に足元に何かあっても気づかないままコケてしまう。何があったのかと足元に松明を向ける。
――そこには見知った顔が、大量のキズを負い気絶しているようだった。
「――キラー?」