格闘家世界チャンピオン、敵なしだったので引退しサバンナに行きジャガーを狩る〜現代ダンジョンが発生したので帰還、美少女になって配信します〜 作:tetois
「ライ来た。何する」
僕はいつも通りのヘルメットを被り、深夜、ダンジョン待機所の近くの公園でキラーと集会を開いた。街灯は一つもなく、夜風は冷たい。まさに集会をするにはぴったりの所だった。
呼び付けたキラーはというと焦りの面を見せていた。一体何があったのだろうと考えているとキラーが言葉を発した。
「ウルフ出るぞ!俺は……ドラゴンを狩る!」
「……は?」
一瞬理解が出来なかった。何しろ数日前まではまだ待機してろと言っていたキラーが急にドラゴンを狩ると言い出したのだから。
「それはつよくなるため?準備?」
ドラゴンを討伐する。それは対プリンティス戦のためにレベルアップするための手段ではないかと思った。ダンジョンの中でもドラゴンは相当階層を上がらなければ出会うことすらできない強敵。だから討伐するのかと。だがキラーは直ぐ様首を振る。
「いや違う。……ドラゴンを討伐しなければ、プリンティスの復讐すら成就できない可能性がある」
それは僕にとっては意外な答えだった。というかキラーは急に頭がおかしくなったかとも思った。ヘルメット越しに顔をしかめているとキラーが説明を続ける。
「関口がしくじった。奴は俺を裏切り新種のドラゴンを出しやがった!死者も多数!ふざけるな!」
関口。その名はウルフに正式加入する以前からキラーに散々聞かされた。彼はどうやら犯罪者に関して情報提供してくれる協力者だった。そして父親はというと関口剛三というダンジョン管理局関連の者でモンスター、ダンジョン管理を任せられているらしい。
「キラー。それが?プリンティスとどう?」
「じゃあ説明する。新種ドラゴンは百階層あたりで出没させている。プリンティスは最近百階層にいると目撃情報もある。もういいか?」
「いや」
「つまりだな。新種ドラゴンはプリンティスへの刺客だ。関口はプリンティスを直接始末したいらしい」
……なら良いじゃないか。放っといても目的は達成される。手を下す必要もないと、僕はそう思う。
だがキラーはその考えを見透かしたかのように僕を見つめ、答えた。
「さてはドラゴンに始末させたらいいとそう思っているな。違う!」
その否定にはキラーの強い意志が込められていた。そして関口への怒りも。
「俺はプリンティス、あいつに直接侮辱されたんだ!だからあくまで後悔させるために嫌がらせをするのは俺であるべきだ!」
「はあ……」
ほんとうにプライドが高く面倒くさいのがキラーという人物なのは僕も承知していたが、今回ばかりは中々酷い。しかも関口を裏切り者と評してはいるがそもそもプリンティスの復讐のために余計な連絡は必要ないと断じて絶ったのはキラーの方で関口を責める権利はキラーにはない。
「だから出陣する!そしてあのクズに復讐し、ハゲの汚名を晴らす!」
「きにしてたのネットの悪口」
僕の言葉を素通りする程にキラーは燃えていた。静かで冷たい風の吹く公園の筈なのに、なぜか彼の周辺だけ赤いオーラが吹き出ているような錯覚が生じた。
だが、僕は無謀だと思い反対した。
「ドラゴンならキラー無理。やめるべき」
キラーの威勢は良い。ただそれだけだ。キラーの実力では勝てない。そう確信できる。そもそも調べたところドラゴンは生前のカイでやっと勝てるレベル。しかも有利属性でだ。どちらも満身創痍の状態だったとはいえ、僕の手助けなしじゃないと勝つ希望さえ見いだせなかったキラーには到底勝てそうにもない。
なりより、キラーは戦闘IQは僕から見て非常に低い。彼が戦闘中に考えているのは正義実現と相手の嫌なこととストレス発散しかない。僕から言わせれば単純すぎる。彼には危機管理能力も無ければ自身の力を客観的に見る力も無い。
「いや俺はやる!プリンティスに屈辱を与える権利は俺のものだ!」
「……分かった頑張れ」
やんわりと否定したが、キラーは止まるつもりがない。非常に困った男だ。だから僕はエールを送るが……。
「お前も行くんだよ!」
「え――……」
キラーは無理やり連れて行く気満々だった。僕は本気で巻き込まれたくない。安心安全な環境でいたいのに。
「それによお前には重大な任務がある!」
「ふえ……?」
思わず驚愕した。何をさせるつもりなんだこのバカは。
「ドラゴンの出現場所だが……百階層付近以外何も情報がない。任せたぞ!」
キラーは調べ物を僕に全部丸投げした。全くとんでもないブラック冒険者サークルだ。
面倒になった僕はこれ以上キラーが何か言うのを聞きたくなかったので乗ってきたバイクに腰掛け、エンジンをオンにし走り去った。